人物の命名 その2

 近頃、広告で見掛けたのですが、世の中にはギャグ作品でもないのに「雑な命名」をしているケースが結構存在するな、と思いました。

 根倉涅智男(ねくら・ねちお)だとか、愛取御多子(あいどる・おたこ)だとか。会社名なら熟内(うれない)社だとか家老師(かろうし)グループだとか。

 大抵、キャラ付けも名前の通りな事が多く、安直と言うほかありません。

 そう言うギャグやコメディだと最初から割り切っており、読者にもきっちり認知させる工夫があるならともかく、これでシリアスな物語をやられても、読む前からその質を疑ってしまいます。

 

 その1でも言いましたが、必ずしも人名に確固たる理念がある必要はありません。

 しかし、理念はなくとも命名には必ず何かしらの意図や意識が働くものです。

 自分の子供に名付けるにしても、何処にどれくらいの思いを込めるかは千差万別のはずです。

 文字の意味をじっくり吟味する親もいれば、何となく良さげな文字(剛=たくましそう! 智=賢くなりそう! など)を使う親もいれば、文字の意味より、発声した際の音の良さを重視する親もいるでしょう。

 画数なんかは、命名に対するこだわりの最たるものでしょう。

 人物の命名に悩んだ場合、その人物の名付け親の様子を想像してみると良いかも知れません。(勿論、実親に限らず、孤児として拾われたり自分で名付けたりゴッドファーザーに名付けられたりした場合でも同じです)

 字面や語源にこだわって名付けているのか、何となく語感の良さで名付けているのか、くらいなら、おぼろげにでも想像できると思います。

 

 そもそも「平凡な名前」と言う言い方も失礼ではないか、と思う面はありますが、世間一般でポピュラーな名前と珍しい名前の差異はやはりあるでしょう。

 ジョン・ポールと言う「よくある名前」で、容貌もこれと言って特徴の無い男が、世界各地で内戦を引き起こすと言う小説があります。

(これまた、全国のジョンさんやポールさんに怒られそうですが)

 その男が主人公と対面するのはかなり終盤の事で、名前と顔写真、各地でしでかした所業を、情報や書類の上で知る事しか出来ません。

 対外的な凡庸さを強調することで、淡々と争いの火種を撒く性格とのギャップがひしひしと伝わってくる良い描写だと思います。

 

 ちなみに、かく言う私も、雑な命名を否定しきれる立場では無かったりします。

 過去作において、国や地名を以下のように名付けた事があります。


・シャトラ教国

・古代クロネ帝国

・ロアルー連邦国

・幻のショーメア大陸

・インクーン州

・輝路都(きじと)

・茶代(ちゃしろ)市

・端望(たんもう)市

・趙孟(ちょうもう)省

 

 敢えて言わなければ気付かないレベルではあると思いますが。

 

 一見して人物の名前こそ雑だけど、読み進めれば絶対面白くなります!

 と言うのは、大抵の場合において通用しません。

 読み進めて貰うための“掴み”で読まれなければ、つまらなくて読まれないのと同じです。

 これは命名に限りませんが、わざわざ「見限られる雑な要素」を盛り込む必要も無いことでしょう。

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