良いドジっこ悪いドジっこ

 これは天然キャラやドジに限った話でもありませんが「実害を出す過ちは嫌われる」と言うのは大前提でしょう。

 例えば、犬のモンスターに遭遇して、ほねっこを与えて宥めようとして失敗、結果襲われたシーンがあったとして。

「キャー!」と棒立ちで居る所へ「危ない!」と仲間が割って入って引っ掻かれ「ぐわー!」と深傷を負ったとなると、戦犯の謗りは免れないでしょう。

 仲間が大怪我をする大事に対して、原因があまりにも下らなさすぎます。

 この例自体、どうやっても初手の浅はかさは拭えませんが、襲われた人が自分で犬の眉間に打撃を加える(もしくは催涙スプレーを吹き掛ける)→仲間が飛び蹴りを加えて、犬が怯んだ隙に仕切り直し。

 ……と言う風に、最低限度、自分で挽回して貰わないと納得されない事でしょう。

 この場合、裏を返せば、万一犬が襲ってきても自分の責任で対処しきれるからほねっこを与えようとしたとも言えます。

 もしくは、すっ転ぶような気軽さで「1000万円溶かしちゃったー」などと宣われても、ブーイングものでしょう。

 また、話は横に逸れますが、逆に真面目すぎて「正々堂々と戦う!」と道義に拘った結果、ルール無用の敵につけこまれて味方を窮地に陥れても、やはり良い印象は与えません。

 

 さて、天然ボケをかますにしても、TPOやメリハリは大事です。

 ならば、そこさえ気を付けていれば天然・ドジなタイプは許されるのか?

 ここで今度は、いざと言う時の要領が良すぎると日頃の天然な言動があざとい仮面になってしまうと言う矛盾が生じます。

 また極端な例になりますが、体育の授業で散々すっ転んで運動音痴をさらしまくっていた子が、直後に起こった魔物との戦いでキレッキレな立ち回りで魔物を虐殺し出したら。

 学校での姿はあざといキャラ作りだった事になってしまいます。

 そうなると、予期せずその人間性を疑われる事にもなりかねません。

 日常と非常時のギャップはある程度、メリハリとして許されるとは思いますが、天然キャラとしての抜けた短所と、やる時にはやる長所は干渉し合わないよう注意が要りそうです。

 

 当たり前かも知れませんが、人間には必ず短所と長所が存在する。そして短所と長所は、場面によって価値が入れ替わったり、自分の短所に立ち向かおうとする真摯な姿勢が、まずは嫌われない第一歩では無いかと思います。

 そして、自分が書こうとしている人物の長所と短所をしっかり把握し、それらが同居可能か……欲を言えば相互に影響し合っているとなお綺麗でしょう。

 人間の知性には“言語性”のものと“動作性”のものと、大別して二種類あると言います。

 これは、天然やドジを書く上でも応用できるものと思います。

 

 ここで、当創作論で何度か引き合いに出した私の過去作の「テレサ」と「ヴィルヘルミネ(以下、ミネッテ)」と言う女主人公2人を例に出します。

 私の中ではまさしく、この問題に能動的に手を出した唯一の実例です。

 一応、この二人が最適解かはわかりませんが、かなり気を付けて書いた、程度の例として受け取って貰えればと思います。

 

 まずテレサ。

 もう一人居る男主人公に対して2歳年上。

 性格はおおらかで誰に対しても優しく、いつもニコニコしているお姉さんです。

 欠点としては、とある生育環境の影響で若干浮世離れした面がある事。

 頭の良さにものを言わせて“一般常識”を猛勉強し、不特定多数に対しては概ね誤魔化せてはいるのですが、ミネッテ等のある程度以上、時間をかけて接した相手にはその綻びがちょくちょく出ます(=天然キャラのレッテル)

 一方、戦闘においては(これも生育環境の特殊性から)失われた秘術を自在にする、人類では作中上位クラスの魔法戦士です。

 魔法戦士としての強さ以上に、本人が持つ洞察力や冷静さを特に重視しました。

 戦闘時における彼女は、その善性は保持しつつ、冷徹な暗殺者や軍人と遜色の無いプロフェッショナルをテーマにしました。

 これもいつもならあまり手を出したくなかった要素「不殺キャラ」でもあるのですが、それをいかなる状況下でも達成可能な、圧倒的な実力も意識して描写しました。殺したくないから、使えるものを総動員してねじ伏せる。

 また、立場的には前述の男主人公の部下(騎士と従士)の関係となるのですが、堅物過ぎるが故に自己犠牲を選びがちな彼に対して「指揮官に何かあれば部下の命も脅かされる」と言う大人の論理で彼を諌めたりします。(普段は騎士が彼女に真面目な説教をしがちな関係)

 あと、こう言う人物はメシマズキャラにされがちですが、料理は異様に上手くしてあります。この辺は、飯テロ書きたかった個人的な事情もありますが。

 とにかく、いずれも「日常の天然キャラ」とは矛盾しないと思っています。

 

 もう一人のミネッテ。

 こちらは、実績の無さから冷遇され続け、萎縮しきって弱々しい性格になってしまったパターンです。

 恐らく、書くにあたってはテレサよりも難物です。

 テレサが“言語性ドジ”であるなら、ミネッテは“動作性ドジ”でしょうか。

 それまで仕事が振るわなかったのは“予知能力”と言うオンリーワンにして扱いづらい能力しか持てなかったせいです。また、そうした経緯による(愚図、どんくさいと嘲られ続けた)自己肯定感の無さも弱さの根源です。

 小説作品として俯瞰すれば「あっ、使い方次第で化ける能力だな」とはわかるのですが、如何せん彼女は非戦闘員。

 当然、人並以下の反応力と貧弱虚弱な身体能力で敵の数秒後を予知できた所で、何にもなりません。

(エタるまでの段階の)作中でも、彼女単体がいくら頑張っても、その差は埋まらず。

 いわゆる「守りたくなるタイプ」をどうにか模索した人物です。

 思うに「守りたくなるタイプ」と「守らざるをえないお荷物」はまるで違います。

 ミネッテは(エタった以降の)作中後半まで、仲間にフォローされる中でも自分の無力に足掻き、それでも結果を出せず、テレサと言う唯一にして得難い友を死地に送り出す事しか出来ない現実となお向き合い、無駄とわかりつつ彼女の助けとなる思索を続け、やがては……と言う感じでしょうか。(その結果が明るい未来とは言ってない)

 勿論、何だかんだで、彼女の予知能力(+それを基盤とした仲間のフォロー)が無ければテレサら実地部隊が死んでいたであろう展開は序盤からたまーに入れてありました。

 

 

 

 しかし、まるっきり弱かったり、自分の事しか頭にない良いとこなしのドジが必ずしも需要が無いかと言うと……自信はありません。

 前述のミネッテにした所で、逆に、作中に実害あるミスをほとんどしていないのはご都合主義でもあるかも知れません。

 とにかく、全方位的に有能な人間が居ないのと同様に、全方位的に無能な人間も居ない。

 ここは意識して損は無いのでは、と考えます。

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