第5話 灰は灰に。

 ランは一人の婦人ふじんとともに小さな墓石ぼせきの前に立っていた。

 婦人の耳の上に白髪しらがが生え、目の周りが赤く腫れている。

 蘭の顔は相変わらずクマが目立っているが、墓石を見下ろす目はいつもと違って力抜けている。

 婦人はれた目を拭い、蘭に向かって深い一礼をした。


 「娘の、メイ遺灰いはいを届けてくれてありがとう」

 「礼はいらない。仕事だから」


 くすんだ腕輪をさすりながら、婦人は蘭に問いかける。


 「こんな山郷ははじめて?」

 「いいえ。私もここの出身だ」

 「そう?」

 「うん。でもここを出たのはまだガキの頃だった。ずっと帰ってこなかった」

 「たまには帰ったほうがいいよ。家族に顔を見せてあげるためにも」

 「家族はもういないよ」

 「ごめんなさい。悲しいことを思い出させた」

 「いいよ。もう顔すら忘れているから」


 山風が墓石の前を吹き抜け、蘭の足元にある名もなき花が、何かを考えるように首を横にかしげる。


 「でも今は帰る理由が出来たかも」


 太陽がまだ高いが、背伸びをした蘭は、何故か眠くなった。

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灰は灰に。 衛かもめ @Kuzufuji_Mao

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