ナーロッパ

 最近、ナーロッパなる言葉を知りました。

 簡単に言うと「近年のネット小説的なファンタジー世界」です。

 中世から近世のヨーロッパをイメージしているが、インフラや識字率などの文明が現代並みに発達しているパターンが多い。

 小説家になろうで頻出するので、それをもじってナーロッパと言われ始めたようです。

 ググれば、もっと詳しい方が詳細に説明されているので一読すると勉強になると思います。

(私が参考にしたのは、ニコニコ大百科の記事でした)

 

 しかし個人的に、この言葉はかなりデリケートなものでは無いかと思います。

 と言うのも、前回の中欧旅行記を書いた(ナーロッパと言う言葉をろくに知らなかった)時点での私は、近頃のテンプレート的ファンタジーの世界観から、テイルズシリーズのようなJRPGを先に連想していました。

 この様式はそもそも古くから存在するものであり、大勢の人がこぞって使う傾向自体は今に始まった事ではありません。

 私は以前、ネットのテンプレート的小説作品群に対して「流行りの先端を行っている筈なのに、どこかレトロな作風だ」と言う印象を抱いていました。

 これは単純に、類似プロットの多さによる既視感もあるのでしょうけど、描写の平坦さも右へ倣えで伝達しているせいもあるのでは。

 どうも、ナーロッパって何かに似ているな、と思ったのですが、それは一昔前のRPGツクール界隈でした。(2000だとかXPだとかの、パソコンソフトの方です)

 あれも、ソフトに最初からあるプリセット素材で、大勢の人が動画を上げていました。

 メーカーがサンプルで作ったデフォルトのキャラクターもよく使い回され、それ自体がネタ(この話の主人公もアレックスかよ! 的な)として成立していた節があります。

 パソコンのツクールは素材の自作がしやすい関係か、プリセット素材はお世辞にも高クオリティとは言えません。

 私がナーロッパ的世界観に抱いていたイメージは、緑と茶色が多めで、町は碁盤の目のように整っていて、地形も平坦……と言うものでしたが、その源はこうしたツクール作品群にあったようです。

 ツクールの場合、そこからプロの道に続いていたり、カクヨムの広告収入のような報酬がまず望めないし、誰もがわかっていて遊んでいたのだとは思いますが。ある種の笑いを取りたい、以外の欲も無い。

 だから、同じ素材を使った上で“話”は千差万別のパターンがありました。

 ともあれ、こうした傾向をなろう発祥と思い込んでしまう危険もあるので、ナーロッパと言う言葉は取り扱い注意だと思った次第です。

 ネット小説から生まれた手法だとすることと、ネット小説がこぞって(旧世代からある)手法に偏向する事とはまるで意味が違います。

 

 アイデア自体はよくて、ナーロッパ的世界観やお約束の展開をやめ、独自の世界を書けばもっと面白いのに、と言う作品もいくつかありました。

 しかし私は、勿論、ナーロッパ的(JRPG的)世界観を否定するべきとは思いません。

 ここで何度か取り上げた、私の“願えば叶う”なんかは、現代と近世以前のいいとこ取りな、まさしくナーロッパ的だと思う人も居ると思います。

 本当の問題は、自分が扱っているものがナーロッパ的だと自覚せずに使う事だと思います。

 私が即席で調べた程度でも、ナーロッパと言う言葉には揶揄も含まれる事がわかります。

 恐らくナーロッパを蔑称としている人達が思い浮かべたイメージは、およそ私と似たような「緑と茶色の平坦なプリセット素材ツクール」のようなものでは無いのでしょうか。

 まあ、それに、昔から欧米で蔓延しているニンジャ・サムライ・ゲイシャとかも多分に面白くてセンセーショナルな要素をわからんまま使っているわけで……今も昔もどの国も、似たり寄ったりなのかもしれません。


 世界観を補強するために、真剣に中世の考証をするのも正解とは言い切れません。

 それをして書きたいものから遠ざかっていては意味もないし、執筆が続きません。

 恐らく、現代と中世のいいとこ取りを都合よく、要領よくやるのは可能です。

 さもないと、今のJRPG的な世界観は淘汰されている筈です。

 それどころか、洋ゲーの純ハイファンタジー・スカイリムでさえもナーロッパ的とは言えないでしょうか。

 トイレなどの描写は省かれていますし、そこらの畑からジャガイモが好きなだけ取れますから。

 スカイリムの同メーカーのフォールアウトに至っては、ピチピチの原色ジャンプスーツやら角付きブラウン管テレビなど、あからさまにレトロフューチャー(1970年代ごろから見た未来世界=鉄腕アトムみたいな世界観)です。

 それでもこの二作が物笑いにならないのは、ゲームに必要のない中世要素を排除する必要性だのおバカなレトロフューチャー要素だのに自覚的であり、高い技術力で表現しているからに他なりません。

 同じことが、ナーロッパにも言えると思います。

 

 勘違いした考証不足の中世ヨーロッパだと批判されがちなナーロッパのようですが、むしろうまく料理するには現代の(かつ昔の面影が残った地方の)町並みから勉強すると良いかも知れません。

 そこから自分の書きたいものと擦り合わせていく。

 ナーロッパを描く人がやりたいのは、現代的な文明と中世ヨーロッパ的異国情緒の融合なのですから、

 本当の中世の衛生観念だとか、野盗事情だとか奴隷制度だとかは、この際二の次だと思います。

 無論、それらを主眼とした話に必要なら、勉強は必要ですが。

 前回とかぶりますが、チェコがおすすめです。

 こんなご時世ですが、画像検索だけでも良いサイトはありますし、世界の車窓からを借りて観るのも良いでしょう。

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