スタートダッシュ

 基本的に、物語の冒頭には勢いがあった方が良いと思います。

 どこからの受け売りかは忘れましたが、推理ものなら開始数行で死体を転がす。

 戦いのある話なら、交戦状態や逃走劇から始める。

 勿論、これらは極論ですが、冒頭こそ簡潔にメリハリを効かせた方が読者は脱落しにくいでしょう。

 いかに素晴らしく、壮大な世界観があろうと、最後まで読まれなければ何も書いてないのと同じです。

 個人的に読んでいて脱落しやすいのが、冒頭から世界情勢や設定を長々と説明しているタイプの話です。

 当然、凝った設定ほど読者にとっては「未知の事柄」であるわけで、言葉を変えれば「お勉強」とも言えるわけです。

 勉強させると言い換えれば、世界観設定を読ませる事は頭のエネルギーを使わせる事だと何となく伝わるのではと思います。

 例えば魔法で戦う話なら、冒頭の戦いを書きながらチュートリアル的に魔法の設定を説明できればベターでしょうか。

 応用などの後回しに出来るものは後回しにして、なるべく一度に流れてくる情報を小出しにする。

 そうすれば読者に優しく、その世界の魔法と言う分野に奥行きがある事も感じさせられるのでは、と思います。科学にせよ医学にせよ文学にせよ何にせよ、一日で語り尽くせるものでもありません。

 当然、説明しながらも目の前の死闘をテンポ良く書かねばならないので、初陣は特に考えて描写する必要があるでしょう。

 

 もうひとつ、主人公などの大事な人物も最初の数行で登場させるのも、スタートダッシュに必要でしょう。

 三人称視点の場合、誰を追いかけているのかを把握して貰うことは、最優先事項では無いでしょうか。

 ただしこれも、作品の人物と言う未知の事柄を「覚えろと要求している」事には留意がいります。

 全員が重要人物だからと言って五人も六人も矢継ぎ早に出されると、物語の導入どころでは無くなります。

 どんな容姿か、声か、人によっては仕草まで、物語を読みながら人物像を構築するのも一仕事です。

 冒頭数行では最重要人物を二人……多くても三人までにしてイメージを固めて貰った方が無難と思います。

 私が読む立場だとしたら、三人にもなれば覚えるべき事柄は最小限に、かつ、三人の関係性などが強く印象に残る工夫が欲しいと思ってしまいます。

 しかし「眼鏡をかけている」「太っている」などの重要な特徴は、イメージを固められる前に最速で描写しなければならないとも思います。

 後でイメージを再構築する手間が生じるとそこで読む手が止まり、最悪の場合脱落される事でしょう。

 

 作者は小説の全てを把握しているが、読者はまっさらな状態から読みはじまる。

 このギャップは基本ですが、忘れないようにしたいものです。

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