無理のない“無双”を書くには?
圧倒的な強さを持つ一個人が、単独(あるいは、たった数人)で敵の軍勢を壊滅させる。
一騎当千や無双と呼ばれるこれは、安直な手法になりがちです。
これは主人公無双のみならず、宿敵やライバルにも当てはまります。
ゲームなどで、ライバル一人に対して主人公側はメンバー全員で挑み、それが互角の戦いになっていると、個人的には少し違和感を感じます。
あの三國志の関羽や張飛、呂布のワンマンアーミーにすら、ふと「ほんとかよ」と我に返ってしまう事があります。
戦いと言うのは、現実的に言えば戦力の削り合いであり、人数と言うのは戦力において最も重要なファクターだと考えるからです。
だからと言って、あらゆる手法は否定すべきでもありません。
やはり、主役が派手に大軍を蹴散らす様は、実現すれば爽快なものです。
無双の何が安直か、それは改善可能なのか、考察してみます。
なお、これまで当創作論で述べてきた意見と被る所が多くなりそうです。
あちこち散らかっていたのを纏める意味でもあるので、あらかじめご了承下さい。
●ファンタジー以外の無双を勉強する
いきなりきつい事を言いますが、無双を書くにあたって「ファンタジーや異能は逃げ」です。
魔力、身体強化、魔法障壁など、現実に比較しようの無い便利な“変数”ばかりで、パワーバランスを都合良くいじり放題だからです。
それは裏を返せば「ファンタジーでの無双で逃げとされない事」が至難である事も意味します。
まず、現実的な身体能力と銃器のみで考えられるようになりたい所です。
書きたくもないジャンルの作品を新たに立ち上げるべし……とまでは言えませんが、
ランボーやコマンドーなど、あの辺りの作品を想像して貰えればと思います。
すると、すぐに思う筈です。
「こんなの現実にあり得ない」
特に後者のコマンドーは、主人公一人が怒っただけで「第三次世界大戦だ……」と戦かれるなど、半ばギャグと思って良いくらいです。
こんなワンマンアーミーはあり得ない。
私達がファンタジーや異能でやってきた無双と言うのも、これと同じように思われている筈です。
しかしこれら名作映画と昨今の無双は、どちらもネットでネタにされていますが「笑われ方」がまるで違う筈です。それは何故か。
まず、人物描写がしっかりしているのもポイントでしょう。ランボーもメイトリックスも、現実にはあり得ないと思わせつつも「もしかしたら、やりかねない」とも思わせるオーラを常に発しています。
また、意外と色んな火器や地形を利用し、テクニカルに戦っている事もわかります。
「多少の荒唐無稽は仕方がない」と言う水準に持っていくには、最低限度「人物の作り込み」と「制限のある中で書ききる努力」は必要です。
●モブ兵や雑魚モンスターの強さをきっちり割り出す
では、現実に無双があり得ないのは何故か。
基本的に「戦力とはみな平等・イーブン」だからです。
勿論、一口に兵士と言っても、昨日まで食っちゃ寝だったメタボ新兵と百戦錬磨のベテラン軍曹では実力はまるで違うでしょう。
しかし、それでもメタボ新兵に銃で撃たれれば、ベテラン兵士は簡単に死にます。カンッ!「ライフル弾も跳ね返す鋼の肉体! さすがは軍曹!」とはならないでしょう。
「射殺されないように立ち回り、逆に(一度に多くの)相手を瞬殺」する事が、現実にどれだけ困難かと言う事です。
強さと言うのは、基本的には相対的な評価です。
つまり、主人公自身が「どれだけ強いか」ではなく「どう言った戦力より強いか・もっと言うなら余裕勝ち出来るか」になります。
少なくとも、敵が棒立ちのカカシ状態であっては、それが伝わりません。
そして、軍隊(特に軍事大国)の兵士と言うのは、その世界・その時代の戦いにおける最適解です。
事前にその強さを描写しても損は無いでしょう。
無双の中にも、一歩間違えれば即、死の綱渡り感があっても良いかも知れません。
ケースバイケースではありますが「雑魚からして無双」なくらいの描写でもありかも知れません。
敵とは、弱くあってはならないのです。
これも人によって難しいかも知れませんが、格闘ゲームやFPSやブラッドボーンなどで対戦してみると良いかも知れません。
派手で強い必殺技・兵器を撃ち放題なのは、お互いに対等。その中で無双するとしたら、何が必要なのか。
●安直な奇策・搦め手・切り札・大衆の盲点を全て潰す
ある程度「人は安易に無双出来ない」と言う事に自覚的であった場合「能力は使い方次第」と言うコンセプトに進むのでは無いでしょうか。
しかしこれも、実は根幹は先述と同じ理屈です。
知識とは、基本的に全人類で平等に共有しているもの。
個人単位では、不勉強な人とある学問の権威とでは天地の差がありますが、前者がこれから知識を得る可能性はイーブンです。
メラ・ファイア・アギ……これらの初歩魔法をうまく使いこなして上位の魔法使いを圧倒!
