古くさいファンタジーを避ける~死に乙女ゲームを書き終えて~

 思い付いてから一ヶ月半くらい執筆しておりました、死に乙女ゲーが完結しました。

https://kakuyomu.jp/works/16817139555048487982

 最近、この創作論でも取り上げておりましたエルデンリングやダークソウルのような“死にゲー”の世界観で、乙女ゲーム・悪役令嬢ものに挑戦してみようと言う、思考段階ですでに無茶苦茶な作品です。

 

 今回、曲がりなりにも“乙女ゲーム”を題材としている関係上、描写も、なるべく女性(プレイヤー)の感覚に寄せようと考えられたのが、良い経験になったかと思います。

 例えば、本作で敵の領地とされる地域は、植物の葉っぱや花が真っ黒です。

 石造りの長城や黒い鉄柵など、全体的に白黒の情景が大半です。

 それだけではのっぺりしてしまうので、日光やとあるエネルギー体の光で、草木や石の凹凸・質感など、慎重に描写したつもりです。

 この辺のイメージは、普段、お店等で何となしに見る化粧品のパッケージデザインとかウェブデザインなどを参考に膨らませました。

 あらゆる世界観に応用できるわけではありませんが、こうしたテーマカラーを決めておくと、私がかつて述べた「単色の茶色と緑色しかない、チープなファンタジー世界」から脱却しやすいのではと思います。

 

 次に、ファンタジーの華でもある魔法について。

 これが原則「水属性しかない」と言う縛りを入れました。(※一部例外あり)

 主人公側の勢力が宗教国家と言うことで“聖水魔術”と名付け雰囲気出しフレーバーができたのがまず一つ。

 先の、白黒のイメージカラーに何となく涼しげなアクセントも入れられたかな? と。

 もうひとつは、水属性をテーマに、魔法ごとの差異をつけなければならない縛りが、自ずとオリジナリティに繋がると考えたからです。

 これに関しては、以前取り上げたエルデンリングの“輝石”から着想を得ています。

 同じ、水を使う魔術でも、水圧で打撃を与えるのか、水質を毒などに変質させるのか、氷を撃ち出すのか、水圧カッターの要領で武器を作り出すのか……。

 特に、氷については以前、この創作論でも、強度の弱さから弾丸としての価値は低いとしていました。

(よくある、つららのような氷を飛ばす描写には、個人的に懐疑的でした)

 しかし、世界に水属性しかない場合、この事情が変わってきます。

 弾丸に硬度や貫通力を求めた場合、尖らせた氷を用いるしか方法がないからです。

 つまり、死に乙女ゲームの世界では、相対的に氷弾の価値が高まっていることも意味します。

 ついでに、沸騰した油(に変質させた水)を浴びせる魔法に“アロマの香り”をさせる事で、一見して女性向けにデザインされたゲームが現実に実体を持った、精神に来る怖さに貢献できたかな? とも思います。

 人は、制約が生じると嫌でもアイディアを模索しなければならなくなります。

 新しいアイディアを“足し算”するのではなく、逆に“引き算”してみるのも一つかも知れません。

「本来あったものが無い」と言うのもまた、新たな状況たり得ると言う事です。

 

 組み合わせを変えてみる、と言うのも有効に感じられました。

 これもエルデンリングからの着想なのですが、

 このゲームには、実に多くの武器カテゴリーが存在します。

 大別して、斧や大剣のように筋力で威力が高まる武器と、

 細身剣や曲刀のように、技量で威力が高まる武器とがあります。

 また、斧槍(ポールアクス)や鎌などのように、筋力と技量の両方を要求されるものもあります。

 なるべく、どんな育て方をしても、ユーザー一人一人がしっくり来る武器に出会えるようにと言う配慮なのでしょう。とにかく武器が多い。

 そんな中、重刺剣だとか大曲刀だとかがあります。

 曲刀はともかく、軽さと取り回しがウリであるはずの細身剣(レイピア)を巨大化させてどうするんだ……と最初に“グレート・エペ”なる武器を見たとき思いました。

 しかし、巨漢(ふとましい体格)の敵がこれを手にして襲い来る姿は、思いのほか様になっていました。

 巨漢と細身剣。

 どちらも珍しくもなければ、容易に思い付くであろう組み合わせであるにも関わらず、実際に動いている所を見ると確かな“真新しさ”がありました。

 言葉で説明し切るのはなかなか難しいので、気になる方は、

 “神肌の貴種”で画像検索なり、戦闘の動画なりを調べて頂ければ。

 死に乙女ゲームでの“攻略”対象にも、巨人族が居るのですが、構想当初は「種族としての巨体を活かして、バリスタを手持ちする」と言うスタンスでした。

 しかし、このネタは前回の“邪聖剣チェーンソー”の二番煎じになっていたので、あと一歩何か差別化出来ないか?

 と悩んでいた折り、エルデンリングをやっていて先述の重刺剣と言うものに出会いました。

 怪力の利点とは、単純な威力だけではなく“手持ちできる物品の幅=戦略も広い”と言うのが邪聖剣チェーンソーでの結論でした。

 しかし今回の巨人は、乙女ゲームの攻略対象となるイケメン。

 ソウルシリーズで言うところの“技量タイプ”にしてみると、より“らしく”なるのではないかと思いました。

 そこからさらに派生して、「ランプの魔人のように煙に変身できる」と言うアイディアを思い付きました。

 乙女ゲーム的巨人、と言うキーワードをさらに踏み込んで考えた結果、ディズニーアニメのそれを連想したわけですね。 

 力任せにバリスタを乱射するだけだった巨人が、組み合わせ一つ変えてみただけで、かなりユニークなものに仕上がったと思います。

 

 少女漫画や乙女ゲームとは縁遠い人生でしたが、今回(ちゃんと寄せれたかはあまり自信がありませんが)

 それを勉強して、あれこれ思い悩んだ経験はかなり身になったと思います。

 少女漫画に触った事のない方こそ、悪役令嬢ものに挑戦してみると、視野が広がりそうです。

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