良いタイトル・悪いタイトル・微妙なタイトル
とりあえず、例によって手持ちの作品を引き合いに出した、個人的な範疇を出ない話ですが……。
前回、この創作論のpv数を追っていたら、今更ながらタイトルの与える影響について思う所が出来たので考えてみます。
まずは自画自賛。自分が付けた中で良いと思ったもの。
「無血のヒーロー サイコブラック」
まず、大まかな内容の予測のしやすさは合格と思います。
ヒーロー、そして“ブラック”と言うカラーリングを想起させる言葉から、特撮ヒーローをモチーフとした話だと何となく伝わっている筈です。
同時に変化球としての部分も簡潔に匂わせられていると思います。
基本的に“戦い”ありきのヒーローもので“無血”とはどういう事なのか?
そして更に、無血と言う清廉潔白な言葉とは裏腹の“サイコ”と言う不穏な名前は矛盾しています。
そんなわけで「内容の予測のしやすさと、意外性の暗示の両立」がきっちり出来ていると思います。
そして、最後まで読めば、この“無血”と言う言葉には様々な意味が込められていますが、そうしたダブルミーニング的な仕掛けが意味をなすのも、初見でタイトルがすんなり受け入れられてこそ、では無いでしょうか。
続きまして自虐。
結果的に悪いネーミングになったと思うタイトル。
「陰キャ、覚醒す」
この作品に関して、ある一定の感想を多くいただきました。それは何かと言うと、
主人公に精神的な進歩がなく、好きになれない。
と言う事です。
一見してわかりやすいタイトルですが“覚醒”と言う言葉が悪い意味でミスリードになっています。
これまで何度か述べたように、この作品は最近のテンプレものにあるような、リベンジ・ストーリーと思わせておいて、その実、真逆のテーマになっています。
つまり、現代日本人が何の代償もなく強大な力を得た場合に生じる責任。
そしてそれは、例え調子にのって乱用したわけでなく、対症療法的に驚異を返り討ちにしていただけであっても、必ず付いて回る。
単純にインフレ魔力を得る“覚醒”と、人としての精神的な“覚醒”とは別問題である。
つまり、主人公の人間的成長があまり見られないのが、テーマ的には正解なわけです。
これはテンプレもののアンチテーゼで作ったと言うより、書き終えてみたら結果的にそうなったと言う事情があるのですが……それはまた別の話。
とにかく、主人公のコミュ力不足が災いし、どん底の立ち位置から始まるストーリー。
覚醒と言う言葉から、彼が心身ともに這い上がる、輝かしい展開を期待していた方は多かったのでは無いでしょうか。
「願えば叶う ロール」
今にして思えば、タイトルと内容があまりに解離した最悪の選択だったのかも知れません。
先に断っておきますが、この作品は流血描写満載のファンタジーです。
そこを踏まえて考えてみますと。
まず、シリーズ名にあたる“願えば叶う”からして、内容に合っていません。
これは「人の思考が容易に実体化出来る=魔法文明の世界」の有り様を表したつもりでした。
しかし、願えば叶う、と予備知識無しで言われて思い浮かぶ物語とは何でしょう?
誰かの成功や、闘病などの勝利と言った、現実に則した人間ドラマでは無いでしょうか?
仮にこの部分を考え直すとしたら……思考降臨界……と言うのも微妙か。
もう一つ“ロール”の部分です。
この言葉には、物語の肝となる主役のタイムスリップ(言い換えれば“ロール”バック)と、役割と言う意味でのロールと言うダブルミーニングが込められています。
しかし、サイコブラックのケースでも触れましたが、いくら作品の内容に適合しているからと言って、読まれる前の段階でこの手のギミックを誇っても自己満足です。
伏線は、回収まで読まれてはじめて価値が生じます。この“ロール”と言う言葉単品だけでは、タイトルと言う土俵では戦えません。
そして最後に、成功か失敗か微妙なライン。
「毒食グルメ」
主人公が何をしでかすか、一目で伝わります。
何でそんな事をするのか、と言う疑問の呼び水にもなるでしょう。
しかし、やはり直球すぎてインパクトに欠けます。
ちなみに、この作品のタイトル名はもう一つ候補がありました。
「死食コーナー」
毒食とは逆に、いくらか特殊性はあるものの、伝達性が駄目過ぎます。
言うまでもなく試食コーナーと掛けているのですが、その意味は? まあ、自然界から毒物をつまみ食いしていると言う点では合っていなくもありませんが。
そして毒を食うと言うのは“死”に密接に関わるのは確かですが、主人公はむしろ「自分を生きる」為に毒を食っています。
と言うことはテーマの一つと噛み合ってない事になります。タイトル名でそのミスは、致命的ですらあるでしょう。
そして毒食グルメにしろ死食コーナーにしろ、最も重要な主人公と恋人との関係性、その推移について全く言及出来ていません。
そしておまけ。
近年、よく見られる長文タイトルに関して。
前回、この創作論の中で、内容を詰め込みすぎて長くなりすぎたタイトルは読まれていなかった事が判明しました。
この辺は疎いので、パイオニアとなった作品がなにかはわかりません。
けれど恐らく、長文タイトルがウケたのは「それが最初だったから」と言う単純な理由ではないかと推測します。
常識的な長さのタイトルの中にそれが紛れ込むから目を引くのであって、森の中に隠れた木とは印象に残りにくいものです。
この傾向のタイトルがずらりと並んでいると、それだけでもう頭に入らなくなります。
一応、きちんと読んでさえ貰えれば、内容を一目で伝えられる、と言うメリットはありそうですが……少なくとも無策で使うには危険極まりないと思います。
正直な所、タイトルの命名は私が最も苦手とする要素です。
あまり大きな声で言えないかも知れませんが、本文(や、時には設定そのもの)はまだ、ネット小説だしやり直しがきくでしょう。
しかし作品のタイトル名だけは、そうそう変えるわけにはいかない。
別項で考察したように、名前とはその物事の存在を定義する非常に重いものだからです。
正直、そう言うサドンデスの一発勝負ほどしんどいものもありません。
そんなわけで前回、
「一目でわかる伝達性と、その作品にしかない意外性の暗示を両立」
と言う一つの尺度を思いがけず見付けられたのは、幸運だったのかも知れません。
出来る人は、とっくに出来ていたであろう事は想像に難くありませんが。
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