現実に“エンカウント戦”はない

 タイトルは、今更ながら本業の仕事で感じた事です。

 人の配置を決める役割になると、一人一人の“ステータス”(不可視)を見て、常に分析する必要が出てきます。

 そして「レベル上げしなきゃ、色々まずい(※1)」と嫌でも思わされます。

 そんなわけで、何人かの(比較的)新顔の人に、新しい仕事を覚えてもらう為に配置を組み、ベテランの人に一人、指導してもらう為についてもらいました。

 つまり、その時間の戦力を一人減らして、生産性を犠牲にした配置にしました。

 これについて、私の意見そのものは通ったものの、上司に怒られてしまいました。

「数字を犠牲にするとか、簡単に言うな」

 と言う事です。

 逆の事をしといてこう言うのも何ですが、上司の言うことは尤もだと思います。

 

 これがゲームであれば、無限にエンカウントできる雑魚敵を狩り、納得の行くレベルまで上げてからボス戦に臨めます。

 どれだけ“リアル時間”を掛けて仲間全員をレベルマックスにしようと“作中時間”は一秒も経過せず、ボス敵は所定の位置で待ってくれています。

 しかし現実のレベル上げとは、日常業務の成果を落とさずやらねばなりません。(※2)

 ストーリーの進行やボス戦と並行して行わねばならないようなものです。

 例えばゲームでも、ファイアーエムブレムやスーパーロボット大戦などのシミュレーションRPGが現実のそれに近いかもしれません。

 それらの最新作ではフリーバトルも出来るのかどうなのかはわかりませんが、基本的に、一回きりのマップを順にクリアしていく方式の筈です。(※3)

 つまり、目先の戦闘に勝つだけではなく、実戦の中で新兵を育てていき、どの人材に優先して敵の撃破=経験値を回すかを考えねばなりません。

 前述二作のシリーズについては、強キャラ一人で無双するのも割合簡単ではありますが、現実ではそうもいきません。

 いくらアムロ・レイが鬼神のごとく強いからと言って、彼にばかり敵を撃墜させていては、他のユニットが育たず。

 その中から、カミーユ・ビダンやウッソ・エヴィンなどの、なるべく短期でアムロに比肩し得る後進を見極めねばなりません。(※4)

 

「初期ステータスは高いが、成長率の低い老将」

 と言うタイプの人材は、これらのゲームでは初心者プレイヤーへの救済措置と言う場合が多く、ある程度慣れたプレイヤーにとっては二軍要員でしかないでしょう。

 あるいは、昨今の外見上の“華”を優先される物語では、脇へ爪弾きにされる存在かも知れません。

 しかし現実には、そうしたベテランに終始頼らねば仕事は立ちいきません。

 また、そうした方への負担を減らすためにこそ、戦力を分散できる後進を育てねばなりません。

 更に言えば、出撃メンバーを一軍に絞らねばならないゲームやスポーツと違い、仕事や軍隊は居る人材全てを出撃させる必要があります。

 つまり、指示を無視して無謀な行動を取ってしまうような人も強制出撃になり、その動静に思考のチャンネルを割かねばなりません。

 

 そして残念な事に、現実の戦力とは流動的なものです。

 特に、頼れる老将は遠からず引退せざるを得ません。

 現実での戦力とは「毎日ボス戦をぶっつけでやりつつ、次のボス戦に備えて人材を循環させねばならない」構造をしています。

 ファイアーエムブレムなどは戦死者ゼロで進めれば物語の結末まで安泰ですし、登場人物が歳を取るほど長いスパンではない事が多数です。

 この点をゲームで経験したい場合は、やはり信長の野望や三國志のシミュレーションゲームを(ノーリセットで)プレイするのが早いかも知れません。


 また、これも本業での事例なのですが。

 我が部署にも、今年、新卒の新人が二人入ってきてくれました。

 それから数ヶ月。

 二人とも私の新卒時代なんかと違って真面目で優秀。

 私個人としては、既にこの二人を“新人”だとは思っていません。

 特に、うち一人はバスケットボールと言う団体競技を(今も)やっている関係か、動作的な知力・機転に優れており、ともすればベテラン勢に匹敵する戦力に仕上がっていると感じています。

(若さや年数の短さからくる、細かい粗はどうしても否定できませんが、私の20代の時よりずっと大人です)

 そして私は、この人と、別の発展途上にある人と組ませました。

 見事、上司に怒られました。

者同士を組ませるな! 仕事が遅れるのは目に見えてるぞ!」

 その日の成果を見るに、実際のところ、どちらが正解かは微妙でした。

 プラスが欲しい情勢下で、プラマイゼロだった、といった所です。

 恐らく、私はその人物を過大評価していました。 

 そして、上司はその人物を過小評価していました。

 “新人”とは、何時から何時までがそうなのか?

 そう思います。

 最もわかりやすい尺度としては、やはりその組織に勤続した年数が用いられる事でしょう。

「何年勤めてるんだ!」

 と言う叱責などは、それはポピュラーなものです。

 しかし現実には、その境目は非常に曖昧なものです。

 私自身は、その“新人”さん達を、今も新人扱いして計算する事を“ロス”だと考えています。

 そして、優秀な人間の自己評価が必ずしも高いわけではありません。

 実際、私の認識では余裕で出来ると確信している仕事を、

「そんな難しい事はできない」

 と本人から言われました。

 しかし。

 いつまでも、そのままで在られても困るのも事実。

 この辺り、早い段階から引っ込み思案になられると伸び代が潰れる、かつ、早い段階から心が折れられては元も子もないと言うジレンマは悩ましい所です。

 下手をすれば、私が「能力以上の要求をする」パワハラ上司に成り下がってしまいます。

 

 色々、話がとっ散らかりましたが、

 そもそも“レベル上げ”の為の環境構築と言うのは、日常の戦いとどうしてもトレードオフになってしまうと言う事です。

 必ずしも、作品をそのリアルに合わせる必要はありませんが。

 かのドラゴンボールでも、修行して力を蓄える描写を行う前提として、

 精神と時の部屋を使ったり、敵が戦闘狂で(強い相手をあえて募ってる)など、色々と理由付けに苦心してたなぁと思う次第です。

 


(※1)

 飽くまでも私の職場の話ですが、可能な限り皆が何でもできるようにしておかないと、少数の“頼れる人”に非常な負担を強いる事になります。

(※2)

 ちなみにこの時の私は、自分の仕事を前倒しする余裕があったので、自分自身を使って穴が空いた部分を補填しました。完全に付きっきりと言うわけにはいかないので、結果的に穴を埋めきれるわけではありませんが。

(※3)

 敵の無限増援を利用したレベル上げは、ここでは考えないことにします。

(※4)

 同時に、カツ・コバヤシのように、若くとも伸び代のない人材を見限る冷徹さも必要になります。

 一応断っておくと、原作のカツには高いポテンシャルはあったと思います。それを出す前に死んだので、スパロボでの評価=ステータスも低くならざるを得なかったのでしょうし。

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