無意識にやってしまう? 逆効果になる数字のマジック

 私事ですが、年内に家を新築する事になりました。

 先日も、ハウスメーカーや各設備のメーカーとの打ち合わせを行ってきました。

 まず感じたのは、やはり「10万円くらい誤差」と言う金銭感覚になってしまう恐ろしさでした。

 例えばお風呂の浴槽。

 標準で汚れが付かないコーティングがされている仕様なのですが、余程の事(※1)がない限り剥がれる事はないそうです。

 しかし、これに+10万円する事によって「その余程の事があっても剥がれない」コーティングにグレードアップ出来るそうで。

 これに対し私は最初「10万円で万全に出来るのならありかな?」と考えました。

 しかし店員さんは「余程の事」がどれくらいのレアケースかを説明してくれた上で「正直、グレードを上げる意味はあまりない、贅沢品です」と、正直に教えてくれました。

 このケースの場合、私が10万円を軽く見た要因が二つあります。

 一つ。

 家の新築と言う、千万単位のお金を扱っているため。

 勿論、日常においては1,000円だって少なくない金額です。しかし、これに対しての10円は、やはり誤差に感じがちです。

 二つ。

 買う物が“お風呂の浴槽”と言う、ほぼ一生ものの品であった事。こうした品の10万円と、食べ物や石鹸のような“消えもの”の10万円とでは意味が違ってきます。

 後者は、次も使いたい場合、その都度10万円を持っていかれます。

 二つ目の要因が執筆の役に立つかはわかりませんが、一応はこんな所です。

 やたら高額な家具やアンティークに対し、今まではそんな裕福な好事家(消費者)が商売成り立つほど居るのだろうかと疑問でしたが、なるほど「毒を食らわば皿まで拘らねばならない」場合もあるのだなと思いました。

 しかも、数十年単位のローンに組み込まれてしまえば10万円程度なら“月額”としては薄めに薄められてしまうものです。

 

 例によって、私の「邪聖剣チェーンソー」を例にとってみます。

 この作品のダンジョン編は人工物のデスゲームであり、ソードアート・オンラインのようにプレイヤーの生死が“HP”と言う変数で管理されています。

 0にすれば敵を殺害でき、自分が0にされれば必ず死にます。

 さて、その数値設定についてです。

 プレイヤーには、装備補正無しで150,000のHPが与えられています。

 そして最弱モンスターのゴブリンは23,000ものHPが与えられています。

 数字だけを見るとFFのボスモンスターやら、ドラクエならラスボスすら務まり得る、破格の数値です。

 しかし、主人公が攻撃力最弱の武器でこれを攻撃した時のダメージが3,000で、クリティカルヒットした場合には5,000にも及びました。

 反対に、ゴブリンが主人公を軽く蹴りつけただけで2,000ダメージ。得物にナイフを持っていましたが、これが命中した場合でも4,000ダメージくらいには達したと思います。

 さて。

 このゲームバランスについて、主人公にもこう言わせてあります。

 この数値設定では、である、と。

 今の例を、下三桁を切り捨てて見てみましょう。

 主人公のHP:150

 ゴブリンのHP:23

 主人公の攻撃。ゴブリンに3のダメージ。

 主人公の攻撃。クリティカルヒット。ゴブリンに5のダメージ。

 ゴブリンの残りHP:15

 ゴブリンの攻撃。主人公に2のダメージ。ナイフが当たった場合、さらに4のダメージ。

 主人公の残りHP:144

 ……下三桁を省くと、本当のバランスが見えて来るし、やっている事は全く同じだと気付く筈です。(※2)

 違うのは“印象”だけです。

 HP:23,000とHP:23では、絶対的には雲泥の差なのに、ダメージと言う相対的な要素がここに加わった場合、攻撃に耐えられる回数は全く同じなのです。

 そして、HPが1でも残っていれば必ず生きており、0になれば必ず死ぬ、と言う点だけが、この両者に(6桁であろうと3桁であろうと)共通する事なのです。

 表示される桁が少ない方がわかりやすく伝わるのは、言うまでもありません。

 しかし私は、敢えて無駄な下三桁を表示させました。

 先にも述べた通り、この作品のダンジョンとは人工物のデスゲーム……つまり、主催者や観客が命がけのプレイヤーを見世物にしている場所です。

 そんな中で、HPと言う命に関わる変数の桁を大きくする事によって感覚を狂わせ、無謀な戦い方をするように仕向けている為です。

 こうした背景もなく、何となく主人公のHPやステータスが10万単位になっている作品も見たことがあります。

 この創作論の別項でも述べた覚えがありますが、その下三桁には本当に意味があるのか?

