文章をアメリカナイズしてみる

 例えば洋画での会話シーンを注意深く見てみると、単純な言語の違い以外にも、間の取り方やレトリックの使い方など、日本人のそれとは違う事がわかります。

 物語において日本人の人物は、よくも悪くも感情の出し方が露骨で単刀直入です。相手の言葉や状況に対するレスポンスも、日本人キャラは早いイメージがあります。

 例えば誰かに無理難題を言われたシーンの場合、洋画では「あー、その、それは例えば、今日がエイプリルフールだからジョークを言ってるのではなく?」のような、歯切れの悪いリアクションから入る事がよく見られると思います。

 流石にアクションシーンなど流れの早い場面では即断即決……態度に緩急が効いている印象があります。

 日本人キャラが無理難題を言われた場合、即座に「○○をしろ!? そんなの不可能です! その理由は(以下略)」となる事が多いでしょう。良くも悪くも無駄がない。

 また、日本人のターン制バトルのような口論に対し、洋画的なそれは、口々に好きなことを言っていると思いきやある瞬間にぴったり噛み合い、

「そうか、君の考えは良くわかった」「ええ、そうよ」

 と言った感じで、にわかに一段落ついたり。

 細かい文化の違いもあります。

 仕事仲間の誕生日を祝うサプライズで、その人の部屋を風船で埋め尽くしたり、業務用コンピュータの中身をそっくり抜き取ってゼリービーンズで一杯にしたり……と言う発想は日本人のキャラではそうそう出ない事でしょう。

 逆にファッ●ンと言う言葉については我々日本人の想像を遥かに超える重みを持っており、ホームステイ先の家主に「次、その言葉を口にしたら問答無用で叩き出すぞ」と言われた事例もあるそうです。

 翻訳などでは「クソ○○だぜ!」程度で訳される為、日本では軽く見られがちなのですが。

 実際、この言葉のギャップに無自覚なまま言い放った場合、流血沙汰になる危険もあるそうなので気を付けた方がよさそうです。

 恐らく、決して日本人が他より繊細なのではなく「繊細になる所」がお国柄によって異なると言う事なのでしょう。

  

 かつてサイコシルバーを書いていた時、主役がアメリカに留学していたと言う状況から、現地人の話し方を洋画風になるよう意識しなければなりませんでしたが、これが色々と気付きになったと思います。

 

「こいつにカンフーやらせてみない? 一度本場のカンフー見てみたかったんだよオレ」(主人公を取り囲む不良生徒)

「なあみんな、こんな丸裸でサバンナを歩くような奴が、一年以上も喰われずにいたのはなぜだい?」(同上)

「近寄らないで、このサタン!」(過去に悪さをして主人公に成敗された事のある女生徒)

 

 やはり、安っぽい翻訳風になるよう試行錯誤して頑張りました。(努力の方向性……)

 また、この作品のヒロインも主人公と同じ、日本からアメリカに留学に来ている立場=作中でほぼ唯一、主人公と「日本人同士の会話ができる」存在になるのですが、日本人らしい感傷的なやり取りが、これによって際立っていれば幸いかな? と言った所です。

 

 例えば下手な「やれやれ系」だとかが巷で物笑いとなりやすいのは、皆が「現代日本的な表現」を食べ尽くして食傷気味なのもあるのかも知れません。

 日本人である以上、至極当たり前の事ではあるのですが。

 まして、登場人物が横文字ネームのヨーロッパ系であれば、なおのこと悪いギャップも生まれそうです。

 身近である事と安っぽく感じる事は、恐らく紙一重です。

 西洋の異国情緒ある話を書きたい場合には、裏目となりやすい事でしょう。

 とりあえず、即興ではありますが、昨今頻出する表現をアメリカナイズしてみます。

 

「やれやれ、こんなママのお使いレベルの仕事(オペレーション)をぼく以外の誰一人こなせないなんて……終末のラッパが聴こえてきそうな気分だよ」

「神様から貰ったこのユニーク(固有)能力で、俺をパーティから追放したあのジョックを、サンクスギビングの食卓にのぼる七面鳥のようなザマにしてやる」

「なんてこった。呼んでもいないのに、色んなコンセプトのガールフレンドが殺到してくる。ぼくは神に目を付けられ、楽園の住人に仕立て上げられるのだろうか」

 

 これらの例は付け焼き刃で対症療法も良いところですが(そして、くどい)

 お国柄のイメージを変えただけでも、何となくカッコ良くなった気がしないでしょうか。

 勿論、言葉のマイナーチェンジだけで個性を創り出せるなんて、都合の良い話はありません。

 ただ、現代日本的な思考から一度離れてみると、長期的に見て結構有意義なのは違いありません。

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