弱い主人公

 “主人公”と言うのは、読み手の小説に対する没入感としてかなり大事なファクターだと思います。

 そんな中「弱い主人公が成り上がる」と言うお話が盛り上がるのも、わかります。

 しかし“弱さ”と言うのもまた、曖昧で幅広い、厄介な概念だと思うのです。

 ざっと大別すると「仕事が出来ない」「身体能力が低い」と言う実存的な弱さと、

「気弱」「性格に難があって窮地に陥る」と言う人間的な本質に起因する弱さがあるのでしょうか。

 大方、最近の“弱い主人公”と言うのは前者がスタートラインな印象があります。

 確かに昨今、皆が何らかのコンプレックスを抱いている時代だとは思います。

 私もそうです。

 だからこそ、弱さを抱いた主人公と言う“切り口”は、導入としては効果的なのだろうと思います。

 けれど、ここまでに何度もブチまけてきましたが、私は小説を手に取る人と言うのは、現実に無い物を求めるものと思っております。

 と言う事は、等身大の主人公に共感を覚えると同時に、そこを超越したヒーローを求めている側面もあると思うのです。

 現実でも、ある面で弱い人間が全方位的に弱い事は無いと思います。

 誰しも弱みがあり、反面に強みを持っている。

 その“強み”が理解されにくいタイプの場合、どんどん迫害されて、本人も委縮してしまうのだとも思います。

 とにかく。

 弱い主人公は、掴みとしての共感は得られやすいでしょう。

 しかし同時に、そんな主人公が見せる強い側面や将来性に関して、読者のハードルはなお高くなるものだとも思います。

 

 そんなわけで、私はどうしたか(自著のステマ)

「陰キャ、覚醒す」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054887357952

 の、神尾庄司かみおしょうじを挙げます。

 彼は、私と同じくいい加減な就職活動の末、ミスマッチな仕事に就いたばかりに、職場に馴染めず苦しみます。

 けれど、手前勝手に上司や先輩を軽蔑して同僚達と共に不誠実な態度を取っていた私と違い、神尾はあくまでも誰も見下さず恨まず「自分に落ち度がある」と真摯に受け止め、限られた状況下でどうにかよくなろうと努力し続けました。

 そして、一歩歩くだけで町が崩壊するような魔物が現れ、自身もそれと同じくらいのインフレ魔力に覚醒し。そんな中でも彼は、持てる力で、魔物と言う“状況”を打破しようと必死になります。

 そういう“弱い中のタフさ”を目指して、彼を形成しました。

 私が彼のように“魔物の襲来”と“魔法の覚醒”に遭遇したとしても、恐らく一日と保たなかったでしょう。

 

 弱い主人公に共感を覚える一方で、人はやはり英雄的な勇気も求める。

 それに対する一つの考察として、私は神尾を描きました。

 勿論、作品のテーマはそこで終わりではないのですが……。

 後は、君たち自身の目で確かめて欲しいッ! (体のいいステマ)

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