「また俺何かやっちゃいました?」を活用出来るか? ~追放ものを自分で書き終えて~

「また俺何かやっちゃいました?」とは、なろう系発祥の某有名作において「自分の才能に無自覚なまま力を使ったら周囲が大騒ぎとなり、状況=自分の強大さを飲み込めていないのは本人ばかり」と言う展開を示すワードのようです。

 数年前にちょっとしたネットミームになり、言葉をプリントしたシャツまで発売されている辺りからも察せられるように、半ば物笑いにもされている安直な表現……とされています。

 しかし私は、使い方次第では良い素材なのでは?

 と考えています。

 いや、それを言い出したら何でも“使い方次第”なのですが、それは置いといて。

 

 先の追放もの執筆においては「何かやっちゃいました?」については特に意識したわけでも無いのですが、

 物語開始時点まで周囲はおろか本人さえ本人の真価に気付かなかった理由を突き詰めて行った結果、非常に良く似た挙動を取ったと言う感じでした。

 当作品における“魔法”とは思考の実体化であり、つまり、原理or感覚を理解する必要があります。

 実際、火をつける等の簡単な魔法については、図書館などで無数、無償公開されています。また、義務教育の過程でも日常生活に必要なレベルのものは教えている筈です。

 例えば最終的に高位の炎魔法を極めた術者も、最初は子供の頃に会得した火付けの魔法をスタート地点として、自分が発動しやすい形で発展させていった筈です。

 主人公もその例に漏れず魔法の理論を解析し、それをマジックアイテムとして製造して行くのが基本的なパターンなのですが……序盤から、一部の鋭い人には「その魔法、常人には理解できない筈だよ」と突っ込まれています。

 対する主人公は、相手が何を言っているのか全く理解できません。そう言われても「え? 俺程度の凡人が理解出来るんだから普通でしょ」の一点張りで堂々巡りです。

 また、他のマジックアイテム製造者が普通にそれらの魔法を解析できない場面に出くわしても「解析が苦手なんだな。不得意分野なのだろう」とスルーしています。

 まさしく「また俺何かやっちゃいました?」と同じ構図になっています。重ねて言いますが、意識して書いたわけではありません。

 本作品の主人公には「何ら特別では無い、かつ、極めて過小評価されていた人材」と言うかなりタイトと言うか矛盾したテーマがありました。

 通常、この「何ら特別では無い」の部分が余計に思われるのでしょうが、テンプレもので物笑いになりやすい要素として、規格外だったり超レアな(なのに皆認めてくれなかった)俺の成り上がり……と言うものを説得力なく書かれるからだと思ったので、そこの解決は避けては通れませんでした。

 

 そんなわけで、奇しくも「俺何かやっちゃいました」を無意識に書く機会に恵まれたわけですが、

 案外と「他人が同じ事を出来ない可能性」と言うものは想像しにくいものです。それが、生まれつき・物心ついてから既に出来ていた事なら尚更。

「出来るようになる」と言うのは「出来ないと言う感覚を失う」と言う事でもあります。

 よく仕事中に「何でこんな事も出来ないんだ!」と部下を叱責する場面なども、これに当たるのでは無いでしょうか。

 上司自身が出来てしまう為に、部下が出来ないと言う事に想像が及ばない。

 スポーツ等でも、現役時代に名選手だった人が、監督として優秀であるとは限らないのも「他人が出来ない事に想像が及ぶか否か」の差があるのかも知れません。

 前置きは長くなりましたが「自分のしている事が難しい事だと自覚できない」ケース自体は、充分に起こり得ると思います。

 ただ、元々現代日本人だった人が転生して、異世界で凄まじいクレーターの生じる爆破魔法をぶっぱなしておいて「何かやっちゃいました?」は、流石にあり得ないでしょう。

 そうした評価とは相対的なものであり、少し周囲と比較検討すればわかるレベルのものです。

 例えば、このカクヨムで小説を書く方々も、流石に、小説を一切書かない同級生の中で自分は書ける方だと自覚出来る事でしょう。

 とにかく、先のマジクック(以下略)の主人公における“無自覚の才覚”について気を付けたのは、主人公を持ち上げるのではなく、逆になるべく目立たないようにカムフラージュする事でした。

 

 端的に挙げると、

・世界が魔法至上主義で、個人の洞察力よりも魔法の強さを重視される

・そもそも人類のほとんどが何らかの形で魔法使いであり、人類全体の平均的な能力が高い

・なおかつ、主人公の新天地はエリート軍で、その辺のモブからして超人揃いだった

・主人公の異常を唯一指摘した人自体が遥かに天才かつ奇人だった=相手が普通じゃないから俺には理解できないと主人公が自己完結しやすかった&指摘した人物側の企みと言った伏線に紛れさせやすかった

・主人公単体の戦闘力は低い方で、対するモンスターが強力極まりないので、策が綺麗にハマってようやく辛勝だった

 

 こんな所です。

 そんな彼の一人称と言う形式を取る事で、更に隠蔽は捗ったと思います。

 なおかつ、序盤できちんと説明してあるので、戦闘中など異常に察しが良い事の理由付けにもなった筈です。(お陰で戦闘も抑えた文量でスムーズに書けたかな? と)

 嘘も隠し事もしていないけれど、極力印象が薄くなるようにした筈です。

 

 この辺の、自分の異常性に無自覚な人間の描写はサイコブラックを書いた経験が活きました。

 本当にズレた人と言うのは、自分がズレている事に気付けないからそこに居るのです。

「俺何かやっちゃいました?」を自然に書くには、世間や環境に概ね適合出来ていて、なおかつ、ズレた部分と周囲の認識がすれ違い続けるようにするのが大事なのだろうと思いました。

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