突出した人物

 突然ですが、人類と言うのは決して馬鹿ではありません。

 それこそ小説の主役のような活躍をする方が星の数ほど居て、今日の文明は築かれて来ました。

 大抵「これまでに無かった事」と言うのは「現実的ではないので誰もやらなかっただけ」とイコールなことが大半です。

 そんな中で、その分野を相応に極めた人が、人類全体の見落としていた穴を見つけ、初めて新境地たり得る。

 大袈裟に、人類全体・歴史全体との勝負と言っても良いかも知れません。

 世界全体がどこまでの事をやってのけるかは、そのまま物語の視野の広さにも影響するかと。

 

 確かに主人公……言い換えるならヒーローとは、大勢の人々とは一線を画す力や功績を見せてこそヒーローたり得るのです。

 しかしそれは「平凡な、もしくは無能な大勢」との比較であってはならない。

 並み居る強者や天才の中から、更にひとつ上の事を成し遂げて「主役が凄い事をした」と心から称賛されるのでは無いでしょうか。

(設定的に精鋭部隊であっても、作中、数行で蹴散らされるようなケースも、平凡・無能な大勢です)

 つまり、主役の凄さを表現するとなると、本来はその他大勢、社会全体、時にはちょい役の兵士一人一人にも、主役に負けない存在感が必要なのでは無いでしょうか。

 ちょい役の兵士Aだって、戦いのプロですから。

 余談。

 そう言う私の自著「覚醒す」では、自衛隊すら魔物に歯が立たないのですが……これは私の中では例外です。

 特撮にありがちな、警察や軍隊が無力である事は、主役や敵役の突出を引き立てるひとつの様式でもあるとは思うので。

 それにした所で、現代社会に現れたインフレ能力という限定的な設定も要因にあるので、描写も気を配りました。

 

 能力の大小もそうですが、精神の高潔さを表現する際にもやりがちなのが、権力者などが腐敗しきっているパターン。

 暴君や腐った政治家を、憎まれ役としてマイナス面を濃く描写するのは大切なのですが、現実には彼らが堕落している、堕落せざるを得なかった背景も必要では無いでしょうか。

 大抵、噛ませ犬の悪者と言うものも生まれてすぐは無垢で目の澄んだ子供でした。

 それがどうして私事で戦乱を起こすような大罪を犯すに至ったのか。民から搾取するのか。

 封建的な中世時代でも、人類の大多数が現状を最適解としているからこそ成り立ったのだと思います。

 英雄が現体制を打ち倒し被差別階級の人々を解放したとして、ある種、体制が崩壊したとも言える独立後はどうするのか?

 解放軍の世代に政治の出来る人材が居たとしても、次の世代は?

 実際に、政権を覆す事にはリスクが伴います。ともすれば、元々の被差別階級がより危険にさらされ、不幸になる事も。

 比較的平和な我々の世界ですら、正論や綺麗事だけで生き残る・勝ち上がる事は難しい。

 時には手を汚して勝利してこそ浮かぶ瀬もあり、理想を叶える最低ラインに立つことが出来る。

 彼らにとって最悪なのは、手段を選んで、何も結果を残せない事。というか、それだと物語的には登場すら出来ないでしょう。身も蓋もないのですが。

 そう言うわけで、悪者の背景がスカスカなまま、主役が理想を貫いて正義と成果の両方を掴み取っても、どこか白々しくなりがちでしょう。

 諦めて妥協した、責任の為にモラルをも捨てた、目的に邁進するうちに初志や心を忘れた、そんな先輩がたが説得力のある強さを発揮し、それでもなお理想を失わずに勝利してこそ、青臭さを貫いた主人公を尊敬出来るのではないでしょうか。

 敵対ではなく、仲間でも同様だと思います。

 別項「主人公最強」でも述べたのですが、仲間と言うのは主人公の穴や弱みを埋めてこそであり、主人公にしか出来ない事があって初めて一任してくれるものでは無いでしょうか。

 

 とにかく、ある種の予定調和というか八百長じみた勝負にならないようにするには、敵役やライバルにも手を抜かせてはならない。

 結構な労力が必要なようです。

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