議論戦闘

 戦闘の最中に互いの意見もぶつけ合う。

 リアリティ的にもテンポ的にも、些か無理のあるシチュエーションです。

 剣道やボクシングの試合で想像してみるとわかりますが、席に着いて議論するようにスラスラと声が出るとは思えません。まず、そんな肺活量と集中力があるなら、その分を攻撃の為に回すでしょう。

「一人を、犠牲にして、大勢を守るなど、ぐへっ、間違っている! げほっげほっ」

「馬鹿め、ぜぇぜぇ、その一人を救おうとして、ごふっ、大勢が死んでは元も子もうべらっ!?」

 それはあくまでも現実の話で、創作の世界では充分に可能ではあります。

 しかし、こと小説となると描写を重ねるごとに時間の流れが遅くなってしまいがちなので、戦いのスピーディさやリズム感が損なわれます。

 アニメやゲームだと、映像と議論を同時に流しても受け手が同時に処理しやすいのだは思います。小説のような文字しかない媒体とは異なり、映像では目と耳の、二つの入り口が使えるので。

 ゲームの場合、ターン制のRPGなどはプレイヤーが任意でコマンド入力をするわけですから、元々時間が止まっている事を受け手が認めています。

 また、会話と言う“イベント”と“戦闘”とがある程度デジタルに分けられるので、攻撃の前後に会話を挟んだとしても、そう冗長さを感じないのでしょう。

 アクションゲームなどのリアルタイムで進行するタイプのゲームにしても、別撮りした議論を再生するような形で流しながら戦わせるケースが多いかと思われます。(言い合いを背景に流しながら、掛け声と共に斬り合うなど。戦闘中のテンションの中で議論の内容は伝わってくると共に「いつ話しているのか」は曖昧に出来る)

 とにかく、これらの手法も映像と音があってこそのもの。小説で再現するのは難しいものがあります。

 

 とは言え、リアリティを気にして、無言で打ち合う描写ばかりでも味気ない。

 何だかんだで主義主張をぶつけながらの戦いには勢いと魅力があります。

 そんなわけで、小説で議論戦闘を無理無く書くにはどうしたものか考えてみます。

 

●鍔迫り合いや取っ組み合いで膠着したタイミングを狙う

 これも現実にやると大変そうではあります。

 膠着状態をずっと続けるわけにはいかず、お互いにそれを打破する隙をうかがっている筈です。話をして集中力を乱すべき時なのかどうか。

 また、アクションの動きが止まるのは確かなので、乱発するとリズムを損ねるかと思われます。


●間合いの離れたタイミングで会話する

 これも、先の鍔迫り合い・取っ組み合いと似ています。

 実利を考えると黙って間合いを測った方が有意義ではあるので、そうまでして掛けたい言葉なのか一考が要ります。

 また、一度互いの手を止めて話すので小説的にテンポが犠牲になるのも同じです。

 

●配下や仲間に前衛を任せ、手の空いた者同士で話す

 恐らく視点のフォーカスが、話している当事者に向く筈です。

 と言う事は、戦闘自体が一時的に「視点から一歩引いた状態=大なり小なり他人事」になるとも思います。

 

●銃撃戦や魔法戦にする

 遮蔽物に隠れながら行うこれらは、互いの距離感が遠く取れます。

 つまり、近接戦闘に比べて遥かに攻守のスパンが長いとも言えます。

 なおかつ、一度の油断が致命傷を招くので、ある程度の緊張感も保てます。


●テレパシー能力を利用する

 これは私個人のやり方なのですが、テレパシーや電話などの会話文を「」の代わりに《》で表現しています。

《この国を暗君のものにするくらいなら、暴君に渡した方が何倍もマシだ!》

 こんな感じで。

 この《》を通信や交信のものであると先に理解してもらう事により「と言った」だとか「とテレパシーを送った」だとかの地の文をまるっと免除出来るので便利です。

 肺活量云々の問題もクリアされます。

 また、これも個人的な見解なのですが、テレパシーによる交信とは「情報を光速で、相手の脳に直接入れる行為」だと思います。

 例えば「あいうえお」と発声して伝えるのと《あいうえお》と五文字or五音を瞬時に記憶に刻むのとでは即効性がかなり違うと思うのです。

 無論、受け取った内容を吟味する分のタイムラグは変わらないのかも知れませんが。

 テレパシー等と言う特殊能力が成立していなければならないので、使える場面は限定されますが。


●決着の直前に話をまとめる

 お互いの戦力が拮抗している間は戦闘描写に集中し、お喋りは最低限。

 優劣が九割がた決まった戦闘終盤であれば、話す時間が出来るのでは無いかと思います。(勝ちそうな方が、余裕綽々で話し掛ける)

 ただこれも、非戦闘時に話すのと大差ない気もします。

 話すだけ話しておいて劣勢側の逆転劇など、やり方一つでドラマチックにはなると思いますが、それはまた別の話な気も。

 

 やはり、議論戦闘の肝とは「現在進行形で命のやり取りをしているテンションで話す」事にあるでしょう。

 そんな状況だからこそ、机上での論争では出せない名台詞が生まれ得るのだと思います。

 今回一通り考えてみて気付いたのですが、議論戦闘の勢いは、当事者達の立っている位置に綺麗に比例していると思います。

 結局、部下よりも自分が戦い、銃よりも剣で戦い、テレパシーよりは肉声の叫びの方が力強い。

 そして、そうして命を擲つ程に喋りにくくなる(アクションのスピードが損なわれる)

 勿論私の言う「肺活量うんぬん、間合いに対する集中力うんぬん」も無粋な事ではあります。

 それらを敢えて無視するにしても、小説と言う媒体を選んでいる以上「文字がかさむ」と言う問題からは逃げられません。

 あるいは、そうしたあらゆる矛盾や不条理を「議論の力強さで全て捩じ伏せる」と言うのも勿論ありでしょう。

 格好いいから、だけでも無く、逆に無理だと決めつける事もなく、巧いこと表現出来れば良い要素だと思います。議論戦闘。

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