政治描写あるある
政治と宗教と野球の話はするな、とは良く聞く言葉です。
特に、私は自分の生きる世界の政治すら満足に理解出来ていないので、それを作品に組み込む勇気はとてもありません。
この創作論で真っ先に「型破りには、型を熟知する必要がある」と書きましたが、政治や世界情勢を描く為に身に付けるべき“型”は、あまりにも膨大で複雑なものです。
そして、受け手の立場によって善悪が簡単に反転するものなので、何を書いても確実に誰かの反感を買うと思われます。
ただ、良く出来ている為に反感を買う事と、粗があって反感を買う事では、前者の方が断言良いでしょう。
作品のコンセプト次第では避けて通れない事もあるこの要素。良く見掛けるパターンをもとに、考えてみましょう。
●民主主義万歳
王政の異世界に民主主義の産物をねじこむパターンも散見されるようですが……政治や歴史は、その世界の有史以来から無数の事柄が影響し合い、連続した結果のものです。
画期的なアイディアとやらも、現行の秩序に照らし合わせて有意義であるからこそ、人に恩恵をもたらすのです。
石器時代に現代の貨幣を持ち込んだり売春を禁止しても、ろくな事にはなりません。
民主主義が成立するには、そもそも識字率に代表される「全国民の平均教養」が一定水準以上でなければならないと思います。
為政者だけが知識をつければ良いわけではなく、つまりは個人単位の努力でどうにかなるものでもありません。
また、独裁者が必ずしも圧政を敷くわけではなく、むしろ国民の幸福度が世界上位の独裁国家もあり得ます。
独裁とはあくまでも手段に過ぎず、独裁=私腹を肥やす目的 とは限らない。
善政の為に他人の意見を排除した結果かも知れず、独裁者本人がプライベートでは極めて清貧・禁欲的な生活をしている事もあり得るでしょう。
逆に、奴隷階級が反乱を起こして主権を奪い返した結果、興した政権に実務能力が無かった為に、国が余計に悲惨な状態となる事もあり得ます。
支配されていた時の方がむしろ人間的な生活が出来ていた、では本末転倒です。
現代の日本、および先進国のルールが絶対的な正解とは限りません。
我々が、何だかんだ不満を漏らしながら学校や仕事に行っている事が良い証拠です。
本当は誰も見つけていないだけで、働きたい人だけが働いても成立する方法が何処かに存在するのかも知れないのです。
そんな絵に描いた餅を追い掛けていては現在が立ち行かないわけで、今よりももっと前時代的な体制下で生きている世界の人にとっては民主主義が絵に描いた餅である場合もあるのです。
●架空の世界に現実のそれを原液のままぶちこむ
以前読んだファンタジーで、かなり凝った世界観設定だったのですが、唐突に主人公が共産主義と思われる政治思想を批判し出したり、ある人物が派遣切りがもとで命を落とした事が大事件の発端になったりして、この辺だけ異物感が凄かった覚えがあります。
特に後者は、現代日本並みの機械文明に加えて魔法文明も同時に広く浸透しており、そこまで若者が困窮するような世界に思えなかったので、そうなる前に就職活動頑張れなかったのか? と無粋な事を思ってしまいました。
異世界など、文字通り我々が暮らすそれと異なるルールの世界観を楽しむために読んでいるわけで、そこになまじ馴染み深い事柄を差し挟まれると、急速に醒める危険があります。
無理矢理にでも特定の社会問題をねじ込みたい・現実での個人的な鬱憤を吐き出したいのかな? と言う勘繰りもしてしまい、それまでの出来が良くても失笑を買いかねません。
こと、この国ではイデオロギーの類は胡散臭いものとして処理されがちですし。
また、魔法や魔物が存在するなど、環境の違い一つが政治を大きく変えます。
例えば、宗教国家を書くにあたって現実のバチカン市国、およびカトリック教会をそのままモデルにするケースは多いかと思われます。
しかし、その世界における教皇が「世界を安定させる能力」を持っており、尚且つそれが、直系の血族にしか遺伝しないものだとしたら。
現実のように教皇を選出する余地がありません。
星の維持と言う人類全体の実理のために、教皇は世襲でしかなり得なくなります。
と言う事は、枢機卿団がコンクラーベを行う権限も無くなるわけで、そもそも聖職者による階級制度すら有効で無くなるかも知れません。
いやいや、必ずしも一族独裁になるとは限りませんし、次期教皇を適切に教育しなければならないと言う事で、枢機卿や大司教の権限が違う意味で大きいかも知れません。
教皇の在り方をちょっと変えただけでもこの騒ぎです。
そしてそもそも、宗教国家の象徴として書かれがちな十字架。
このルーツは、言わずと知れた、イエス・キリストが磔刑にされた時の刑具です。
と言う事は、もしもイエス的な人が歴史上存在しない世界であったなら、十字架を教会のシンボルとする習慣は存在しないはずです。
世界を維持する、世界で唯一の特殊能力者を磔刑にするとは通常考えにくい所です。
●政治家は悪者・小物扱い
……と言う扱いを創作物で頻繁にされる程にヘイトを集めがちな仕事を、よく自ら引き受けるものだと個人的には尊敬しています。皮肉は一切無く。
どんな形であれ“好き”でなければやってられない仕事でしょう。
悪徳政治屋を擁護するわけではありませんが、私は現代の為政者やお国の為に働いている人は、どんどん美味しい思いをするべきだと思っています。
もっと身近に、社長や役員が、休日出勤のヒラを尻目にきっちり週休2日で高級車を乗り回していても悪くないと思います。
自分もゆくゆくは、あんな身分になりたい。その“夢”を持って、将来の優れた指導者が生まれれば良い。
以前友人が「公務員の待遇をまだまだ絞るべき」と話していましたが、それでは優秀な人材が民間にばかり流れていき、国の仕事をしたがる人間が居なくなる……と私は彼に言いました。
悪徳政治屋は、あくまでも「私腹を肥やす事しかせず、国のマイナスにしかならないから悪い」のだと考えます。
また、時には保身によって浮かぶ瀬もあると思います。政敵に対して無防備になり、失脚したり暗殺されていては、どんな崇高な志があっても無意味です。
ある悪徳政治屋が存在すると言うことは、その椅子を狙った別の悪徳政治屋も居るだろうと言う事です。
仕事もせず札束を満載した風呂で戯れているようなステレオタイプの俗物は、下手をすれば主人公に存在を認知されるより先に瞬殺されるでしょう。
王政のような世襲の場合は、能力の問われ方ももう少し緩いとは思いますが……それでも「何一つ出来ない全方位的な無能」と言うのは余程のレアケースかと思います。
人には大なり小なり何かしらの得意分野はあるでしょうし、みみっちい横暴ばかり働いているからと言って衣食住・遊興以外にまるで興味が無い事もあり得ない。
何だかんだ、仮にプロパガンダがやりたいにしても、素直に「あの国に悪いボスが居るぞ、やっつけろー!」とした方が、却って良いのかも知れません。
人は、その集団に一人でも極悪人が居ると集団そのものを憎むものですし。
少なくとも、齧った知識でちぐはぐな理屈を展開するよりは……と言ったものの、政治の話は攻撃されやすい=間違いが許されない=意見が言いにくくて人が育たない
と言う事を考えると「安易な政治描写は駄目よ」とも言いにくい所ですね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます