奇書をゆるく紹介「大相撲殺人事件」

 文字通り、大相撲を舞台とした推理(?)小説です。

 こちらはタモリ倶楽部でも取り上げられた事があり、かなり有名だと思いますが、あらすじでここまで惹き付ける作品はそう見た事がありません。

 角界に殺戮の嵐が巻き起こる! と言う、普通に生きていたらまず遭遇しないであろうフレーズから、

 立ち合いの瞬間、爆死する力士、

 頭の無い前頭、

 密室状態の土俵で殺された行司、

 と言うちょっと常軌を逸したシチュエーションが、さも当然のようにポンポン飛び出して来ます。

 これで中身が気にならない事はそうそう無いだろう、と言うくらいの訴求力だと思います。

 担当者が言うには、順当に内容を並べたらこうなったに過ぎないらしいのですが、事実、あらすじが見直される以前は作品自体がそれほど売れていなかったそうです。

 

 そんなわけで肝心の内容ですが、恐らくミステリとしてのクオリティを期待すると肩透かしを食います。

 私自身、ミステリが苦手なのを差し引いてもトリックがチープに思え、推理するだけ無為にすら感じました。

 これは相撲と言うネタに任せてロジックをおざなりにしていると言うよりは、意図的に「ゆるいバカミステリ」をやっているような印象でした。

 しっかりしたミステリを書く筆力が無いのでは無く、敢えて本作では書かないでおいたのではと思います。

 軽く調べた感じ、他作のパロディや皮肉を込めている部分もあるとか無いとか。正直、ある程度ミステリに造詣が無いと置いてけぼりになると思います。

 それならそれで「相撲と本格ミステリ、奇跡の融合!」などと書かないで欲しかった所でもあります。

 しかしまあ、

「一年足らずで幕内力士の40パーセントが死んだ」

 とか、

「山奥の洋館で、相撲部屋の力士が一人一人殺されていく(力士のような家主・力士のような執事が居る)」

 だとか、

「殺した力士のパーツを組み合わせて理想的な力士を造ろうとした猟奇殺人」

 とか、そもそも、

「探偵役の力士」

 だとか。

 真面目な話、巷で“パワーワード”とか呼ばれるこうした言葉を目にするのは、結構良い刺激になるとも気付かされました。

 

 色々脱線しましたが。

 とにかく、実際の本文は色々な意味で薄味だったと思います。

 それだけにやはり、このあらすじがどれ程の威力だったかを物語っています。

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