リアル“追放リーダー”とチート主人公の相似点?
前回「めざめ」の人物・羽部について触れたおり、昨今の追放もののルーツは、もしかしてネットゲーム(主にMMORPG)にもあるのでは? と、ふと思いました。
とは言え、私が最後にネットゲームと言うものに触れたのは、もう十年も前になります。
どんなゲームが、どのようにプレイされているかも全く把握していませんし、SNSの発展もあってネットにおける人間模様自体がこの十年で結構様変わりしている筈です。
また、ゲームのタイトルによってもプレイヤーの傾向は違うと思われますので、今から書く内容が必ずしも現状に当て嵌まるかの保証はしかねます。
あらかじめご了承ください。
……と、厳重に予防線を張っておきます。
ただ、私が羽部を作るのにあたって参考にしたように、十年前にネットゲームで腹にすえかねた事があったのを、そのまま当て嵌めている作者も居るとしたら、この推測もあながち間違いでも無いかなとは思います。
今日のWeb小説の作者って、その世代が結構な割合を占めていそうなイメージですし。能力を得てモンスターと戦う、と言う意味では流用もしやすい事でしょう。
とにかく、私が見聞きした事例から、テンプレ要素を比較してみましょう。
●追放するリーダーは実在する
ただし、よく耳にする「お前はクビだ」と面と向かって宣告するタイプは居ないと思われます。
いくら追い出される人が満場一致の嫌われ者だったとしても、一方的な追放はリーダーの手を汚す事になります。
この手のリーダーの地位やコミュニティとは、仲間意識だとか思いやりだとかの環境演出によって成り立っているので「使えないから捨てる」と言う事が出来ません。
そう言うわけで巧い追放のしかたとは、本人から自発的に去って貰う事です。
急にリーダーとの口論が増えたりすると、ターゲットのモチベーションは自ずと下がることでしょう。
口論とはつまらないきっかけから起こる事も多いので、特定の誰かが口論に巻き込まれると言うのは、当事者達の“主観”に大きく左右されます。
ターゲットの何気ない一言がリーダーの機嫌を損ねた、と言う事が「たまたま連続する」事もあり得るのです。
また、RPGと言う性質上、戦闘時のチームワークに言及すればいくらでも批判の材料は見つかります。
戦術の細かい所一つ一つを拡大解釈し、気に入らない相手を“正当に”罵倒する……パワハラ上司と同じ手口です。
「仲間との絆があれば、経験値もアイテムもいらない!」と言ったその口でやってのける様は、まさしくサイコパスのそれです。
そしてターゲットはコミュニティに嫌気がさし、自ら脱退。
「あいつが自分で決めた事だ。引き留める事が出来なかった……」
などと沈痛な面持ちで呟く事で、一件落着となります。
この残念な出来事を共有する事で、残ったメンバーの友好度上げにも再利用出来ます。エコですね。
●ハーレムは一部実在する
ただし、正妻1人+宙ぶらりんの関係2人程度が、私が見た最高記録でしょうか。
もしくは正妻2人体制(+サブが何人居たかは不明)でそこそこ続いたが、最後に爆死した例も見た事があります。
と言う事は、現実的に正妻は1人が限度なのでしょう。
この正妻ポジションは、容易に変動するよう調整する必要もあります。(正妻と関係が悪くなり、サブの相手が正妻に繰り上がって入れ替わる)
先述の、追放したい相手と不自然に口論が増えるようなケースは、ここでも応用されると言う事です。
正妻の椅子を常に管理しつつ、サブのご機嫌も取らねばならない。そんな労苦をよく自分から背負うものだとは思います。
故に「相手が勝手に主人公に好意を持つ」と言うシチュエーションが好まれるのでしょう。
快楽のためのハーレムで、要らぬ神経を酷使されていては本末転倒です。
●チートによる逆転劇は存在しない
基本的に、ネットゲームの世界にオンリーワンの能力はありません。極論、全てのプレイヤーの伸び代は等しい所で頭打ちです。