 むしろ、それこそ新居を買う時に金銭感覚が狂うような逆効果を、読者に与えてはいないか?

 一考の必要はあると思います。


 力や体力のステータスについても、何度か他の話で述べた繰り返しになりますが「それぞれ地球人の最強を100」としています。

 これについても、三桁以上は必要ないと言う考えで(一説によると、人間が一度に認識できる数は3つであり、4つを一瞬で認識しているように見えても3つを認識してから残りの1つを見ている、と聞いた事もあります。出典は不明なので、話し半分ですが)

 また、100を基準にするとパーセンテージで変換しやすいと言う意図もあります。

 そして、その基準と言うのが100=世界記録保持のアスリートやノーベル賞受賞者であります。

 邪聖剣チェーンソーの場合は地球人トップとしましたが、100=日本の成人男性の中間と定義した場合、また勝手が違ってくるでしょう。

 100パーセントにあたるものが何なのか、と言う“変数”の定義も必要そうです。

 正直な所、これでもかなり有耶無耶な設定だとは思います。

 本当なら、例えば“力”のステータス1あたりの仕事量などを明確に決めなければならないくらいだったのかも知れません。

 ジュールにせよメートルにせよ何にせよ、本来“数値”と言うのは正確に測定できねばならない、誤魔化しの効かないものであって。

 ステータスでジャッジすると言う事は、本来、自分で架空の計算式を矛盾無く作るくらいの覚悟は要るのかも知れません。

 

 話はまた、家の新築に戻るのですが。

 特に今回契約したハウスメーカーは、先に予算の金額(ローン返済プラン)を絶対的に決めた上で、そこからはみ出さないように取捨選択していくスタンスでした。

 他のメーカーは、とにかく高いものを売ろう売ろうとがっついて来たのに対し、このメーカーは「後でクレームとか来ても厄介なので」と言う保身を先に提示してきたのが、むしろ、仕事の質にも期待できると判断した所以でした。

 それと今回の話と何の関係があるかと言うと。

 つまるところ今回の私は、このメーカーから「家を買った」のではなく「家を建てるプランを買った」と言うのが正確な所なのだと思います。

 いや、他のメーカーであっても当たり前じゃないか、と怒られそうですが。

 しかし、課せられた何千万と言う数値の“変数”が何なのか、把握するのはやはり大事です。

 具体的には。

 先述の、お風呂の例で言えば「余程の事がない限り破損しない中くらいの性能の浴槽」が、購入した“プラン”に組み込まれています。

 つまり例え「ろくにコーティングのされていない、安物の浴槽」に変更したとしても、値段は同じ。

 事実、私のケースにおいても、掃除の手間やメンテナンス性のために色々と設備を削ったのですが、費用的に安くなるのは、メーカー側の経費のみ。

 つまり、得をしているのはハウスメーカーだけと言う事です。

 勿論、それによって会社の利益を増やすと言う側面もあるかも知れませんし、また、顧客が別方面において頑として無理な(予算オーバーの)計画を主張した場合、その無理な予算を捻出する為の余白を作っているのかも知れません。


 まとめると。

 その数値の中央値だとか“基準”は何処にあるのか。

 数値:1あたりの重みはどれ程なのか。

 その“変数”の属性や本質はどう言ったものなのか。

 数字とは、明白なようで玉虫色な、掴み所の難しいのなのかも知れません。


(※1) 

 掃除用具の柄を強くぶつけてしまう、浴槽内で転んだ拍子に服などの金具を思い切りぶつけてしまう、など。

(※2)

 もし、邪聖剣チェーンソーのダンジョン編、および外伝を読んで頂く機会があれば、HPは下三桁を無視して頂けると読みやすいかと思われます。

 主人公の脳内変換で、下三桁は全て0にされています。(例:666,666を666,000として表記)

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