本当は難しい二次創作

 何を書きたいか&書きたいもので何をするか、と言う事が最もダイレクトに問われるのはやはり、二次創作ではないでしょうか。

 どうして自分の世界観・設定では無く、既存の作品を土台にしなければならないのか。そこをしっかり表現する必要があります。

 前回でも引き合いに出した「某ネットゲームの二次創作で、フェニックスをでっちあげようとした」例にあるように、元作品を無視した設定に理はありません。

 それなら自分の一次創作として書けば良い……とは、前回から述べて来ました。元作品の世界観やネームバリューだけを都合よく借りるのは、いささか図々しい。

 かと言って、元作品の設定を厳格に踏襲し、ただなぞるだけでは納得が得られにくい。よほど文体面で自信があるならわかりませんが、元作品と同じ事を言ってるだけの小説なら、元作品があれば事足りる=存在意義が薄い事でしょう。

 元作品のリスペクトを徹底した上で、元作品には無いものを出さなければならない。矛盾と紙一重の要求に応えねばならない。

 二次創作を選ぶと言う事は、それほどまでにハードルの高いものだと思います。

 

 私の手持ちの本であるものと言えば、ベニー松山氏の小説ウィザードリィシリーズでしょうか。「隣り合わせの灰と青春」「風よ。龍に届いているか」「不死王」

 特に「風よ~」に関しては、私の創作スタンスに大きく影響を与えた、最も重要な作品と考えています。

 ウィザードリィと言う題材は、二次創作がしやすい部類ではあるでしょう。

 原作からして、用意されているストーリーは最低限。

「王様が、悪の魔術師から盗まれた魔除けを奪回して来い! と言っています」

 この一行でほぼ全容を説明できます。

 主人公や仲間達も全てプレイヤーが作る形式だったので、思い思いの人物が考えられる。

 その作りやすさを差し引いても、原作へのリスペクトが随所に感じられます。

 例えば当該ゲームでは、同じ職業クラスの同じレベルでも、キャラクターによって微妙に魔法の習得時期に差がある(覚え漏らしがあったりする)のですが、それを利用した伏線があったり。

 性格によって就ける職業が違う理由、何も装備しない忍者が強い理由、何度もラスボスに挑める理由。「ウィザードリィあるある」を全て尊重しつつ、主人公達がそれらによって何を思い、何を感じているのかを質感たっぷりに描写されています。 

 魔法の一つ一つが科学的に考証されていたり(例:即死魔法=対象の心臓に呪力を送る事で冠状動脈血栓を誘発して死に至らしめる)

 魔法名を漢字二文字で表現した上で、原作のそれのルビを振る事によって、直観的にその魔法の立ち位置が感じられると共に、原作の知識が追い付かなくても没入感を損なわない小技も利いています(例:封傷ディオス 転移マロール 猛火ラハリト

 それでいて、元作品には無い作者固有の味も見受けられます。

 1作目の「隣り合わせの~」はともかく「風よ~」の序盤では、ダンジョンの入り口が塞がったからと言って、なんとダンジョンの外壁を相手にロッククライミングを敢行します。

 そこでは、充分すぎる程のロッククライミング蘊蓄が語り尽くされると共に、過酷な登攀とうはん行を、ウィザードリィに登場する魔法を駆使する事で乗り越えさせています。

 番外編にして前日譚とも言える「不死王」に至っては、ほとんど独自の設定になっています。

 それでも先述の“フェニックスでっちあげ”と違うのは、やはりそこに「書きたいもので何をするか」の必然性がある……言い換えれば、それほどまでに原作から逸脱してでも、原作へのリスペクトを完遂したと言う点でしょうか。

 不死王では、確かに原作において影も形も無い「古代に滅びた超魔法文明」と言う独自設定が基盤となっております。

 それでも根底にあるのは、ウィザードリィと言う、最低限のテキストで構築されたレトロゲームに対するリスペクトだったのだと思います。

 

 次に挙げるのは、一時期あった「ジョジョの奇妙な冒険の二次創作を人気作家にやってもらおう」と言う企画から生まれた作品たち。

 今の所、我が家にあるのは「TheBook(著:乙一氏)」と「恥知らずのパープルヘイズ(著:上遠野浩平氏)」の二冊です。

 この二冊も、どちらも良作なのですが、二次創作を語る上で好対照な作品であるとも思います。

 私が最初に読んだのは、5部の「恥知らずの~」からでした。

 これは原作の後日談にあたり、原作で途中退場した仲間を主役に据えて、一つの事件を描いた話でした。

 印象としては、原作の味を正当に継承した作品だったと思います。

 その上で、人物造型や能力設定、そして文体面で、著者の特色を出していました。

 後述のTheBookと比較すると、非常にスマートで、適度に一歩引いた印象です。

 余談ですが、パープルヘイズと言う、原作者ですら匙を投げそうになった能力を、うまい事書き切ったものだと思います。

 

 対するTheBookは、4部「ダイアモンドは砕けない」の数ヶ月後を題材としています。

 端的に言えば、殺人犯の視点から原作のヒーロー達に追われる様を描くと言う、古畑任三郎的な倒叙ミステリという趣です。

 これは、ジョジョ4部の特性を正しく理解した上で、自分の書きたいものに落とし込んだ好例と言えるでしょう。

 正直、億泰→仗助と言う連戦を強いられた殺人犯が、逆に気の毒でならなかったのですが、それも原作におけるヒーローとしての彼らの強さを知っているからこその感慨だと思います。

 著者の持ち味でもある、ほんのりダークながら陰鬱すぎない。陰惨な中にも確かに感じ入るものがある心理描写も遺憾なく発揮されています。

 

 リスペクトだけでも書けない。

 さりとてエゴ(自我)だけでも書けない。

 両立したとして、バランスを崩せばたちまち読まれない。

 二次創作とは確かに、世界観構築の手間こそ省けますが、別の部分で求められる部分がそれ以上に大きいと思います。

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