擬音は悪手?

 小説を書き始めた初心者がやりがちとされるものの一つ、擬音。

 私も例外なく轍を踏み、当時の先輩方の総突っ込みを頂いたのですが、その悪い例をちょっと再現して見ましょう。

 シチュエーションとしては、拳銃を持つマサオ君にトカゲ人間(リザードマン)の怪物が襲い来る設定です。

 

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 パァン! パァン!

 マサオのデザートイーグルが火を吹く。

「畜生! 死ね、死ね、死んでしまえ!」

 パァン! パァン! パァン!

 マサオの一声と連動するかのように発射される.50AE弾。

 その一つが、マサオに迫っていたリザードマンの腹に命中し、風穴を開けた。

 どさり。

 リザードマンは動かなくなった。死んだのだ。

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 ……かつて小説指南サイトを参考にしていた時、何故に擬音が行けないのかと言う理由に「作品の格調を落とす」と言うものがありました。

 確かにここまで酷いと格調も何もありませんが、果たして擬音そのものは本当に役に立たないのでしょうか?

 次は、さっきのマサオ君の戦いを、擬音を使いつつ極力頑張って描写してみます。

 

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 ザガン! と言う巨虎のしわぶきを思わせる濁った銃声が響き渡った。

 大型拳銃を慣れぬ所作で構えるマサオが見据えるのは、遥か前方から肉迫するトカゲの質感を持ったヒトもどき。

 ザガン、ザガン、ザガン、マサオの焦燥まじりの呼気と連動するかのように、.50AE弾が空を貫く。

 リザードマンと呼ばれるその怪物は、銃弾に臆した風も無くーーいや、怖れる知性がないのかーー少しの躊躇もなくマサオを目指して邁進する。

 ザガ、グチャリ。

 銃弾に、湿った破砕音が重なった。

 大口径弾がリザードマンの、まさに心臓をえぐり、赤黒い体液を噴出させた。

 リザードマンは鞭打たれたように震撼すると、前のめりに倒れ伏した。

 どさり、と言う大地を叩く音が、リザードマンの鈍重な質量を証明しているようだった。

 急速に血液を失って、ピクピクと痙攣する事しか出来ないリザードマンの枕元に、マサオが立つ。

「畜生、死ね、死ね、死んでしまえ!」

 半ば半狂乱となったマサオは、動けなくなったトカゲ頭を何度も何度も何度も何度も撃ち砕いた。

 飛び散る肉と頭蓋と脳漿の混ざったもの。

 今や、リザードマンの死は疑いようもないだろう。

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 ……余談ですが、グアム旅行の射撃場で当のデザートイーグルを含めた、何種類かの拳銃を撃ち比べた事があります。

 デザートイーグルの銃声が濁った感じがすると言うのは、その時の経験から来ています。

 ただ「巨虎の咳(しわぶき)」とだけ書いても良いのですが、先に「ザガン!」と言う擬音もセットで付けておけば、よりイメージしやすくなるのでは? と思います。

 あと、ザガン! と言う耳慣れぬ擬音にするのが良いかは悩みどころです。元のパァンよりは陳腐さが軽減されますが、読む人によっては聞き馴染みが無さすぎてつんのめる可能性も?

(正直いうと、デザートイーグルの銃声を文字にするのはかなり難しかったです)

 そう言えば何の作品かは忘れましたが(クーンツの翻訳ものだった気が)、流れ弾が車に当たった時の「ガィン」と言う擬音はうまいと思いました。あとを引く金属音が伝わってくるようでした。

 市販の書籍でしたが、その作品で擬音が用いられていたのは、その一ヶ所だけでした。

 

 また、剣檄のシーンでも工夫次第で擬音を活かせるのでは、と思います。

 ポピュラーな擬音としては「キンッ!」なのでしょうけど、同じ「剣と剣がぶつかり合う場面」にしても、剣の種類やお互いの威力によって千差万別と思います。

 重々しい大剣同士が力任せに衝突した音は「コォン!」かも知れない。

 小手調べで切っ先同士を軽くぶつける音は「チン!」となりそうです。

 また、同じ剣と持ち主でも、状況によって色んな音色がポンポン出てくる筈です。

 キンキン、カン! とか、何だかテンポが良い。

 この辺は、可能な限り、現実で似た材質の物をぶつけたりして聴いてみる。そしてそれを文字に出来ないか検討してみると確実で、新たな発見があるやも知れません。

 また、剣が命中した際も実際にズバッと言う音はしないと思います。

 とりわけ、切れ味の良い名刀などであれば、音もなくスッと刃が入る事でしょう。包丁でさえ、ちゃんとした品質のものなら肉や刺身をそのように切れるくらいですし。

 強いて音を立てるならズッ、とか?

 

 小説としての格調が必要かどうかは、作品のコンセプトにもよると思いますが、こだわりが無い(もしくは確実に空気感を伝えたいこだわりがある)のなら、擬音を使うのもありかも知れません。

 考えて使う擬音は、充分効果的だと思います。

 ただし、考えて擬音を使えるようになるには、先に「擬音に頼らない描写」がある程度出来るようになってからでは、とも思います。

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