脳筋

 脳みそまで筋肉で出来てるような、とは良く聞く言葉です。

 とにかくフィジカルが強く、戦にしてもスポーツにしても力任せに敵をねじ伏せる手法を好み、およそ知性とは程遠いとされる事が多い。

 さて、ならば脳筋と言う人種は頭が悪いのでしょうか?

 私は無論、ノーと考えます。

 

 私はかつて、とあるきっかけから、きちんとした専門家による知能テストを受けた事があります。

 いつもながらざっくり単純化した説明になりますが、巷で言うIQ(知能指数)には大別して二種類あります。

 

・言語性IQ……語彙や論理に関わる知能

・動作性IQ……瞬間的な洞察力や知覚に関わる知能

 

 ひとまず、

 小説書ける人は言語性IQが優勢で、バスケとかバドミントンとか上手い人は動作性IQが高い。

 あるいは、予めシナリオを考えられるプレゼン発表の上手い人は言語性IQ、飛び込み営業のトーク力が強い人は動作性IQが高い。

 ざっくり、こんな感じで思って貰えれば。

 ちなみに私のテスト結果は言語性がやや優勢で、なおかつ動作性がかなり低水準だそうです。

 余談のさらに余談ですが、これを受けた当時はブラック会社勤めでかなりパフォーマンスが落ちていたので、今受け直したら結果が逆になる可能性もなきにしもあらずです。

 

 とにかく、話を脳筋に戻します。

 物語においても、戦いや運動が強い人物は、この動作性IQが高い筈なのです。

 三國志における張飛なんかは良い例でしょう。

 演義においても酒乱・パワハラの末に部下に恨まれて殺されると言う短絡思考なキャラクターに貶められていましたが、もし腕力だけで成り上がったと言うのなら、もっと早い段階で無名のまま討ち死にしていた事でしょう。

 自分よりも一段クレバーな一般兵士に出会った時点で命運尽きます。

 と言うか昨今の物語で良く見られる、巨漢がスマートなイケメンに秒殺される構図がまさにそれでしょう。

 長坂での機転や厳顔を納得させた説得力など望むべくも無かった筈です。

 義兄・劉備による身内人事があったにしても、一国の将軍の日常業務として軍を指揮していた時点で、阿呆な筈はありません。

 またまた余談ですが、北方謙三版の三國志では、まさにこの点が言及されていました。

 粗暴で浅はかな振る舞いは、全て主君の劉備が癇癪を起こしても株を落とさないための仮面。

「アレ(張飛)に比べれば、劉備様のたまに起こす癇癪くらい全然マシだ」と部下に思わせていたと言う解釈です。

 つまるところ、オカリンとまゆしぃの関係は、劉備玄徳と張飛翼徳にあったわけですね。

 阿呆な事を言ってないで、とにかく。

 互いに何合も剣を打ち合い、斬り付け合うと言う行為は、一秒未満の中で最適な太刀筋や(不意の蹴り、砂かけ等の)搦め手を判断し続ける頭脳労働でもあるのです。

 

 もっと身近な例で言うと、かつてある友人とFPS的なネット対戦ゲームをやってたのですが、彼はまさしく、脳筋と謗られても仕方の無い、力押しの戦術を好む人でした。

 けれど、単身で敵陣に突っ込みながらも、ことごとく生還してのける。

 私の脳みそでは、何で彼が毎回生きて帰って来られるかが、ついぞわかりませんでしたが。

 瞬間的な洞察力もそうなのでしょうけど、装備の選定もしっかり考え抜かれており「力押しの脳筋プレーで勝つ為の戦略」の構築が非常に上手かったのだと思います。

 そして、科目に偏りもありましたが、考え無しのアレな言動が多かったのと裏腹に、学校の成績はかなり良かったです。

 私ですか?

 当然、そのゲームでは死んでばかりでした。

 

 そう考えると、何かと知的に描かれがちな魔法使いなんかも怪しいものです。

 作品における魔法の定義にもよりますが、大抵、強い魔法ほど高い知識を要求されると言うのが相場では無いでしょうか。

 ゲームなんかでも“知性”と言うパラメーターは、大体が魔法のスペックに作用するものです。

 しかし百も承知とは思われますが、教養と知能は似ているようで違います。

 例えば複雑な論理を熟知していなければ使用も覚束ない“超火炎魔法”なるものがあったとしましょう。

 これを苦もなく使いこなせる魔法使いは、なるほど、高い知識を持っています。

 けれど、いざ戦場に立って、それを「炎を浴びると治癒する魔物」にぶっぱなしたとしたら、どうでしょう?

 それは頭の良い行動と言えるのかどうか。

 きっと、理屈の上で、その魔物が炎吸収属性である事はわかるのだと思います。

 しかし、戦闘と言う秒刻みに判断を求められる場面において、動作性IQが低いと、簡単にこう言う間違いが起きます。

 それもあって私は、現代日本人が何の代償もなく棚ぼた的に手に入れた能力と言うものに対して懐疑的なのです。

 

 繰り返すようですが、脳筋とは、言い換えれば「力押しの状況を作るのが巧みな戦術家」となるのでは無いでしょうか。

(生まれつきとか何らかの加護とかで不死身に近いタフネスを持っているとか、そう言うのは除外しますが)

 知性ひとつ取っても、単純に一言で言い表せる概念ではありません。

 固定観念とは、こう言うところにも根を張っている、非常に厄介な代物だと言うことです。

 

 そんなわけでやっぱり、

「ヒャッハー! 食い物おいてけー」

 と頭の悪い事を宣いながら古より伝わる大魔法をぶっぱなすモヒカンはいないものでしょうか?

 えっ、そんなに見たければ自分で描けと?

 まあ、尤もです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る