異世界に転移したらエルデンリング(死にゲー)でした ~なろう系なら主役を張れた? 偉大な魔術師トープス~
※今回の話にはエルデンリングの、あるサブイベントの結末に触れる記述があります。
ご注意下さい。
狂気に囚われた伝説の英雄達を狩る使命のもと、魔の巣窟と化した魔法学院に向かう道中。
廃墟で項垂れる、魔術師トープスと言う人物に出会いました。
彫りの深い顔、見事な顎髭、潔い
「私には才能が無く、学院でも居場所が無かった。輝石ならぬ鈍石と言った所だ」
と、ネガティブにしょぼくれています。
実際、魔術を教わる事も出来るには出来るのですが、そのラインナップは初歩魔法がたったの3つ。
うち2つは主人公が最初から習得していたもので、もう一つはライト代わりの照明魔術と言う有り様。
主人公の能力次第では、教わる機会もあったのかも知れませんが……。
実際、初歩魔術の
そんな彼が落ち込んでいる本命の理由は「学院に入れなくなった」と言う事。
世界は壊滅し、魔法学院も狂った女王(学長)の支配下で封印されてしまった現状。
関係者に配られている“鍵”があれば封印を抜けられるのですが、それを紛失してしまったトープスは学院に帰れなくなってしまいました。
封印を抜けて学院に行かなければならないのは主人公も同じ。
「もしも、鍵を1つ余分に見付けたら、私に譲ってほしい。こんな私でも、また魔術を研究したい」
トープスは、主人公にそう願います。
主人公が一本目の鍵を手に入れてから、それをトープスに渡そうとすると、明らかに心が揺れているような様子ながら、
「それは君が自分のために使うんだ。私の分は、もう1本ダブりがあった時で良い」
と、これを辞退します。
(実は最初に「要らないのがあればで良いから」と言うのをうっかり聞き逃してしまっていて、このやり取りを見るに至りました)
果たして、侵入した学院内でもう一つの鍵を見つけてトープスに渡すと、彼は深い喜びと感謝の後「きっと学院内で再会しよう」と約束し、避難していた廃墟を去ります。
狂った魔法学生やゴーレム、グールの跋扈する学院に一人で戻って大丈夫なのか。不安はありましたが、トープスの後を追う事にしました。
そして、学院の一画。机に座ったまま事切れた、トープスの亡骸が見付かります。(※1)
傍らには、彼が自ら記したと思われる魔法書が一つ。
“トープスの力場”と名付けられたそれは、他者の魔法を“逸らす”力場を構築する事で無効化するものでした。
魔法を無効化する魔法、それ自体は前例があります。
狂った学長が独自に編み出した「膨大な魔力の弾で、他者の魔術ごと“呑み込む”」秘術。
もしくは、王家魔術が対学院を見据えて密かに有していた「他者の魔術を“呑み込み”、魔術剣に変換する」と言う秘術のみ。
トープスは人生の最期に、学院最大の権威や王家の中枢と同じ成果を遺した事になります。
それどころか。
この世界における輝石魔術とは「星の力を取り込み、我が物として操る」もの。
だから学長のそれも、圧倒的な魔力で結果的に相手の魔術を消滅させると言う、ある種の力業です。
しかし、トープスの力場のエフェクトを良く見ると、敵の魔術は消えるのではなく逸れています。
つまり、ある意味では女王の秘術よりも余程複雑な事をしているのです。
エネルギーを取り込む事が絶対的な真髄とされていた分野において、わざわざ斥力のような作用を生じさせると言うのは、確かに一見して魔術の行使と言う目標から遠ざかっているようにも思えます。
だからこそ、輝石魔術と言う“権威”によって成り立つ学院内において、トープスは嘲笑を受けていたのかも知れません。
あるいは、その常人と真逆のセンスが邪魔をして、従来の輝石魔術が身に付かなかったのかも知れません。
トープスの力場自体は正直なところ微妙な性能です。力場の維持も長時間出来るわけではないので、弾数の多い魔術や照射時間の長い魔術に押し負けたり、直撃は逸れても余波は食らってしまったりします。
しかし、ここで重要なのは、魔術の在り方に斥力と言う新しい概念が生まれた事なのでしょう。
トープスの力場の、それ自体は、彼が生み出したカテゴリの“初級魔術”でしかなかった。
