小説で出来ない事、小説でしか出来ない事
今回のお話はサガフロンティア、および、死の接吻(アイラ・レヴィン)の内容に深く触れます。
ご留意ください。
我ながら、どんな組み合わせだよ、と思いますが。
先日発売された、サガフロンティアのリマスター版を早速始めました。
別項でも述べましたが、私は全シナリオの中でブルー編が一番好きでした。
物語としての意外性やテーマもさる事ながら「ゲームと言う媒体でしか出来ない」表現が非常に秀逸です。
冒頭、主人公のブルーは魔術学校を卒業するのですが、完全な魔術士となるために、術の研鑽と共に双子の兄弟ルージュを殺せと命じられます。
これは別々の分野の術を学んだ二人を統合させる事で、文字通り最強の術士を人工的に作り出す為の陰謀の為。
(この作品では、光の術と陰の術、と言った相反する分野の術が排他的関係にあり、一人の人間が両立することは出来ない事情もあります)
その融合を行うには、どちらかがどちらかを殺害しなければならなかったと言うことです。
その為、ルージュとの戦いに負けても話が問題なく進みます。
どちらが殺されても、二人が融合して一人の人間に統合されると言う形而下的な結果に変わりは無いからです。
とは言え、ルージュに負けた場合、それ以降の名前や外見はルージュのものとなるので、プレイヤーから見るとはっきり「主人公が入れ替わった」と伝わります。
髪型や服の色がちょっと違うだけでも、印象はだいぶ違うものですし。
原作をプレイしていた学生の時分は、いくつかの実利とやはり「主人公が入れ替わった!」と言う意外性に惹かれてルージュを勝たせていました。
けれど、今一度プレイしてみると、終盤の色々な心境の移り変わりや、“地獄”と呼ばれる場所に自ら飛び込む決意は、最初から操作していたブルーの姿だからこそ感慨深いのだと思いました。
術の会得以外に興味がなく、他人に冷淡だった彼が、同じ境遇の子供達のために戦うと言う「自分の命の使い道」を見出す。
元から温厚なイメージがあるルージュでは、いくらかそれが薄れる気がしました。
そんなわけで今回はブルーを勝たせました。……剣も使って。「信 じ ら れ ん……」
さて、そうなると今回の私は「主人公がルージュにすげかわる」と言う作中最大の意外性を味わえなかった事になります。
こうした二者択一の悩みを体感できるのはゲームならではであり、小説では再現が困難な描写でしょう。
ifの話として別個に書くことは出来なくもありませんが……と言う所ですね。
マルチエンドなんかは最たるものですね。まさしく結末をプレイヤーとして自分で選んだから納得されやすい。
更に一歩踏み込んだ使い方として「一週目で愛を誓い合った人物と、二週目で敵対したり他の異性を選んだ事を糾弾される」と言うものを見聞きした事もあります。
ゲームの分岐や周回プレイは、受け手(プレイヤー)が介在出来るから成り立つのだと思います。
分岐する話を小説で書いたとしても、それは受け手(読者)が受動的に受け取るものでしかなく、不可能では無いとは思いますが、書き手の押し付けや一つの作品に縛られたエゴになりがちなリスクが大きい筈です。
逆に、小説と言う媒体でしか出来ない事って何だろう? と考えた時、まず思い付いたのが「死の接吻(著:アイラ・レヴィン)」でした。
端的に説明するので、改めてネタバレに注意して下さい。これから読むつもりの方は、絶対にこの先を読んではなりません。
死の接吻は、ある三姉妹が、財産目当てのサイコパス男に狙われる話です。
元は長女の恋人だった犯人ですが、色々あった末にその長女を殺してしまいます。
この時、視点が「犯人の一人称」であるため、読者からは全く犯人の姿が見えません。
そして二章目、次女が姉の死を追うにあたり、ある男と協力するのですが、この男こそが姉を殺した元恋人。最後の最後、種明かしまでそれが読者にわからないのは、一章目で犯人の一人称が採用されていたからです。
そして次女も殺され、三章目。
残された三女や家族と、読者に開示されたサイコパス犯人との対決へと物語がなだれ込んで行きます。
この小説も映像化されたそうですが、やはり最初から犯人の姿を撮さざるを得ない映像作品では、このプロットの魅力も半減した事でしょう。
仮に原作通りに犯人の一人称視点にして見せた所で、意図が見え透いて却って安っぽくなりますし。
「映像化不可能」とされる作品を書くことは、一つの境地ではないかと思います。
そう言えば、指輪物語などは技術の進歩によって、かなり後年になって映像化が実現しましたよね。
目視を介さずイメージを伝える・作り出してもらえるのは、小説だけでしょう。視点などはその最たるものだと思います。
ゲームのシナリオに憧れて小説に入った方も相当数居られると思いますが、やはり同じ“物語”でも媒体が変われば全く性質が違う事に注意が必要でしょう。
戦闘最中の掛け声、数値化された能力、雑魚敵との遭遇戦、固定された武器……ゲームなら魅力的だが小説には適さない、そんな罠は一杯です。
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