ネットゲームと点取りゲームと仕事と
職場でリーダーや所属長の代理を度々やるようになって、前回ご紹介した某TPS(対人)ゲームでの全体主義と個人戦績の関係は現実の仕事のそれに近いものがあると気付きつつあります。
元より多くがそうなのかも知れませんが、私の携わる仕事は、順々にノルマをこなし、次の仕事へと移ると言う繰り返しです。
正確には時間で区切られているので、予定の時間までに仕事Aのノルマが届いていない場合、時間をオーバーしてノルマをこなすか、ノルマを諦めて次の仕事Bに移るかを、リーダーや所属長が判断します。
当然、先のノルマを強行すれば次以降の仕事に使える時間が減る事になり、大抵は何処かのノルマを犠牲にしなければならないのが現実です。
しかし、ノルマはノルマ。出来ません、と言うわけにはいかないので、リーダーは基本的に、達成を目指す算段で準備や計画を立てます。
こうした環境下で、リーダー業も小慣れてくると、やはり調子に乗ってしまうもので。
全ノルマにおいて、所属長よりも数字を出してやろう、と考え出すわけです。
創作論で書いたかは忘れましたが、自分の中の目標は“高め”に設定しておくに越したことはないとは思います。
300万円貯めようと思い立ったとして、目標額をそのまま300万円に設定するよりも、もう一声400万円貯めてみようと設定した方が300万円に到達する可能性は高い筈です。
しかしまあ、ノルマを強行するか・諦めるかと言う二択が日常的に存在する時点で、毎回攻めれば良いと言うものでは無いのは、前回ご紹介した対人ネットゲームと同じです。
大事なのは、いつ、どの数字を、何のために稼ぐのか。
ここを理解しないまま額面の数字に拘泥すると、私の職場で言えば、優先順位の低い仕事の為に、もっと大事な仕事のノルマが苦しくなる、と言う戦略的な負けに繋がります。
また、つい先ほどニュースで取り沙汰されていましたが、学校が、全国学力テストで勝ちたいが為に生徒に対策勉強を強いていた事も、数字に取り憑かれた結果なのだろうと思います。
ただでさえ、義務教育や高校の勉強と言うのは、成績だけが良くても、本人次第で、知識に使いでがないと無駄に終わりがちです。
数値上の“学力”を稼ぐ事が学校の本分では無かろう……と言うのも、まあ理想論ではありますが。
話を戻して。
ある日、仕事の開始前、上司に「今日は、この仕事Cは捨ててもいい」と言われました。
先ほど、リーダーは基本的に、ノルマをこなす算段で動く(=必要な物資が足りないような計算は原則しない)と言う“セオリー”を説明しました。
しかし、例え9割9部のセオリーであっても、時にはこう言う例外もあると言う事です。
事実、私も上司のその一言が無ければ、当たり前のように仕事Cに時間を割いていたと思います。
そして、実際にその時が来ました。
予定どおり、仕事Cのノルマには程遠いタイミングで切り上げを指示。
やはりと言うか何と言うか、上司からヒントを貰っていたのは私だけだったので、皆からは「何で?」と言う顔をされました。恐らく私が時間を見誤ったと思われたのでしょう。
ここでは何が言いたいかと言うと、上司と、私達末端の人間との見ている“目標”にギャップがあった為に起こった齟齬だと言う事です。
まあ、私が最初から他の人にも周知しておけば、その少しの戸惑いも持たれなくて済んだと言えばそこまでですがね!
前回の戦争ゲームの例もそうですが、戦略的勝利が何処にあるかを末端と共有しないと、皆、単純にわかりやすい個人戦績や、あるいは個人の利益(楽をする事)に走ろうとするものです。
あるいは、前々回のように、指導者が自分の目標(欲)を誤魔化したまま本心の向く方へ突っ走られても、下の者達はついていけませんし、ついていく筋合いもありません。
別エッセイ“パワハラ被害予防マニュアル”でちらりと触れましたが、私が、間違ったやり方をしようとしている新人に対して(緊急性の高い・お互いの距離が遠かった状況で)咄嗟に大声を出して指摘した際、私の事を嫌っているらしい先輩が、
「(出世の為の)自己PRに余念がない(笑)」
と言うような事を仰っていたそうですが。
このケースそのものがナンセンスなのは横に置いといて、そりゃ昇進や昇給は出来るならしたいです。
今、まだ入社2年目の身に降りかかってきた、こんな分不相応な立場を馬鹿真面目にやっているのも、基本的には自分の為です。
何故か? 私にはこれから、子供を四年制大学まで不自由無く育てる義務と、家のローンがあるからです。(※1)
また、ろくにキャリアを積んでこないまま、この年齢にまで来てしまっているので、次に転職するチャンスは無いものと思っています。
会社には存続してもらわないと困りますし、私を使い続けて貰わねばなりません。
昇進すれば、仮にリストラが行われても、肩を叩かれる確率はだいぶ下がることでしょう。
だから、今の職場にはよりベストになって欲しいと言う動機が自ずと生まれます。
すると、会社の為に、ある程度自分を犠牲にしても構わないと、本心から思えるものです。組織よりも自分の方が大事だからこそ。
万一、今の会社がダメになっても、リーダーや役職者としての経験は、次の履歴書や面接のネタに出来ます。
今の実力で10分前出勤ではまだ遅いと、上司に軽くお説教を食らった際、話の締め括りに「今の状況がチャンスだと言うのは理解してるんだろう?」と言われたとき、包み隠さずイエスと即答しました。
そこに取り繕う理由は微塵もないし、私が上司なら、保身と私欲をきっちり見せる人の方が信用出来るからです。
腹に一物あるか無いか……と言うのもそうですが、個人の欲と組織の目的が合致しているかどうかが可視化されると、使う方としてはかなり安心度が違う筈です。
この辺りは、以前お話しした、私が今のハウスメーカーを選んだ理由にも通じます。
うちは、がっつかなくても安定して取れているし、後でクレームになっても面倒なので。
と言う身も蓋もない本心を最初に開示した上で、トラブルの芽を確実に摘み取る為に、予算の擦り合わせはかなり綿密に行いました。
逆に信用出来なかったのは、屋根裏部屋のシアタールームだとか“夢”を売る一辺倒のトークしかしてこなかったメーカーです。
壁の断熱材を最高級品しか使っていない、と言うくだりも「品質に妥協しない」と言えば聞こえは良いですし、それも事実なのでしょう。
しかし、一方で品質過多のものをプランに組み込んで、利益を上げようと言うのもひとつの狙いであった筈です。
(※1)
私個人の話ですが、進学の時期と父親が落ち目だった時期と重なり、万一の備えが無かったばかりに、大学へ行けませんでした。
父を恨む気はありませんが、親のそれは、子供にとって不可抗力であることを、人より知っているつもりです。
客観的に見て、保険を持たなかったのは迂闊としか言いようがありませんし、役員に昇進する話が出た時に現場に居たさにそれを蹴ったのも遠因ではあります。
子供が出来ると、自分の人生のクオリティが子供のそれやハンデに直結するので、自分さえ犠牲にすれば済むと言うのは自己満足でしかなく、そう言う意味での退路も断たれるものだと考えます。
極論、死んで逃げる事も許されないのが、生んだ責任と言うものです。
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