ネット小説でのみ出来る事? 本文中にリンクを貼る

 ここ最近、ゲームと小説では作り方の勝手が違う事を考察してきました。

 何度も述べるようですが「受け手(読者・プレイヤー)が結果に干渉出来るか否か」「レベルアップやスコア、格ゲーであればプレイヤー技術の向上などの報酬があるか否か」

 の差異を意識する必要があると思います。

 

 では逆に、紙媒体の小説では出来ず、ネット小説なら出来る事とは何だろう?

 あまりネットの特性を生かした作品が陽の目を見ていない辺り、既に難しい事がうかがえますが、考えてみました。

 さしあたって思い付いたのが「本文中にリンクを貼れる」と言う事でしょうか、

 20年ほど前、既にそうした作品を読んだ事があります。

 サウンドノベルやビジュアルノベルのように選択肢をクリックする形式で、展開が分岐する。

 これについては、見た目以上に過酷な執筆となると思われます。

 例えば間違えるとバッドエンドに飛ぶ話にしたとして、それぞれのエンドを、本筋の話に劣らないクオリティで書ききらないと間違いなくダレます。

 もしくは、主人公が呆気なく死ぬifの展開にも全力を投入する必要があります。

 それでいて、手短にまとめる能力も要求されます。何万文字と読まされた挙げ句にバッドエンド、分岐に戻って下さい、では戻る前に心が折れかねません。

 結局の所、リンクで分岐すると言う“手段”にとらわれず、どの分岐も面白く書く純粋な地力は必須でしょう。

 もしくはシャドウゲイトよろしく、ギャグと紙一重の死に様を大量に用意してバリエーション豊かなそれを見せたり、その構図自体をメタ的に何らかの形で利用したり?

 そうまでしても、質の良いゲームノベルが存在する以上は不利な手法なのでは、と考えます。

 ゲームノベルの場合、格好いい一枚絵やhentai的な一枚絵と言う“報酬”があります。

 ネット小説でも、勿論画像は貼り付けられますが、辿り着いた結末の絵をコレクション・穴埋めする、などのゲーム的報酬は実現が難しい。

 BGMや効果音を付けられないハンデも見逃せません。

  

 ちなみに、リンクを貼る手法で巧く出来ていると思った例がひとつだけありました。

 それは、あるゲームの攻略情報を探していた時に偶然見つかった二次創作作品でした。

 まず元作品は、主人公が喋らないタイプのRPGでした。

 そして程よくバランスの取れたゲームだったので、真っ当に進めればラスボス戦では苦戦を強いられ、

七転び八起きの激戦の末、大団円のハッピーエンドが待っています。

 しかし、私が見付けた二次創作では、そのハッピーエンドの先が書かれていました。

 まず、最終決戦時点で主人公が異様に強くなっており、人智を越えた力で一方的にラスボス(単独で世界的驚異の存在)を滅殺します。

 イメージとしては、やり込みにやり込んでレベル99の全ステータスカンストで、負ける要素ゼロでラスボスに挑んだ感じでしょうか。

 確かに世界は正史通りに救われたが、そこまで強くなった主人公とは何物なのか? 呼吸をするのと同じように際限なく力を付けて、当たり前のようにしている主人公の抱く人格的欠損とは?

 さて、そろそろ本題を忘れそうなので「本文中のリンク」の話です。

 この作品では、エンディング後の更なる結末を書いた事を仄めかした上で「世界が救われ、皆が彼の真実から目を背けて来た結末は“代償”の先にある」(昔のうろ覚えな記憶での意訳ですが)とヒントを提示しました。

 そして本文中にある“代償”と言う言葉に、真の結末を描いたエピソードへのリンクが貼ってあったのです。

 代償、と言う不吉な言葉に隠されたリンク。いやがおうにも“もうひとつの結末”に対する期待と不安を、読む前から掻き立てられます。

 これが、単に目次に貼られたリンクだとしたら、そこまでの牽引力があったかどうか。

 そこで描かれていた物語は、原作で英雄とされた輝かしい結末とは相反する、しかし、陰惨でもない、ただ「人として何かが欠落した“救済マシーン”とも言える存在」が平和のため、ひいては“皆の為”に無軌道に力を行使し、周囲の苦渋の望みに応じて「安楽に眠ったまま、死ぬまで目覚めない」と言うメリーバッドエンドでした。

 ドラクエ型無口主人公であり、プレイヤーの介在次第で無敵の存在となれるメタ要素を巧く料理したと思います。

 この作品、なにげに「主人公最強もの」「ゲームの二次創作の枠を越えた好例」としても良い教科書だったのですが、流石に現存していないようで惜しい限りです。

 横道に逸れますが、こうした一期一会もまた、ネット小説ならではかも知れません。

 

 奇をてらうだけでは、そうそうパイオニアにはなれない。

 しかし、地力を鍛えつつ、折角だから何か巧いこと出来ないかなーと、頭の片隅で思っておくと、いつか実を結ぶのでしょうか。

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