ハーレムは難しい ~追放ものを自分で書き終えて~

 複数の女の子に好意を寄せられ、主人公は鈍感なので、相手の方から告白してくる。

 作品の尺と私の力量で実現できたのは、ここまででした。

 ハーレムと言うものを真面目に突き詰めれば突き詰めるほど、その過酷さを思い知らされました。

 今回はそれの覚え書きを。

 なお、最後に、性に対する明け透けな個人的見解がありますので、ご注意下さい。

 

●ヒロインの人数=恋愛小説1本

 私の作品では実質5本の短編を並列しつつ、大筋の話に内包させる結果になりました。

 空気ヒロインだの当て馬ヒロインだのを作りたくなかったので「誰とくっついてもおかしくない」ボリュームを求めると、それはもはや作品一つを書くレベルの労力でした。

 例えば「猫属の少女が、いじめられた過去を乗り越えてうんぬん」を1エピソード。主人公がそれに少し絡んで解決を促した……程度では、ヒロインの属性をただ揃えたいだけの意図が見え透いています。

 これについて巧いと思ったのが、グローランサー6と言うゲームです。

 主人公は何らかの理由で記憶を失っているのですが、

・物語開始時からの相棒で、ほとんど常に行動を共にする同僚

・自分の定めた“勇者”に付き従う妖精

・記憶をなくす前の主人公に精神的に救われた、何故か組織に軟禁されている女性。物語の核心に関わる異能力の持ち主

・星を護る巫女。主人公はその護衛となる宿命にある

・主人公の命を狙う敵幹部。偶然、主人公の顔が見えない状態で交流する事になる

 これ全部、同一作品の中での出来事です。

 この内の一つでも更に掘り下げれば、別のゲームシナリオが作れてしまう程の気合いの入りようです。

 これだけバラバラの話が、本編に違和感なく統合されているのも凄い所です。

 ただし、もしかしたらこれも「理由なき一夫多妻」が書かれてしまう要因なのかもしれませんが……ゲームは安易に資料として参照されやすいものです。

 ゲームで複数の女性とフラグが経つのは、あらゆるプレイヤーの好みに対応する為です。

 ゲーム内では主人公は(基本的には)一人の相手のみを選んで、恐らくエンディング後の人生を送っていく筈です。

 周回プレイで全シナリオコンプリートする事もあるでしょうけど、それは別の可能性世界の話に過ぎません。

 私の作品ではグローランサーほど巧くは出来ませんでしたが、それぞれのヒロインに現在・過去・未来と言う裏テーマを設け、本編が進むのに不可欠なエピソードにはしたつもりです。

 主人公が自分のルーツを振り返り、立ち止まって考え、明確な目標を得てステップアップを決意する。


●読者のタスクにも限界がある

 どれだけ空気・当て馬化にならないように気を付けていても、最初の方に出てきた人物の陰が薄くなるのは避けられません。

 例えばヒロインAのエピソードが終わり、今度はBにフォーカスを当てるとして。

 Aの存在を薄くしたくなければ、Bを目立たせたいエピソード中にもAを活躍させねばなりません。

 これがCDEFG……と続いていくほど無理が出てきます。

 一応、3~4人に落ち着いた私の作品ですら、正直な所、Bの失速を感じていました。

 ただ、この「ブランクがあると存在感が薄れる」性質は、逆利用も出来ます。

 何だかんだで“原点”と言うのは強いもので、忘れかけた頃にまた返り咲くと、一際目立ちます。

 あと、私の作品においては、極力ヒロイン同士の接触は避けました。それもやってしまうと、倍々ゲームでボリュームが激増してしまいます。

 それにより労力が増え、本編の進みは遅れグダグダになってしまいます。

 主人公の取り合いとか、そこでしか書けないドラマもあるので、一概に否定は出来ません。これもいつもの「書きたいものは何か」に尽きると思います。

 

 一方で、読者のタスクを考えながらヒロインの人数を制御する行為……と言う事も頭の片隅に置いておく必要があります。

 若干のネタバレになりますが、結論から言えば私は「複数の女の子との関係をキープ」させられませんでした。

 他の女の子を袖にした上で、本命の子と結ばれる結果にしか出来なかったのですが……これも見方を変えると「作者は、本命の子とくっつける為に振らせた」と言う事実が浮かんでくるものです。

