奇書をゆるく紹介「高慢と偏見とゾンビ」
高慢と偏見は、18世紀イギリスの恋愛小説であり、本国では知らぬ者の居ない古典作品です。
我々の感覚で言えば夏目漱石のこゝろくらいの知名度と思って良いでしょうか。
さて、そんな作品が2016年にもなり、遠くアメリカ合衆国にて再浮上しました。若干、形を変えて。
それが今回紹介する「高慢と偏見とゾンビ」です。
この作品は先述の高慢と偏見を丸々コピペした後、要所要所にゾンビ襲撃シーンを付け足すと言うある種の暴挙から成ります。
あまつさえ、原作者のジェイン・オースティンとの“共著”を謳っているのだから、ジョークにしても剛胆なものです。
そしてこれをマッシュアップ小説だ! と勝手に造語を作ってゴリ押ししてくる図々しさには、一周回って元気付けられるものがあります。
(マッシュアップと言う言葉自体は、既存の曲を組み合わせると言う音楽用語だった筈ですが)
知的で全方位的に完璧だが歯に衣着せぬ物言いが災いして嫁の貰い手が無い主人公エリザベスと、不器用さ故に冷淡な人間だと誤解されがちな資産家の息子ダーシー。
そんな彼らが周囲との複雑な人間模様を経て、互いに対する偏見に気付き、男女として惹かれていく……。
当時の女性達が置かれた社会的な立場も交えつつ描かれるロマンス。少女から一人の女性への変遷。
はじめの出会いは舞踏会。
突如乱入したゾンビの大群を“死の五芒星”なるフォーメーションからの連携で屠って行くエリザベスら五姉妹。
また、ゾンビを卓越した剣術で始末するダーシーだが、エリザベスはその姿に冷酷なものを感じ、嫌悪する。
またある時は、単身、街道を行くエリザベス。
当然のようにゾンビの襲撃を受けるが、これをあっさり返り討ちにした挙げ句、首級を掲げて1マイル四方にも及ぶ勝鬨をあげるエリザベス。
「レディともあろうものがニンジャも使役せずに自分で戦うなんて、何とはしたない!」と、エリザベスの無作法に軽蔑の目を向けるキャサリン夫人(ダーシーの叔母)
キャサリン夫人にけしかけられた二人のニンジャのうち、片方の腹を裂いて腸を引きずりだすエリザベス。
そしてその腸でもう片方のニンジャを絞め殺すエリザベス。
などなどなど……「後で取って付けた部分」が普通に面白いのがまた性質が悪い(褒め言葉)
およそ小説として正道の志などありませんが、大勢を笑わせて“感動”させたもの勝ちと思えば、この作品は新たな境地を見いだす事に成功したのかも知れません。
しかし、この手は恐らく一冊か、よくて二冊読めば飽きられるとも思います。
最初に引き合いに出した夏目漱石ですが「こころオブザデッド」なる作品も世の中に存在するようで。確かこちらは小説ではなく漫画だったかな?
誰もが知る古典作品(時にはアンパンマンやサザエさんも)をいじる手法それ自体は昔から良く見かけますが、普遍性が高いからこそ、子供の落書きレベルから上を目指すのが困難です。
高慢と偏見とゾンビの場合、最初に出たのが本国イギリスで無かった事も勝因だったのかな? とも。
※こころオブザデッドに対する批判ではない事を追記しておきます。
小説に禁じ手は無い、と言うのは私も常々思うことであります。(勿論、法律に背かない範囲で)
そういう意味で、面白いだの出来の良いだのと言う範疇から漏れだした“奇書”として、本作を挙げた次第です。
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