黒幕と真の黒幕

 魔王を倒したと思ったら、それは大魔王の手下に過ぎなかった。

 悪さをする社長をやっつけたが、全ては会長の陰謀だった。

 今や、黒幕は二段構えであるケースが主流では無いでしょうか。

 逆に、最初から最後まで宿敵や目標が一人(ひとつ)である事の方が珍しく感じます。

 素直な展開の方がレアとされる、逆転現象が起こっているのでは無いでしょうか。

 

 宿敵が一人の場合、以下のメリットがあるのでは無いでしょうか。

・やっつけた時の感慨が大きい=宿敵の掘り下げが十二分に出来る

・最終目標が常に可視化されているため、物語のゴールが明確になる

 デメリットは、

・意外性を出すのが難しい=話の終点がどうしても「宿敵との決着」に縛られやすい

 

 黒幕が二段構えの場合は、このメリットデメリットが逆になるでしょう。

 真の黒幕と言うのは、どうしても前任の黒幕より付き合いが短くなりがちです。

 部下の描写には多くの時間を費やせる分、真の黒幕に費やせる描写の時間が相対的に少なくなってしまう。

 つまり、やっつけた時の感動が部下がやられた時よりも薄れるパターンも多いかと思います。

 ゲームでたまに見られる「ぽっと出ラスボス」なんかもこれでは無いでしょうか。

 魔王は、物語の大部分で主人公を苦しめるのを頑張った。しかし、肝心の結末で蚊帳の外。

 大魔王は、物語の大部分で蚊帳の外。しかし、肝心の結末で良い所を持っていった。

 よほど長いスパンの話にするか、よほど大魔王を上手く動かさない限り、悪役としての“成果”が魔王と大魔王で分散されてしまうわけです。

 例外としては、魔王→大魔王のようなステップアップではなく、魔王が大魔王に下克上やクーデターを起こしてトップを奪い取るようなパターンでしょうか。

 これならば大魔王を大っぴらに動かせると同時に、魔王を前線で活躍させて先に印象付ける事もできます。

(例:機動戦士ガンダムのシャアとか)

 満を持しての「最後の敵の交代劇」も受け入れられやすいでしょう。

 あとはまあ、そもそも真の黒幕=最高指導者が陰に隠れているのは、現実的には正しい姿でもあります。

 そんな立場にあって、なるべく印象深い成果(悪さ)を、高みからさせてポイント(ヘイト)を稼いでいくのがベターでしょうか。

 


 そう言えば、自分は今までどうして来ただろう、と思い返してみると、

「最後に解決すべき問題は主役の内面にある」あるいは「概念そのものが回り回って作中の状況を生み出した(宿敵とされる者達は無自覚に概念の駒となっていた)」パターンばかりで、黒幕や宿敵が二の次になってばかりでした。

 作品によっては“最後の敵”との闘争はあるものの、それとの勝敗自体は、実は最重要ではない、と言いますか。

 狙ったつもりは無かったので、これは自分でも意外でした。

 勿論、書くべきと思ったテーマに沿っていたら辿り着いた結果ではあります。

 この構図は、恋愛を主体とした現代ドラマに近いかも知れません。

 主人公の恋路を邪魔する妨害者が居たとしても、それ自体は問題の本質ではない(あくまでも、結末の最後の決め手は当事者達の気持ちである)事に似ていると思います。

 そう考えると、自分は本当の意味で「人と人の対決」を書いてこなかったのだなと気付かされました。

 良いことか悪いことか定かではありませんが、これはこれで作風の偏りと言えるのかも知れません。

 

 白黒はっきりすべきか、ひねくれるべきか。

 物語そのもののコンセプトによって、最適解は違うと思います。

 物語は、締めくくりまで決して気を抜けません。

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