共感させない描写その1 レミーのおいしいレストランを視聴して

 ディズニーアニメ・レミーのおいしいレストラン。

 端的に説明すると、超一流のフランス料理を作れるドブネズミと、レストランで雑用をさせられていた青年が協力し、二人三脚でシェフの道を志すお話です。

 レミーはドブネズミと言う立場から人前に出られず、青年は料理の才能がからきし。

 と言う事で、ネズミが青年の帽子に隠れて彼を操作する格好で利害が一致したわけですね。

 本来、相容れない生き物同士だった二人が、お互いに欠かせない存在となってゆく、心暖まる友情ストーリー……。

 

 ……なのですが、主役であるネズミの挙動が、所々リアルすぎて気持ち悪い。

 絵柄はコミカルで可愛らしく、愛着のわく顔をしているのですが、冷蔵庫や厨房を埋め尽くし駆けずり回るネズミの大群は、視聴者の原初的な恐怖や嫌悪感をあおりたいとしか思えないほど、生々しい。

 ネズミ取りや殺鼠剤にかかった死体からは死臭すら伝わって来そうでした。

 そもそも何故、料理をテーマとした物語の主役が、不衛生の権化とも言えるドブネズミでなければいけなかったのか?

 邪推になりますが、これは意図的な采配ではないかと考えます。

 本来わかり合える筈もない二人が共に苦難を乗り越え、目的を果たす。

 そんな人間ドラマを見せると同時に、ネズミと言う生物への嫌悪感を想起させる。

「種族と言うこだわりを捨て、一生懸命戦っている彼らに対し、貴方は気持ち悪い、彼の触った料理を汚いと言うのか?」

 そう突き付けられている気がしてなりませんでした。

 主役への共感を一部、あえて阻害する事で、差別意識と言うものが何なのかを直感的に感じさせようとしたのではないか、と勝手に受け取りました。

 事実、物語の終盤、ネズミの大群が料理をする前に、彼らは身体を綺麗に洗っています。

 それでもなお、ドブネズミの触った料理、と言うレッテルはなかなかに外しがたいものでした。

 とは言え「現実にはネズミが衛生面を改めるほど賢くなる筈がない」と言う事実が、その辺の論点をずらしてしまいがちなのですが。

 

 共感させるばかりが、感情移入ではない。

 イデオロギーはともかくとして、物語のスタンス的に気付かされた気がします。

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