 正直、本編のプロットから、そうせざるを得なかった事情もあり、この辺はかなりジレンマに苦しみました。


●恋愛関係は常に変化する

 前回「結婚は恋愛の終わり」と言う話をしました。

 しかしゲームや小説の場合、その多くが、ヒロインと“恋人”になる所をゴールとしています。

 しかし、エンディング後の語られない将来にも連続性はあると、私は考えます。

 結婚など遠い学生を書く場合もあるので、“恋人”関係を終点とした恋愛の描写それ自体は否定しません。

 しかし気を付けないと「意図的に恋人どまりにして、不真面目な恋愛を楽しんでいる」のと同じ図になる事もあります。

 しかも、ハーレム要素はそのリスクが特に高い事でしょう。

 

 恋愛は人を変えます。

 だから、出会った瞬間・付き合い始め・結婚の各段階で「基本的に同じ性格であるにも関わらず、行動原理が全く違う」と言う事が生じます。

 かつて私が結婚する直前にとある先輩に言われたのが「俺もまた恋愛したい。結婚したら同居人だもん」と言うものですが、今ではよく理解できます。

 最初はお互いに全肯定だったのが、今では批判の応酬ばかり。しかしそれはそれで「信頼が高まった結果」であるから、これは退化ではなく進歩だと考えます。

 人間性を疑われかねない他人への悪口も、下ネタも、どんどん解放されていって、初期の初々しさなど見る陰もなく。

 子供が生まれれば「自分よりも大切な存在」から「自分と等価」に格下げ。“自分”とはある意味、他人よりも後回しにしやすい対象でもあります。

 それでも「子供を間違いなく育てる。そのためにお互いは二の次」と言う共通認識のもとに結束が強まるのがまた不思議です。

 とにかく、この辺の「ブレさせ方」をしくじると、人物のキャラがブレてしまいます。

 例えばこれは私にも身に覚えがありますが、自己肯定感の有無は良くも悪くも人を豹変させます。

 自信は行動に必要なものながら、人の攻撃性をどうしても高めてしまう。

 一人の異性に愛されると言う事は、自分を肯定して貰えた事。「自分なんかどうせ……」と思っていた人間ですら、誰かに敵意を持つと、その敵を頭から見下すようになる事もあります。

 私はこれを敢えて、作中で最も引っ込み思案な人物にさせました。

 結果、私自身ですらここ最近書かなかったハイテンションと言うかエキセントリックな罵詈雑言の嵐になってしまいました。陳琳ちんりんやハートマン軍曹でももう少し慈悲があると思います。……あっ、流石に陳琳の方が酷いか。

 とにかく、人によっては幻滅されるかも知れませんが、そこに至るプロセスはしっかり説明出来たつもりです。

 

 また、キスと性交渉も重要な要素です。

 かつて性描写の是非に触れた折「物語にはキスシーンすらも必要ない」と言う意見も頂きましたが、私はこの作品では必要不可欠と判断しました。

 まず、キスにはTPOや場所柄によって千差万別の意味があります。

 親子の挨拶として使われるものもあれば、決別の意味に使われる事もあれば、性行為の呼び水として行われる事もある。

 強さ、長さもそれによって変わってくるでしょう。

 そのカップルが最初に肉体関係に及ぶタイミングでは、お互いにその意思があるかを、言葉を使わずに伝達する方法ではないかと思います。

 誤解を恐れずに言うと「唇を許す」と言うこと……もっと言えば恋仲になった時点で、良い歳した大人はそこまでの可能性を想定することになります。

 このビジョンが無いまま、取り敢えず恋人になると、後々に齟齬が生まれます。

 性行為とは、日常の理性を取り外す行為でもあるので、それだけに普段とのけじめ・メリハリも大事です。

 公衆の面前で裸になるような人間は、当たり前ですが逮捕されます。

 

 また、避妊の有無も、意思伝達の一つと考えます。

 デキ婚などは「計画性がない、だらしない」とする方も多いとは思いますが、私は逆だと思っています。

 その相手と子をもうける覚悟「相手を間違えていない」と言う確信があるなら、むしろ一途な行為だと思います。

「後にも先にも貴方しか居ない。退路が断たれても構わない」と言う意味の場合もあると思います。

 私が見た範囲では、デキ婚した家庭ほどメリハリがきいていて、円満に回っている印象があります。

 勿論、二股の上で無計画にそれを行って、もう片方を酷く傷付けたケースも知っていますので、過信は出来ませんが。

 

 とにかく、一人一人の人物を、決められた文量で満足に書き切ろうとすると、本当に倍々ゲームの負担がかかります。

 ハーレムを書くなら、それくらいの覚悟か、余程の策が必要になってくるでしょう。

 私には、無理でした。

 今は力不足なのかも知れませんが。

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