致命傷のあれこれ
致命傷。読んで字のごとく、命に関わるダメージです。
どんなジャンルの物語にせよ、一目で「あっ、これは死んだな」と思わせる描写はおよそ決まっていると思います。
(辛うじて生きていた、と言うパターンも結構ありますが)
わかりやすい致命傷の描写としては、急所を刺されたり撃たれたり、と言うのがポピュラーです。
しかし、それら頻出する表現は本当に理に叶っているのかを見ていきましょう。
●ヘッドショット
頭部を銃で撃たれる。
最もわかりやすい致命傷の形かと思われます。
実際、脳に充分な破壊を与えられれば即、死に至らしめる事が出来る……死ぬ前の反撃を防ぐ事が出来る利点があります。
特に人質を取られているような状況である場合、一発の狙撃で即死させるのは重要とされます。
しかし、戦闘や戦争と言った多対多の戦いにおいては必ずしも有効ではありません。
主に、成功率の問題です。
言うまでもなく胴体よりも的が小さく、目まぐるしく動き回るそれを撃つのはかなり難しい所です。
ヘッドショットに拘泥して狙いを絞っている間にも、敵の攻撃は止みません。短時間で敵の数を減らさねばならない集団戦で、狙う的を小さくするのは悪手になります。
また、あくまでも成功条件は「頭部を破壊する」のではなく「脳を破壊する」点にある事も忘れてはいけません。
頭蓋骨とは意外と強靭なもので、拳銃程度なら跳弾してしまう事も珍しくないようです。
また、頬に穴があいたり骨が砕けたりしたとしても、戦力はほぼ減衰しない事でしょう。
その点、臓器が多く点在している胴体の方が、急所の数も多いと言えます。
首をはねるような場合も同様です。
こちらは特に示威の意味合いの方が強いでしょう。
ヘッドショットによる一撃必殺を狙うにしても、面積の大きい胴体を傷害し、失血などで弱らせてからになるでしょう。
●心臓を一突き
心臓もまた、急所の代名詞と言えます。
有名な話ですが、刃物で狙う場合はうまく肋骨を避けないと刺さりません。
ざっと調べた所、およそ9センチで心臓に到達するそうで、これが傷害された場合の死亡までの所要時間は約3秒。
これも、乱戦時にピンポイントで狙う意義はそれほど高くないと思われますが、電撃は心室細動などと結び付けやすいので、その手の攻撃を心臓に命中させても、わかりやすい致命傷の描写となるのでは無いでしょうか。
●殺さないよう手足を狙う
ある意味、致命傷とは真逆の話に思えますが……手足を攻撃して殺さずに無力化と言う話も良く聞きます。
しかし当然ですが、大腿などには太い血管が走っている為、ここを刺されたり撃たれたりすると普通に失血死します。
●世界観による致命傷の差異
戦闘など無縁な現代ドラマであれば、急所がうんぬん致死量の失血がうんぬんに、そこまでこだわる必要は無いでしょう。
単に「腹を刺された」の一言でも充分でしょう。
逆に、回復魔法が存在するような世界で殺害される場合は、処置が間に合わなかった理由付けが必要となるでしょう。
このように、致命傷の定義はジャンルや世界観によって大きく変動します。
●おまけ・救護について
戦争において、敵を殺すより瀕死に留めた方が、他の敵がその救護に手を割かれて効果的である、と言う説は有名です。
しかし、今回の話を書くに当たって調べた所、逆の意見を見付けました。
曰く、仲間が死体になったとしても放置できないのは同じなので、瀕死に留めるメリットはそんなにない、と言うものです。
しかし、個人的には戦術的な状況とのバランス次第と思います。
仲間の死体にこだわって、更に犠牲者を出すような戦術は流石に取れないし、ひとまず目の前の戦いやその場を制圧してから死体を回収する選択肢もあるでしょう。
倫理を優先するには、まず自分達の生存を確保してこそです。
やはり「頑張れば助けられるかもしれない」と言う状態は、充分なプレッシャーたり得るものです。
無論、乱戦時でも正確に脳を撃ち抜ける凄腕と言うのもフィクションの世界でなら有りですから、正否の面においては必ずしも現実に照らし合わせる必要はありません。
思うに致命傷とは、一目で「死んだ」と伝えるための記号表現でもあるのかも知れません。
個人的には、もののけ姫において、弓矢で首が飛んだシーンがかなり印象に残っています。しれっと淡々と流れたシーンなのですが。
しかし、無力化させるために手足を狙ったつもりのケースなど、フィクションだからでは済まない事もあります。
作り話をでっち上げるにしても、リアルを知っておいて損は無い筈です。
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