熟練者の慢心
私事ですが、重度の逆流性食道炎のため、健康診断の度に内視鏡検査を受けています。
ある日そこで「ヘリコバクター・ハイルマニイ」と言う菌が胃に居ると言われました。
名前から大体察しがつくとは思われますが、ピロリ菌の親戚みたいなものです。胃に悪さをして、ガンのリスクが高くなる点も全く同じです。
現在、確実な除菌の手立てが無い「治せないピロリ菌」とも言えるようです。
余談ですがピロリ菌とハイルマニイは排他的な関係にあり、お互いに食い合うそうです。つまり、ハイルマニイが胃に居ればピロリ菌に感染する危険は無くなります。意味ないよ!
さて、ある医療施設で保菌が発覚したのですが、担当した医師の対応で、しなくて良い右往左往をさせられました。
発覚当初の問診で、
私「直接治せないとしても、対策は可能でしょうか?」
医師「保険適用外になります」
私「問題は保険適用が出来るかどうかなのですか? では、もしも保険適用外でも良いと割り切れば治療出来るのでしょうか?」
医師「ですから、ハイルマニイとは(以下、概要の再説明)」
私「それはわかりました。知りたいのは、保険関係なしに除菌法があるのか、無いとして今後も胃カメラを受ければガンを早期発見出来るのかです」
医師「ですからハイルマニイとは(以下略)」
何ループかの後、ハイルマニイに詳しい医師が居るとして別の病院を紹介されました。
そこではピロリ菌と同じ除菌と呼気検査が行われたので、結局保険が適用されました。
ただ、ハイルマニイにピロリ菌の除菌が効くかどうかはまだ研究途上なので、内視鏡検査は一年後も受けてくださいと言われました。
そして翌年、また最初の施設で内視鏡検査を希望したのですが、まず私の事を忘れていたようで「何故、わざわざ胃カメラを? バリウム検査あたりと間違えてませんか」と確認されました。
まあ、星の数ほどの患者を相手にして居る職業柄それも仕方ないとは思いますが、何度か電話を往復してようやく再検査を受けられました。
それも変な話ですが。
そして再度、問診。
医師「ピロリ菌の呼気検査? それではハイルマニイの有無は調べられない筈ですが」
私「しかし、あちらの病院では、これで問題ないと言われましたが」
医師「その医師は、男性でしたか?」
私「いえ、女性でした」
医師「ああ、その人は違います。ハイルマニイに詳しい方の医師ではありませんね」
つまりその一年、私は胃ガンのリスクが高まったまま、何の対策も取らなかった事になります。
当時、ブラック会社勤めで、再度別病院で検査する暇などありません。
かといって、もはやこの医師に対しては不信感しかなく、最後まで「治療は可能なのか? 毎年の内視鏡検査で安心なのか?」と言う答えも聞けませんでした。
そして今年、ブラック会社から現職に転職してから初の健康診断がありました。つまり病院も変わったのですが、ハイルマニイについて相談したところ、
「申し訳ありませんが、ハイルマニイと言う菌については初耳でした。しかし本職の私が知らないと言う事は、恐らく除菌法が確立されていないのでしょう。
治せない前提でどうすれば良いを考えないといけませんが、胃ガンリスクに関しては最低でも2年に一度内視鏡検査を受けて頂ければ絶対に大丈夫です」
と言ってもらい、ようやく数年に渡る不安から解放されました。
前の医師に無かったのが、この「自分の無知を素直に認める事」「相手の無知から来る不安を取り除く事」でした。
お医者さんとて、マイナーな病気は知らなくても不思議ではありません。
他にも、階段から落ちて頭から血を流した父親を夜間の病院に連れていって、
「止血して様子を見れば良かった怪我です。夜間に来るほどの大事ではない。ホッチキスだけして、脳は診ませんからね」
と怒られたり、
胸に突起のようなものを感じるので、静脈瘤の可能性も考えて一応診察を受けたのですが、と言うと「は?」と言うリアクションをされたり。
例がお医者さんばかりで申し訳ありませんが、どうしても病院とは「プロと素人の対話」が前提となり、やはり知識のギャップが出やすいのだと思います。
胸の突起も、恐らく軟骨だろうと当たりはつけていましたが、それこそ素人判断は出来ないからこそ病院を頼るわけですが、なまじ「自分が正しい」と自信があると、相手が何で病院に来たのかも読めなくなるのでしょうか。
知識を得る事は、こうした「無知だった頃のセンスを失う」事でもあるのかも知れません。
漫画や小説でも、後のヒット作が選考に漏れたりする事も多々あるようですが、それも純粋に作品を読む読者と、選考を行うプロとの感覚の乖離から来るのでしょう。
また、物語において新人がベテランに勝てるとしたら、こうした慢心をうまく突く事にあるのかも知れません。
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