素早いとは
数年前までロードバイクをやっていた関係で知ったのですが、筋肉は速筋(白い筋肉)と遅筋(赤い筋肉)と言う二種類から成ります。
速筋は瞬発力に優れる代わりに疲れやすい。
遅筋はその逆、持久力に優れる代わりに瞬間的な力は弱いとされています。
速筋・遅筋の割合は生まれた時から決まっているとされ、狙った方の筋肉だけを鍛える事は出来ません。
どちらの筋肉が重要であるかは、競技によって違います。
ある種、先天的に決まっている才能と言えるかも知れません。
団体競技としてのロードバイクには、ゴール直前のラストスパートを担当する“スプリンター”と言う選手や、上り坂の厳しいエリアで活躍する“クライマー”と言う選手などが居ます。
当然、速筋の多い選手はスプリンターに向いており、遅筋の多い選手はクライマーに向いています。
ならば、ロードバイクのスプリンターは“素早い”と言えるのでしょうか?
私は、スプリンターはどちらかと言えば“力”が強いのでは無いかと考えます。
ランナーもしかり。
RPG風に言うなら長距離走選手は体力(VIT)が要求され、短距離走選手は力(STR)が要求されるのだと思います。
ファンタジーものの剣士なんかもそうですが、物質的な速度があると言うのは、スピードタイプではなくパワータイプに分類されるでしょう。
ただ、ロードバイクの例えに戻りますが、あの競技は体格が良いほど自身の負荷になり、不利です。
錘になるような余分な筋肉を付けない事は出来なくもありませんが、生まれ持った身長だけは削るわけにも行きません。
そういう意味では、巨体の重戦士の動きが鈍重になるのは正しいのかも知れません。勿論、そんな事をものともせず、筋力で無理矢理にスピードを出すような描写もありでしょう。
そう言ってしまうと結局どっちが正しいのか、頭が混乱して来そうですが……筋力で無理矢理解決は、やはりファンタジーのご都合主義にはなりそうです。
ならば、素早いと言うのはどういう事か。
ゲームなどでも、スピードタイプは手数が多い反面一撃の重さに劣る、とされがちです。
小柄な少年や華奢な女性が近接で戦う場合、速さで翻弄するスタイルで書かれる事が多いと思います。
しかし前述した通り、速さは威力でもあります。
当然、短剣と大槌と言う得意武器の差はあるでしょうが、それは本人の素早さと言うよりは武器の性能です。
必ずしもパワーと連動しない速さ、と言うとやはり、知覚や反射神経、その動きに対する精度(器用さ)では無いでしょうか。
仕事でもそうなのですが、個人単位の作業効率はその物事に対する知識的な理解と体感的な理解(慣れ)に依存します。
昔気質の上司などは「必死に動け!」と仕事を煽るような指導をしがちですが、個人的には因果が逆で、部下の精度を育成するにあたり邪魔ですらあると思います。
よほどやる気の無いケースを除いては、反復して覚えさせれば自ずと素早くなる筈なのです。
前職で信頼していた先輩に言われたのが「(トイレがヤバい時以外は)仕事中に走るな」と言うことです。
なにもプランをもたず、付け焼き刃でバタバタ走った所で仕事は速くならないばかりか、事故のもとだと言う事です。
仕事量に対して、人間の身体能力に限界がある以上は動作の最適化(最小歩数に抑える等)や良い意味での手抜きなどの工夫で補うしか無いと思います。
ことファンタジーになると、結局、魔法による自己強化だとかでどうとでもなるのですが、
身体能力の原理は何なのか、考えておいても損は無いと思います。
ちなみに、ロードバイクの描写が丁寧な小説は「サクリファイス」(著:近藤史恵)と言う作品がおすすめです。
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