戦闘とPTSD

 昨今流行の異世界転生ものしかり、一昔前からある現代ファンタジーしかり、見ていて思う事があります。

 現代日本人が力を得て殺し合いに身を投じる……と言う事は、何戦か乗り越えた頃に各種PTSDを発症してしかるべきだと。

 古くはベトナム帰還兵という事例があるように、人間の精神とは、プロの軍属ですら長期の戦闘に耐えられるつくりをしていないのです。

 手っ取り早く、自分が魔力や異能を得て実戦に出た所を想像してみましょう。

 相手はモンスターでも人間でも良い。勿論、人間を想定した方が、想像しやすいです。

 どこから、どんな能力の存在に襲われるのか分からない。

 いざ交戦すれば、殺すか殺されるか。敗走する選択肢もあるかもしれないが、結果、五体満足で済む保証も無い。

 異世界転生であれば、人里すら安心できない。風習や、事によっては道徳観すらも日本とは程遠いでしょうから。(その性質上、大方、異世界とは中世ヨーロッパ的な世界観が選ばれる筈なのでなおさら)

 現代ファンタジーにしても、ファンタジーが世界の摂理を蹂躙している状況では、既存の社会は何らかの形で崩壊している事でしょう。

 かの機動戦士ガンダムにおいて、主人公アムロ・レイもまた、戦争神経症、戦闘疲労とおぼしき症状を引き起こしています。(リュウさん曰くの“新兵がよくかかる病気”)

 いつ殺されるかわからない状況に置かれて、

 また、自身が他の命を殺して、その心がただで済む筈がありません。

 

「そういうお前はどう書いたんだ」

 と言われると、いい加減くどいようですが「陰キャ、覚醒す」から引用。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054887357952

 少しわかりにくかったとは思うのですが、作中のボスキャラにあたる黙示録の四騎士のうちの“赤の騎士”を殺したあたりで、主人公が心の均衡を一時崩しています。

 名無しの魔物を二匹殺害し、黙示録の騎士の一番手を下し、赤の騎士は二番手に当たります。

 それまでの主人公は、得た力と襲い来る脅威のあまりの強大さに、ついて行く・生還するだけで精一杯だった。

 それがどうにか辛勝を重ねるうち、魔法戦と言う殺し合いにこなれてきた時期。

 自分の置かれた状況に対するあれこれのストレスも蓄積し、見知った人の死にも直面し、とうとう彼の心は(一旦)折れてしまったのです。

 その後すぐにグアム旅行がはじまり、一見してうつ状態からは脱したように思えますが、あるシーンの地の文においてさりげなく離人症の症状を訴えていたりします。

 そしてそれは恐らく、結末の瞬間まで完治していなかったのだと思います。

 

 殺すか殺されるか、と言う単純な命のやり取りばかりが、戦いの重みではありません。

 例え勝利者であっても、心に深い傷跡を残す。

 本来、戦いとはそういうものなのです。

 手段が剣であれ、銃であれ、魔法であれ、ロボットであれ。

 相手が人間であれ、モンスターであれ。

 

 当然、そんなものをものともしないヒーローが主人公でも、ありだと思います。

 けれどそこには、ヒーローがヒーローである、確固たるバックボーンが必要となります。

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