名前は存在を定義する

 子供が生まれた時に、これを強く感じました。

 生まれる前から「絶対にこの名前」と決めていたとしても、生まれた瞬間から名前を受け取るまでにはタイムラグがあります。

(役所的な意味でも、本当にこの名前で良いのかと言う感覚的な意味でも)

 それまではベッドに「○◯ベビー」だとか書いてあるだけで、その子を一言で示す言葉がありません。

 これが母親なら、およそ一年一心同体だったので、また感じ方は違うのでしょうけど……やはり「自分が親になった」と感じ始めたのは、正式に名付けてからだと思います。

 その瞬間から、その子は「何者か」になったわけです。

 あと結構、「自分の名前に性格が引っ張られる」事って結構あります。

 それが「中性的な名前を気にするあまり男性的な言動を取りたがる」という逆の意味だとしても。

 

 私にとって小説書きの中で一番苦手なのは、タイトルの命名かも知れません。

 私の場合は書きたいものが先に来て、手持ちの材料(知識)で肉付けをし、それに平行してタイトルを付けるのですが、書き終わるまでに結構コロコロ変わります。

 公開後は流石に変えませんが、それでも、完全にしっくりくるタイトルを名付けられた事はあまり無いかも知れません。

 

 名前に関してもう一つ。

 物品や技名などの固有名詞って、やっぱり強いなと、一般人が魔法に覚醒するお話を書いていて思いました。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887357952

 このお話では「魔法とは、使い手の思考が現実世界に漏れ出したもの」と言う仕組みになっています。

 つまり「術者の思考強さに比例して、実体化する現象の規模や精度が大きくなる」性質をしています。

 強く思えば強く現れる。

 話の半ばから、主人公たちは自分の編み出した魔法や必殺技に名前を付けはじめます。

 ある事柄に名前を付ける事で存在を定義し、使用時のイメージ強さを上げるのです。

 例えば「刹那万戦撃せつなばんせんげき」と言う、コンマ秒で数十発の打撃を加える技を作ります。

 そう名付けたことによって、技の使用者には本来出来ないラッシュ力が実現します。

 しかし裏を返せば刹那万戦撃は、刹那万戦撃以外の存在にはもうなれません。

 この作品の場合、ひとたび必殺技を始めれば、技の終わりまで(もしくは物理的に潰されるまで)身体が勝手に動いてしまい、修正が利きません。

 名前とは存在の定義であり、ある意味で呪いでもあるのです。

 刹那万戦撃の例でもわかるように、字面も重要です。発声しやすいからと言って「ああああ」だの「バカ」だのと叫んで放たれる技が強い筈はないでしょう。

 当たり前ですが。

 結局、何が言いたいかと言うと。

 中二病とは、太古の時代より存在する由緒ある文化です。(三国志しかり、北欧神話しかり)

 中二要素に名前を付け、どうやって正当化するかを考えるのも、なかなか楽しいものです。

 

 かつて私は、バトルものを書くにあたって、この考えに否定的でした。

 炎を放ったり、凄まじい落雷を起こしたりしても、現象だけを描写して名付けていませんでした。

 それはそれで、「戦いは遊びやファッションでは無い」事と魔法と言う「超常現象を息をするように起こす」と言う表現にはなるのですが……やはり書いている本人ですら、印象に残りにくい。

 それに結局のところ、現実の銃や兵器にだって名前はついているわけです。(デザートイーグルだとか結構中二感あるのも多いし)

 部隊で行動するにあたって、言及できない装備があると困りますしね。

「第二部隊、瞬獄殺、撃ち方用意!」

「おい、早く邪王炎殺黒龍波をもってこい!」

 

 命名とは、思った以上に重い事なのです。

 人物しかり、固有名詞しかり、タイトルしかり。

 名前は大事にしたいですね。

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