断捨離ポイント

※今回の話にも、私の作品“死に乙女ゲーム”の序章部分について触れる記述がございます。

 ご注意ください。


 一作品につき、本一冊分のボリュームを自分に課すと、自ずと、何を見せたいかの優先順位が決まってきます。

 文字数無制限で書くとエタるリスクが高いのと、展開が冗長になって飽きられるであろうことは、この創作論でも何度か考察してきました。

 そして、小説に限らずですが、一つの話に何でもかんでも詰め込むと、個々の情報がボヤけるリスクもあります。

 特に、異世界転生と言う、常識が根底から崩れる所からはじまるジャンルを書いて感じたのが、序盤の短期スパンで大量の情報を詰め込まざるを得ないと言う事でした。

 

 先日執筆した死に乙女ゲームは、前半部分は(転生したと見せかけて)ゲームをプレイしていただけ。

 後半部分で、そのゲームの世界のラスボスに転生しています。

 これは、近況ノートでも書きましたが、たまたま私自身が少女漫画や乙女ゲームに疎かったために、よくある、

「あのゲーム(漫画)の世界に入っちゃった!?」

 と言う導入が素で共感できず「原作から先に書く」必要が生じたためです。

(普通であれば、何となく実在の作品を連想できるのでしょうか? 本来、テンプレというのも、それを省くためと言う側面もあるでしょうし)

 しかし半ば偶然ながら、この構図が幸いして、舞台の説明を分割できたのではと思います。

 前半部分では、死にゲーのお約束について説明を交えつつ“原作”クリアまでを書けば良く、後半では人物の性格など、ゆえあって“原作”とは違う所に絞って描写出来たので。

 前半で起こった戦いの勝敗は変わらないので、当然、戦闘は丸々省略出来ます(というか、“すべき”だと思いました)

 

 その他、異世界ものについて私が常々思う断捨離ポイントとしては、主人公が異世界に直面したリアクション全般にあると思います。

 元の世界とのギャップ一つ一つに戸惑う、あらゆる可能性に思いを馳せる、あるいはダンジョンを攻略しつつ冷静に検証を行う。

 作中人物としては、当然自然なリアクションではありますが、それを物語として俯瞰し、読む側としては最初から「わかっている」わけで。

 そこに、主人公と読者の温度差があるはずです。

 勿論、最低限の説明や描写は必要ですが、その為に戦闘シーン丸々一つに文章を割く必要性はあるのかどうか。

 戦闘シーンやアクションシーンと言うのは、読む側からすれば相応のエネルギーを消耗すると考えます。

 それが、小難しい特殊能力のぶつかり合う話なら、なおのこと。 

 実際、私の作品だけを見ると、一つの戦いに2話以上をまたぐ“連戦”は、ただでさえPVが失速していました。

 本当に見せたいところ、伝えたいテーマはそこなのか。

 少なくとも、死に乙女ゲームの場合、見せたいポイントは元の世界とのギャップでは無かったので、転生直後の戸惑いだとかは、ばっさり切り捨てるように省略しました。

「色々戸惑ったけど、そこは本題から逸れるで省略、今に至る」です。

 この主人公は転生後から数話に渡って「全ては自分を担ごうとするイタズラorドッキリなんだ」と自分を納得させようとしますが、

(巨人や死体を生で目撃するなど、少しずつそれを覆され、追い詰められていきますが)

 そんな当たり前の現実逃避や非常識への補完思考ですら、書いている身としては、しつこい・くどいと感じました。

 結果、原作を先に書くと言う、事実上、作品を二つ立ち上げたようなものだったにせよ、総文字数はおよそ16万文字。

 本一冊と言うには、結構な厚みに膨れ上がりました。

 

 あとは、よくありがちな“重い過去”について。

 特に、主要人物の全てを表現するには、生まれてから現在に至るまでを余さず開示しなければならないと思いがちです。

 例えば死に乙女ゲームの主要ヒーローの一人である暗黒騎士は令嬢=身分の高い女性=闇の公爵の娘に転生した主人公を憎悪しています。

 これについては、彼の幼少期にルーツがあるため、必然的にそこまで過去に遡って描写する事となりました。

 一方、別の主要ヒーローである不死王。

 彼が不死者となった経緯は一切明かされる事はありません。

 彼の親や先祖もまた、そうであったと言う情報から、何となく「彼の親族が受け継いできた特質なのかな?」とおぼろげにわかる程度です。

 その立場に対する様々な思惑はあれど、主人公が“今の彼”を理解するのに必要な情報ではなく、不死王の方から強いて言及する必要性も生じなかったので、それらの全てが伏せられたまま終わりました。

 もっと言えば“古竜の末裔”とされる人物がどうしてそうなのかや、そもそも不死王の配下たちがどうして今の場所で生きているのかもろくに語られていません。

 当然、すべての人物の赤ん坊から老後までを網羅する事は不可能で、必ず“取捨選択”は生じている筈です。

 主人公ら当事者や、読者にとって需要があるのは、どこからどこまでの過去なのか。

 今から描かれる“未来”に対して必要な過去なのか。

 案外と本人にとって“重要な過去”が、物語からすると不要な断捨離ポイントかも知れません。

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