と言うのは、基本的にその“上位の魔法使い”も心得ている筈の事です。特に、小回りの利きやコストの高低すら想定できない人であるなら、危なくてしょうがないので魔法など使うべきではありません。
マイナーなスキルやアイテムを駆使して下克上……と言うのも、とっくに解析されて対策されたり、みんな有効利用しているものです。
特に「舐められている」程に認知されているものなら、同時に「敢えて使い道を考えてみよう!」と研究する人が必ず相当数出てきます。
前例の無い事の大半は「有効ではないから誰もやらなかっただけ」です。
逆に、主人公など「作者が死なせたくない人物」が同じ攻撃を仕掛けられたら、どう対処するか? と想像するのも時には良いかも知れません。
バリアやレジストで無効。余裕で超回避。
1、2手で簡単に無傷でやり過ごせるのなら、少なくともそれは画期的な隠し球でも何でも無いと言う事です。
この段落は横道なので読み飛ばして貰って大丈夫ですが、
恐らく、一人一人てんでばらばらに「僕は火の魔法で戦う!」「あたしは風!」「俺様は電撃だ!」とする構図自体も、本来は現実的ではありません。
個人的に攻撃魔法の属性を一つ選べるとしたら電撃・雷が欲しいと思うのですが(着弾がほぼ光速・防御が困難)
仮に最も成果が出て汎用性が高い攻撃魔法が電撃だとしたら、魔法部隊はみんな、電撃魔法ばかりを撃つ筈です。
そして局所的に火炎魔法が必要になるくらいでしょうか。
現実でも、個人の好き嫌いや合う・合わないでアサルトライフルを捨て、火炎放射器やロケットランチャーを勝手に主武装とはしないでしょう。
それらは、有効な場面が非常に限定されます。
あるいは「使える魔法やスキルは、先天的だったり生育環境だったりで千差万別」と言う、念能力タイプの設定であれば、一人一人の能力が違う事・オンリーワンの能力が生まれ、その解析もされていない事の理由付けにはなります。
しかし、これもまた「人類全体がそうである」と言う事に変わりはありません。
出てくる一般兵全てに固有の能力を与えるのも大変ですし、能力者の人口が少ない設定だとすると「無双の理由付け」は容易かも知れませんが、やはり容易とは安直の裏返しでもあります。
今回の話を書くにあたり、下調べをしていたら「そもそも安直な無双や主人公賛美の話は、頭を使いたくない時に流し読むものだ」
と言う意見を見付けました。
適切な需要があるのだとしたら、やはりこうした考察も無粋ではあるのかも知れません。
またリアリティのために選択肢を狭めるのも良い事ではありません。
しかし、流し読みで終わりたくなければ、もう一手間掛けて損はない筈です。
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