運
幸運・不運の運です。
当然、確率論的な事とか物理学的な事とか全く勉強した事の無い身からの主観ですので、悪しからず。
小説で扱うには最も厄介な要素では無いでしょうか。
わかりやすい所で言えば、ご都合主義。
ある結末を迎えるために都合のいいランダム要素があると、この烙印を押されてしまいます。
銃で撃たれたが、懐に入れていたお守りなどで偶然防がれた→最大のピンチを生き延びた主人公は天下統一を果たす! など。
これはなかなか難しい問題で、戦場の流れ弾に当たらないと言う、ちょっとした事でもご都合主義に取られ得るのが厄介な所です。
かと言って流れ弾の場合、人物が対策を取っていれば良いのか(その様子を全て描写すれば良いのか)と言うと、これはこれで文に無駄が出ますし。
更に言えば「これらの運要素は、現実なら問題なくあり得る・認められる」と言う点があり、また、実際に先述ような小説としてはお粗末な偶然によって歴史的な人物が生き延びたり横死したケースも多々あると言う事です。
さて、この厄介なものは、どう扱えば良いのでしょうか。
考えてみましょう。
運や偶然の見方は、大きく分けて二通りあると思います。
・物理的に稀少な現象かどうか
・人間の主観的にプラスかマイナスか、それが大きい事か小さい事か=社会や個人の都合
例えば「宝くじの一等を当てる」事は幸運で「脳天に隕石が落ちてきて死ぬ」事は不運ですが、世界全体から俯瞰すると、どちらも等しく「単なるレアケース」です。
もっと言えば「隕石に当たって怪我をする」事も不運かも知れませんが、基本的にレアケースと言うものは連続しません。この隕石で怪我をした人の脳天にまた隕石が落ちて死ぬ事は、ほぼほぼ起こらないでしょう。
と言う事はこの人の主観からすれば「隕石には当たったが、致命傷にならなくて幸運だった」とも取れます。
勿論、理論上ではレアケースが連続しないと言う事は絶対ではありません。
もしかしたら「宝くじが当たった直後、1円も使わないまま隕石に当たって死ぬ」事も、人類史の中で一例くらいあってもおかしくはありません。
こうした場合、どこを見て運・不運とするかも微妙に違ってきます。
宝くじに当たった幸運と隕石に殺された不運は「レアケースの連続」だったのか、それとも「宝くじに当たっておいて使う前に死んだ不運」と見るのか。
ちなみに私は、ゲームで特に要らないレアアイテムが連続して出たりしたら「自分に車が突っ込んでくる不運からも遠ざかった」と考えるようにしています。
(勿論、交通事故には気を付けて生活する事に変わりはありませんが)
詰まるところ、幸運で感じた“喜び”にしろ、不運で感じた“不幸”にしろ、人間が自分達の脳反応や個人に纏わる社会的な変動を勝手に定義したものにすぎず、
地球さんや宇宙さんからすれば、一緒くたの現象に過ぎないわけです。
さて、そうは言ってもご都合主義を正当化する理屈にはなりません。
それでいて、別項「安直な死?」などでも考察したように、主人公などの重要人物には「変なタイミング、中途半端なタイミングでは、そうそう死ねない」呪いもかかっています。
ただ、先に挙げた二点「物理的に稀少か・人間の主観的に幸運かどうか」を分けて考えれば、どうにか“運”をうまく扱えないでしょうか?
さしあたり、そこまで大層な具体案は浮かびませんが、一つ思った事は。
結末を書くのに都合のいい偶然は嫌われやすいが、その逆の偶然は受け入れられやすいのでは無いか?
と言う事です。
成功ストーリーを書くにあたり、途中まで主人公をどん底の不幸にすると良いというのは、よく言われている事ですね。
これだって、裏を返せば物語の都合による偶然ではある筈です。
ただ、作者が想定している“成功”から遠ざかる=それを解決せねばならない労力が増えるため、書く側の甘えにも取られないでしょう。
例えば「タイミングの悪い大雨で戦に敗走したが、再戦で、川が増水していた事が決め手になって逆転出来た」と言う展開などは、まだ許容されやすいのでは無いでしょうか。
最初の敗北で優秀な部下が犠牲になったり、主人公が大ケガをすると、なお、次の幸運を正当化しやすいのかも知れません。
余談ですが、数年前に某テーブルトークRPGの再現動画を見たのですが、展開がサイコロの目で決まるので、普通の小説ならあり得ない中途半端な段階で重要人物がリタイアしたりして、かなり引き込まれました。
そう言えば、小説の書き手を育てるならTRPGをやらせるべきだと言っていた人も居たなぁと思い出しました。
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