LGBTに見る差別と逆差別その2

 前回、何となしに過去の自作に登場する“最強戦士ケリー”について話題にしましたが、ひとつ弁明を。

 軽く流したのですが、性別が男性(性自認は女性)つまりトランスジェンダーであるとしていたのは覚えておいででしょうか。

 人類最強の男が、傲慢なオラオラ系でも冷徹な二枚目系でも無く、41歳のトランスジェンダー。

 外見のイメージとしても、よくある「女性と見分けがつかない美男」と言うものではなく、肉食系のいかつい顔をした男をメイクやファッションで無理矢理女性的にしていると言うものです。

 この話を執筆していた時期はLGBTの啓蒙活動もそれほど耳にする事がなく、私自身も無知でした。

 その上で、意外性を狙わなかったと言えば嘘になります。

 それ自身も精鋭揃いである私兵が、個人的に侍らせている色小姓と言うのも、ケリーのセクシャルなしではあり得ない絵です。“一般兵”の描写としては他にはそうそうないと思います。

 あとは単に「魔法による自己強化の才能が格闘能力を決める=魔法による強化の補正が高いほど筋肉への負荷も軽くなる=物理的に鍛えられる事が無い=真にヤバい戦士ほど細身の女性だったり肥満体の人が多い」

 と言う作品固有の前提があり、若い女性や肥満の男、小柄な少年、痩身の老人と言った「一見して脆そうな見た目と言う記号」を粗方出し尽くした頃にケリーと言う女性的な風貌の男性を考えはじめたと言う事情があります。

 しかし、それ以上でもそれ以下でもなく、性的少数者の方を揶揄する意図は一切ありません。

 そう言っても「多少なりとも意外性を狙ったのであれば揶揄と同じだ」と言われれば甘んじて受けるしかありませんし、それによって持論の何かを変えたりするつもりはありません。

 ならば肥満体の人物は許されるのか、とは思いますし。

 私にはLGBTの啓発活動を行っている友人が居り、この創作論を読んでいる可能性もゼロではありません。

(ブラック脱出マニュアルの方は紹介していたので、やろうと思ったならそこから作者読みをする可能性もゼロではない)

 もしかすると、これが読まれていた場合、人間関係が損なわれるリスクもあるでしょう。

 そして近年、この問題の認知は急速に進んでいるとも思います。

 それでも主張したいのが、このケリーの話のようなケースでもこうして弁明に近い意思表示をせねばならないのが、私にとってはいくらか窮屈だと言う事です。


 某SNSでリアル知人のみが見れる設定で息子の育児記録的なものを書いていますが、

 例えば花柄の帽子をかぶせてみて「女の子みたいでかわいー!(←親バカ)」みたいな冗談も、近頃は書けません。

 確かに、それによって誰かを傷つけるデメリットに対して、わざわざそんな冗談を発信するメリットは無いのかも知れません。

 私の認識では、性的少数者の方々の苦しみには「世の中の何気ない“常識”で傷つけられる事」にあると思います。

 そんな世の中を変えようとする動きが出るのも必然でしょう。

 しかし、それを変えようとするなら、どこかで我々多数者の言論を抑制しなければならない構造をしている事が問題です。

 確かに「女の子みたいでかわいー!」と言う事、それ自体に必然性はありません。

 しかし、それを言う自由の抑圧は、究極的にはあらゆる権利への抑圧への入り口でもあります。

 言論の自由は、極端な所にまで突き詰めると生命の自由にまで及びます。

「わざわざ言わなくても君は傷付かないじゃないか。譲れ」

 と言われて譲れるものでもありません。

 これは誰が悪いと言うわけでもなく、ある二者の利害が食い違っていると言う問題でしかなく、だからそう言う意味では憎み合うべきでも無いと思います。

 確かに、擦り合わせ、歩み寄る努力も必要でしょう。

 かといって、自由を売り渡すべきでも無い。

 歩み寄りは、双方が模索してこそです。どちらかがそれを投げ出せば、もう片方も歩み寄りを見せるわけには行かなくなる。

 啓発活動をなさっている方々には、まずこの前提を理解して頂きたいと個人的には思います。

 

 先日、クラウドファンディングにて、とあるLGBT啓発本の自費出版が成就したのを見ました。

 何かをなそうとしている人が、成功の一歩を踏み出した。傍観者としても素直に祝福すべきかも知れません。

 私の知る活動団体がそれを大々的に告知していましたが「肝心の、中身の出来はどうなんだ」と言うのがまるで伝わりませんでした。

 伝えたい事を、それこそ持てる力を尽くして伝えているものなのかどうか。

 もしも“そこそこの力量”“素人のポエムレベル”でそれをやろうと言うのなら、甘えでは無いでしょうかとも。

 通常、充分な力量があってでさえも容易に埋もれてしまうのが本と言う世界です。

 特殊な事情、一定数の支持をもつイデオロギー勢力の名のもとでその条理がねじ曲げられて良いとは思えない。

 私なら、そんな甘い作品よりは、やはりヤマジュン・パーフェクトを真剣に推します。

 ここまで言っておいて小狡いのですが、私にそこまで踏み込む資格は無いので当該作品の中身への言及は避けますが。

 ただ一つ、

「私達と言う存在を黙殺しないで欲しい」

 これは本当に、すべての性的少数者の総意なのでしょうか? とは思います。

 

 かつての私は息をするようにケリーを描きました。

 そしてその息を奪われれば苦しいものです。

 更に、その息で生じた二酸化炭素で苦しむ人も居る。

 創作と言う観点からも、あらゆる意味で無視できない問題だと思います。

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