平然と浮気をする理由?
※今回の話には「正欲(著:朝井リョウ)」の一部内容に触れます。ご注意下さい。
タイトルは、世の中全般の不貞の事ではありません。
物語の人物が(特に主人公が)悪びれる様子もなく浮気をする原因についてです。
まず前提として、日本語で書かれた作品の道徳観は、基本的に日本人=読者の多数派のそれに依存していると考えるべきでしょう。
現在の我が国において、浮気・不倫・不貞……は犯罪にはあたりません。
ただし、既婚者の場合、相手の人権を侵害すると言う意味で民事的な責任は大いに問われます。
まあ、厳密な法律の事は置いといても、大多数の日本人は「犯罪じゃないからセーフ!」などとは考えませんし、犯罪者と同質だと言う認識で考えて良いでしょう。
さて、一般的に悪事だとされているのにそれが相当数行われている……ひいては「基本的に正義側・時には投影対象とされる主人公が当たり前のように不貞をはたらく」要因とは何でしょう。
欲望に勝てずに物を盗むのは窃盗犯のする事で、怒りに任せて人を殴るのは暴行犯の蛮行です。
我欲に負けて一線を越えるのであれば、やはり社会のイレギュラーと言わざるを得ない。
もっと具体的に言うのであれば、私の見た感じでは以下の二通りがあると思います。
・悪事の自覚はあるが、我欲を正当化する事に必死
・そもそも悪事の自覚が無い
●悪事の自覚があるが、我欲を正当化する事に必死
今回の話を思い付いたきっかけが、小説の「正欲」について考えていた時の事なのですが、
群像劇であるこの作品には様々な主役が居り、そのうちの一人に「息子が不登校になっている検事」と言う人物が居ます。
この人物は、検事としての経験則から「社会のセオリーから外れた人間は犯罪を起こす危険が高い」と考えています。
故に息子の不登校も「社会のセオリーから外れたもの」と危惧し、息子が社会復帰の為に(通学以外の)活動に挑戦している事も頭ごなしに否定してしまいます。
つまり、ベテラン検事と言う説得力のある立場から、本作のテーマでもある性的マイノリティが理解されない様を間接的に描いているのが、この視点です。
検事の考え方の是非については、横道になるので今回は触れません。
ただ、息子が社会復帰の活動を行うにあたって、不登校児童の支援を行うボランティアの男が親身になってくれます。
……まあ、大方予想はついたでしょうけど、検事の妻が最後にはこのボランティアの男に走ります。
「夫は否定ばかりで私と息子の悩みを理解しようとしなかった」
「ボランティアの彼はとても親身に、一緒に悩んでくれる」
「(結婚前の回想)私って、どうにも飽きっぽいから」
と、こんな感じです。
妻の願望なのか、男の策略なのか「息子が男の方こそを父親のように慕いつつある」と言うくだりでは気持ち悪さを禁じ得ませんでした。
明らかに、浮気と言う結果が検事の無理解に対応していません。
作者の意図はわかりませんが、この不貞と作品のテーマにも因果関係が薄いので、なおのこと不快感しかありませんでした。(ただし、不快感を覚えた事自体をマイナスとは言いません。この辺のくだりも純粋に考えさせられました)
検事の無理解に報いを与えるなら、単に妻子が家出するだけで事足りるわけで。
決して現実の殺人を肯定するわけではありませんが、殺人にはまだ“戦い”だとか時には“復讐”と言う、やむを得ない事情があり得ます。我欲に依らない書き方も出来るからです。
しかし、少なくとも「現在の配偶者や恋人と決着をつけないままの」浮気に関しては動機が我欲以外の何ものにもなり得ず、当事者がその根拠を並べれば並べる程に盗人猛々しく映ってしまうものです。
そして、並べられた根拠に“正統性”があればあるほど、逆に正論の利用がうまい狡猾さ、小賢しさが際立ってしまいます。
自覚が難しいのも事実ですが、婚姻とはれっきとした契約です。
単なる、好き合ってゴールインしたと言う記号ではない。
私も相手に対しては決して軽くない不満が山積みですし、結婚後に見えてきたものもあります。相手もそうでしょう。
しかし、少なくとも私はそれも含めてその相手を慎重に選びました。相手もそうだと良いですね、ヒヒッ。
とにかく。
婚姻と言う契約を不満と欲望で破るのであれば、まさしく「我欲の為に社会秩序を守れない殺人犯」と同質と言えます。
誘惑したのか、されたのか。真実はともかく、このボランティアの男も妻とは違った意味で気持ちが悪いです。
こう言うのが一人でも存在すると、ともすれば「弱った人妻が選り取り見取り」と言う下卑た人間がボランティアに参加していると言う風評被害すら生みかねない。
時たま、わざわざ他人の関係を引き裂いて達成感を得るような“略奪愛”なるものもあると言いますが……趣味(※ホビーにあらず)はその人間の知性と品性が出るものだと考えさせられます。それでしか達成感を得られない人生は、スカスカで薄っぺらとしか言えません。
勿論「フィクションの人物」としては大いに存在しても良いと思います。
●そもそも悪事の自覚が無い
小説を書く側としては、コレになる方が危険だと思います。
前述の検事の妻は、所詮脇役ですし、ヘイトを集めても構わない立ち位置にあったと思います。
しかし都合よく“鈍感”だったり、都合よく群がってくるハーレムを笑顔で迎え入れる正義のヒーローは、かなりまずいです。
婚姻とは社会的な契約だと言いましたし、例え法的効力の無い恋愛関係であっても、道義的・集団生活的な責任は当たり前に守られるものです。
つまるところこのタイプは「作者には何の責任も生じないから」起こる側面があるのでは無いでしょうか。
かつてプレイしていたネットゲームにおいて、私の居たコミュニティのリアル追放リーダーがコレでした。
その詳細も横道なので別項「リアル“追放リーダー”とチート主人公の相似点?」を読んでいただければ、と思いますが。
顔が見えない関係とは言え、生身の人間が低品質作品の主人公みたいな事を現実にやってしまっているのも、所詮はネットゲームと言う、どのように振る舞っても追及を受けない場だったからでは、と思います。
恐らく、どちらも相手の人格だとか罪悪感だとかを一切感じていないのでしょう。
そして「そこに悪気がほとんど無い」まさしくサイコキラーと同じものが、限定的な状況下とは言え生じてしまっています。
これも、作者がコントロール出来るのであれば、フィクションには存在しても良いと思います。
しかし、一夫多妻が許される社会を狙っているのなら、そこには現代日本とは全く違った秩序があります。
法を破らなければ自由。願望を書く分には自由。
それも確かにもっともです。
大切なのは、それらを理解した上で扱っているか否かでしょう。
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