別に自分が書きたいのはネットゲームではなくファンタジーだ! と思っていても、
少なくとも“スキル”と言うカテゴリに能力が割り振られているのであれば、プレイヤー(冒険者)全体が全てを解明していると思って良いでしょう。
「地味だが使い方次第で化けるスキル」なんかは、真っ先に認知され、それを軸にした戦術が一般化してしまうでしょう。
●同性の仲間は踏み台、は事実
ただし、リアル追放リーダーは「称賛はタダで得られるものではない」事を一応理解しています。
なので「君のヒーラーとしての腕前はあてにしているよ!」「俺達ずっと友達だよね!」(俺って良いリーダーだよね? チラッチラッ)と、返報性に訴えかける努力はしています。
ただ、リーダーが次期愛人候補を慰めている時などは口を挟んではなりません。
私も空気を読めない方なので、その人の悩みに馬鹿正直に解決策を述べたら、あらゆる言葉尻を取られて「お前の考えは間違いだ! 彼女が余計に傷つくだろ!」と吊し上げられた事があります。
モブキャラが余計な台詞を喋ると“好感度上げイベント”のテンポを損ないます。モブの分を弁えましょう。
●没落は緩やかに起こる
当然ですが、そんな虚飾と粛清にまみれたコミュニティの行き着く先は衰退しかありません。
しかし、今あるギルドやパーティが破綻して即破滅するほど、一個人の破滅とは軽いものではありません。
ちょっとズレるかも知れませんが、私の辞めたブラック会社も、私の後に現場の要だった先輩も辞めた事で壊滅状態になっているそうです。
しかし、それで即死するほど、企業と言うものも脆くはありません。
私の元リーダーの場合は、ギルドの過疎化が始まった辺りで他のコミュニティとの交流をスタートさせ、完全にそちらへ移行して行きました。
私としても、そんなに長くこのゲームを続ける事はないと思いつつあった時期であり、一部の仲間と共に
新しいコミュニティへ移り「ゲームはゲーム、リアルはリアル」と理解している人達と、ゆるくレベル上げをしたりアイテムを狙ったり、良い“余生”を過ごせたと思います(こう言うのもスローライフ?)
羽部のような人間において、全体を通して言える事は「適度に弱さや抜けている部分も作っている」事です。
ある程度、三枚目キャラも演じておくと、多少のミスや不条理は笑ってスルーされます。追放やパートナーの乗り換えと言った下衆な行為も「弱さも人間性」「抜けている所も魅力」で許されてしまうものです。
横暴を働いて無事な人物には、それだけのずる賢さがある。例えそれが、実力のなさを口で補っているものだとしても。
そこを意識すると、ただ主人公に逆転されるだけ(あるいは強大な力をみみっちい意趣返しに使うだけ)の人形ではない、良質なテンプレ主人公やかませリーダーを作る足掛かりになるのでは無いでしょうか。
相反する筈のこの二者が、同じ論理のもとに語れると言う事は、やはり根幹は同類なのでしょうか。
あるいはチート主人公を書きたがる作者ほど、羽部や私の元リーダーのような人なのでしょうか。
ここからは余談。
私の所感としてネットゲームにおける人間関係とはちょうど「現実と虚構の狭間」にあるのだと思います。
お互いにゲームの範疇内でしか干渉出来ず、実社会でのような責任も生じようがない。
ロールプレイと素の顔が都合よくスイッチされるので、このような無法も起こりうるのでしょう。
また、私の周りでは「レアアイテムを手に入れた事をひけらかすのは、それに手の届かない仲間(俺様)を傷つけるのでタブー」と言う共産主義じみた風潮もありましたが、
これが実戦であるなら、仲間の戦力増強は、自分達の生存率にも関わるわけで、歓迎すべき事です。
ネットゲームとファンタジー小説は親和性こそ高いが、遊びか命懸けかの絶対的な違いがある。
これもまた「ゲーム要素の罠」と言えるでしょう。
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