実際にトープスの力場の解説文には「新たな教室(学派)が生まれるほどの発見だった」とあります。
また、トープスの力場を扱うにあたって要求される知力がそれほど高くないのも、むしろ事の重大さを示しています。
秘術は所詮、学長やそれに匹敵する一握りの魔術師にしか使えず、それはつまり汎用性・普及性の低さを意味します。
強すぎる奥義と言うのは、実は“戦略的”な価値があまりありません。
もしもトープスの理論がこのまま発展していた場合“そこそこの力量で魔法を封殺出来てしまう”時代が訪れ、武器としての魔術は歴史から消えていく可能性すらあるでしょう。
最前まで自己肯定感ゼロのしょぼくれモブだったトープスがこの境地に達した要因とは何だったのか。
緊急事態下で学院(研究設備)を失った事で、学ぶ楽しさの原点に立ち返ったのか。
魔術を生存の“手段”と割り切り、一つ一つに思い入れのないまま会得してきた私のキャラが、トープスとの出会いで何を思ったのか。
そんな事をふと思いました。
冴えない凡人(それも中年)が、後に最強の存在をも凌駕したダークホースとして台頭する。
それもオンリーワンの能力で、力で劣る相手を超越する……と言うのは近年のライトノベルでも度々見受けられます。
トープスが登場した作品が、なろう系であったなら、主役になる事も出来たでしょうが、残念ながら、これはフロムの死にゲーです。
基本、脇役が明日の朝日を拝める事が少ない、NPCに対しても厳しい死にゲーなのです。
しかしネット上では、概ねトープスを讃える声が多いようでした。
中には「こうした逆転系のキャラクターとしては、最後まで謙虚で、イキってないのが好感を持てた」
と言うものもありました。
トープスが好かれる要素の最たるは、やはりその人格にあると考えます。
自分なんてどうせ、と卑屈に振る舞いながらも、学び続けたストイックな姿勢。
先述の、主人公が彼の目的を優先しようとしたのを辞退した事も、その人間性が現れていると思います。
まして、少し誘惑に負けそうになった上で、と言うのが高潔さと人間臭さが絶妙に同居しており、きっぱりと断られる以上の潔さを感じます。
そして人格面以外ではもう一つ。
トープスは「彼にとって優しくない世界で、最後にやり遂げた」からこそ、その生き様にプレイヤーの共感と尊敬を得たのです。
このイベントは、あくまでもサブイベントでしかなく、スルーして進む事も可能です。
下手をすれば気付かれないまま終わる可能性すらあります。
トープスはあくまでもモブキャラに毛が生えた程度のNPCでしかなく、乱暴な言い方をすれば主人公補正が無かったから死んだわけです。
だからこそ、悪いなろう系のように、お膳立てされた世界で溜飲を下げる為の“大器晩成型”とは似て非なるのだろうと思います。
実際にトープスの口から学院への恨みは一切なく、むしろ自分のことで一杯一杯……言い換えれば学長すら眼中にない様子でした。
(※1)
ここからは、ゲームをやってないとピンと来なさそうな、完全に蛇足で横道の考察です。
ソウルシリーズ全般に言えるのですが、こうした「目的が完遂された次の瞬間には、特に説明もなく亡くなっている」パターンが多いです。
イベント終了、即、プレイヤーが魔術を回収出来る為と言ってしまえばそれまでですが……、
この世界では摂理を司る大いなる存在(概念)が破壊された事で、生死や時間の境目が曖昧になっているようです。
それにしても、鍵を手渡してから理論が完成するまでが早すぎます。
最初は学院内の魔物に襲われたのかと思いましたが、遺体に目立った外傷もありません。
しかも、じっくり机に腰を据えて研究を行い、そのまま事切れたような格好ですらあります。
(別のNPCが他殺された時は、凶器と血痕がきっちり描写されていました)
あるいは、主人公と出会った時点でトープスは既に故人であり、研究は元々行っていたものであり、なおかつ、完成しかけていたのかも知れません。
「嘲笑を受けていた」と言う事は、何らかの理論を人目で披露していたとも取れます。
(単に初級魔法止まりで、良い年しても学院に居座り続けた事への揶揄かも知れませんが)
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