物語とランダム要素その2 チートバグ・きれぼし脳

 チートはチートでも、チートバグ……と言う話を書けないか。実は結構長いこと考えていました。

 チートバグ、あるいは“きれぼし脳”と言うのは、ゲームのプログラムをいじって、テキストやグラフィック、音声等をでたらめにバグらせる遊びです。

 例えば、魔王が喋るテキストを呼び出すコードを別のものに置き換えた結果、

魔王ムドー「さすが魔王の城だ。化け物の臭いがプンプンするぜ……」

 と、棚上げも甚だしい事を言い放ったり、

 そこらの門番が開口一番、

「見よ、これぞ闘神の力!」

 と誇大妄想を口走ったり、

「おはようダメージ」

「しょり。12どう。へさ。ヒテッマン」

「ばしゃと きれぼし」

 などと、混ざりすぎて解読不可能なテキストになってしまったり。

 最初の村を出たばかりの所の平原でラスボスの左手部位だけが襲い掛かってきてレベル1の主人公が瞬殺されたり、序盤にけしかけられる猟犬型のモンスターが海底や空中戦、果てはトロッコでの逃走劇と言った、場所を問わず出現したり。

 隠しボスに話し掛けたら、アイテムを売り買いしてくれたり。

 ステージをゴールしたマリオが、何故か地面をすり抜けて落下死したり。

 これらは言葉で説明するより、動画を観て貰った方が楽しめると思います。

 ……そう、この通り、チートバグと言うのは文字で並べ立ててもあまり面白くないのです。

 理由は大きく分けて3つ考えられます。

 

 まず、描写が困難である事。

 ファミコンなどのレトロゲーム世代であれば、本体に衝撃が加わった時に画面がぐちゃぐちゃになった、あの光景を思い浮かべて頂ければ、と思います。

 これを「ピンクや緑色の四角の図形が無数かつ無秩序に画面を埋めつくし~」とくどくど描写したとしても、あの空気感は出せません。

 バグで狂ったBGMや効果音にしても同じです。

 これらは直接視たり聴いたりしないと、そのおかしさが感じられません。


 次に、前提としてこれも一種の“内輪ネタ”になりがちな事。

 元のゲームを良く知っていないと、それがバグった様子を見た所でちんぷんかんぷんになります。

 また、このチートバグを楽しむ遊びは数年前、ごく一部の界隈でネットミームと化していたわけですが、そこで生まれた「きれぼし脳」だとか「にしき顔」だとか「イルーム音楽」だとかの特殊な用語を受け手が網羅していないと、置いてきぼりを食う事が多くなります。

 この題材を扱っている小説が無いか探したことがあり、一作だけ発見したのですが、こうした用語をちりばめただけのもので、知らない人は勿論、元ネタを知っていても入り込みづらいものでした。

 最低限度「読者にとって既知の世界」をバグらせる必要があります。

 例えば、マリオのチートバグを面白く観れるのは「マリオを相応以上に遊んだ人」だけです。

 そうなると具体的にバグらせるとしたら二次創作か、自作品のスピンオフか、我々の暮らすこの世界を舞台にするか、になります。

 例えばトム・クルーズが突然、首を一回転させてから「元軍が攻めてきたぞ!」と叫んだり、喫茶店でコーヒーを頼もうと声をかけた店員が「心の貧しい人は幸いである。天国はその人達のものだ」と、ブリッジをしながら口走ったり、と言った具合でしょうか。

 そのあと、どうやって面白い話に繋げるのかも、目下のところ私には思い付きませんでした。

 

 そして、チートバグによる名言・名シーンの発生は、基本的にランダムの産物である事。

 私がサイコロアプリを導入し、前回、物語とランダム要素について考えるきっかけとなったのが実はこの「チートバグの小説を書けないか?」と言う思い付きだったのですが、

 チートバグの面白さとは、その「無秩序さ=ランダム性」にあると言う事です。

 これは、「良く練られて面白い小説」と言う「秩序の産物」とは真逆なものだと言う事です。

 チートバグ動画の先駆け的な配信者が、RPGツクールで“バグったRPG風RPG”を作って後輩にプレイして貰う動画があり、私は大変楽しめたのですが、友人にこれを勧めた所、一話目で切ってしまったそうです。

 その友人が観たチートバグ動画はドラクエ6のものただ一作だけで、私ほどきれぼし脳に染まりきっていなかった為です。

「ドラクエと言う馴染み深い作品が、ランダムに突拍子もない壊れ方をしているから面白いのであって、意図的にツクールで同じようなのを作ってもいまいち面白くないかな」

 との事でした。

 と言うわけで、やはりランダムの面白さは狙った面白さと相反してしまうと言う事と、きれぼし脳と言う一種の“内輪ネタ”の理解度の差がここまでの温度差を生む事が、はからずも証明されたやり取りだったと思います。

 実際、チートバグの場合、必ずしもランダムでいじられているとは限りません。

 テキストのコードやアドレスを把握していれば、例えば魔王に「あたち、おおきくなったら おうじさまとけっこんするの!」等という女児の台詞を意図的に喋らせる事も充分可能です。

 隠しボスが道具屋、などの、前にウケたバグり方を踏襲する事も可能です。

 こうしたバグらせ方は、意図を見透かされた場合“露骨バグ”と呼ばれます。

 それで取れる笑いもあるので一概に悪いわけではありませんが、いずれにせよ、元ネタが無ければ成立しない事に変わりはありません。


 小説をバグらせる具体的な方法を何となく考えては見たのですが、ある一定のルールのもとにサイコロを振り、例えば先の例に挙げた喫茶店の店員に何を喋らせるかだとか、どういう挙動をするか、と言う事を無作為に決めることは可能でしょう。

 途轍もない労力がかかる割に、やはりそれで何が書けるのかが、今の所わかりません。

 しかし、前回のサイコロ判定小説共々、どなたか面白く書けそうなら(もしくは既に書かれていたら)読みたいなーと思う次第です。きれぼし小説。

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