昨日の敵を今日の友にする

※今回の話題には虐殺器官(著:伊藤計劃)およびDDD(著:奈須きのこ)の内容に触れる部分があるのでご注意ください。

 

 先日、打ち切りと言う形で完結した「めざめ」なのですが、これに登場した羽部太一と言う人物を、最終的には思いのほか良い感じに書けたと思います。

 どう言う人物かと言うと、元々コミュニティのリーダー格で主人公と能力が被っており、人間関係でも戦いでも悉く主人公の存在を食ってしまう(羽部から見ると歯牙にもかけていない)存在です。

 主人公が、この人良いな、と思った女の子も悉く羽部と付き合い、元付き合っていた子とは何となく“自然消滅”しては次の子と付き合う、と言う事をしているのに誰もそれを咎めるどころか、羽部をリーダーとして慕い、新恋人との関係を祝福する。

 けれど行動そのものは、命懸けで魔物を討伐している以上でも以下でもないので全く非がない。主人公も羽部にはあまり興味がない事もあり、基本的には遠巻きに見ているだけだが、魔物を殺す寸前で羽部が乱入し、止めと手柄をかっさらわれる事もあります。

 挙げ句、当初太っていたヒロインが戦いと避難生活で痩せると見るや、主人公と彼女の間に割って入って邪魔をする。(ヒロインに気がある事実を一切見せず、あくまでもヒロイン側から自分に靡くように仕向ける・正論で主人公の株を落とす)

 ……と言う所までは決まっていたのですが、この羽部と言う人物の結末については色々と迷いがありました。エタっていた理由のひとつとして「羽部をこの後どうするか?」と言う問題も多分にありました。

 見ての通り、主人公を日陰者にし、しかもその自覚が全く無い。聖人君子を演じながら女癖が悪いが、それ以外の行動は真面目で、悪い事をしている証拠も無いから、打ち負かして解決する事がそもそも出来ない。

 ここまでは、読者のヘイトとフラストレーションを溜めまくる役回りです。

 しかし、このまま羽部がボロを出して主人公の制裁を受けると言うパターンではあまり面白くない。

 かといってその報いが無ければ、作品そのものがただ読者を苛つかせて終わる。


 結果。

 蓋を開けてみれば、街に魔物が現れたのは、実はこの羽部が召喚したからであり、この頃には、羽部にとっての主人公が「自分の思い通りに動かない邪魔者」になっており、痺れを切らして襲ってきた。

 ……と言う流れを採用しました。

 しかし、この後羽部は、主人公と共に黒幕へと挑みます。

 私ははじめ「ここまで酷いと和解はまず無いな」と思ったのですが、同時に「しかし、これで反省も無しに和解したら逆に面白いな」とも思いました。

 羽部がこれまで散々やらかした小悪党ぶりは全てが善意から来ており、本気で「死闘を通して仲間達と絆を築く!」と思っていたのは元々決まっていました。

 実際、彼が授かった召喚魔法は術者の寿命を削ると言う反動がありましたが、それには全く頓着していませんし、恩に着せる発想すらありません。

 むしろ「俺が仲間達のために命を削る!」と言う有り様です。

 恋人を飽きたら次に乗り換えていたのも、その時その時のお互いの幸せを願っていたつもりだったし、金を返さないのも「信じ合えているなら期限や利子もなく待てる!」と言う考えをナチュラルにしていたから。

 そして羽部は、黒幕に挑むと言う共通の目的を持った事で(一方的に)志を同じくし、最期は召喚魔法で命を使い果たして死にます。

 事実上、羽部は最後の最後で、主人公達を守って死んだ事になります。

 これは「現実の方が自分の思惑に従うのが当然」と言う考えから魔法を止めると言う発想がなく、勝つまで魔物を召喚し続けた、彼の性分がもたらした結果でもありましたが。

 

 私が市販の作品で面白いと思った例は、DDDと言う小説で、A級殺人犯が好き放題暴れた次の場面で、主人公と呑気に部屋でくつろいでいたシーン。

 この作品の主人公は別に正義側でもないし、殺人犯と争う理由もないので、あり得ない絵では無かったのですが、割とインパクトがありました。(殺人犯に中二くさい異名までプレゼントしている)

 あとは虐殺器官において、これまでのジレンマを爆発させた主人公が、暗殺対象だった黒幕に味方し、最後にはその意志をも受け継いだ事です(しかもこの黒幕は、主人公が惹かれつつあった女性と不倫関係にありました)

 

 余談ですが、察しの良い方は気付かれた事と思いますが、この羽部のモチーフは昨今のテンプレ小説に見られる「追放もので主人公を迫害していたパーティリーダー」だったりします。

 そして、私がさるネットゲームをやっていた頃のギルドマスターが多少モデルとなっているのですが(彼に都合の悪いメンバーの何人かは“自発的に”コミュニティを出ていきましたし、私もゲーム内通貨で1000万ほど踏み倒されかけました)

 この材料で実際に料理してみると、嫌なパーティリーダーの対極にある筈の“チート主人公”みたいなキャラになってしまったのが興味深い所でした。

 やっている事が小悪党なのに、周りの盲信のせいで常に正義側に立っている。

 別にこれも、狙って皮肉を書いたわけではありません。普通に、先述の実体験から「追放もののパーティリーダーってこんな感じかな?」と思って作ったつもりでした。

 私の感覚が変なのか、それとも、この二者は実は本質的に同じなのか。

 ただまあ、羽部に関しては結果的に「チート勇者だろうが、かませリーダーだろうが、どちらでも同じだった」のも本音です。

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