第4話 空を渡る
「
「そうよ。何?」
「じゃあ、なぜ今びくびくしているの?」
「高いどころはちょっと苦手だから」
「高い所が怖いんですね。意外」
「怖くない。ちょっと苦手だけだ。ほんのちょっとだけ」
「へー」
これ以上なめられるとたまるか。と自分を追い込んで一歩進んだ蘭は、
「ちゃんと足元を見て歩いてね」
俯けば地獄へ続く
蘭と梅は、
「道」と呼ばれるといえども、絶壁に
固まってしまった蘭と異なり、梅は平地を歩くようにどんどん前へ進んでいく。
「はじめて桟道を渡るんじゃないでしょう?速くしないと日が暮れるよ」
「そうだけど、よっぽどの理由がないと二度と渡らないと思っていた」
「一生そこで
梅の姿がだんだん離れていく。
一人で心細くは決してないけど、フーと大きく気を吐いて、
「いやっ、そんなに
腹をくくった蘭はさきと全く別人のような速い歩調でどんどん前へ行く。
梅は余計な心配をしているんだ。桟道なんか大したことはない。
と笑みを浮かべる蘭だったが、軋む足元の板が急にばきっと折れた。
「蘭!」
血相を変えた梅は帰ろうとしていた。
「来るな!来ても役に立たないからそこで動くな!」
木杭に両手で必死にしがみつく蘭は大声で梅を呼び止めた。
折れた板がコン、コンと岩壁に打って落ちていく。
呼吸を
ぎりぎり届けそうだ。
幸い、板は一枚しか折れていないから、隣の木杭を掴まってよじ登れば、旅を続けられそうだ。
左手を放し、隣の木杭に伸ばそうとする蘭の動きを、メキっと立つ音が止めた。
「ちっ、こっちも折れるか…」
「まず荷物を捨てて!」
梅の意見はごもっともだ。
重量を減らせば身体を安定させることができるし、隣の木杭に身を移すのも容易くなる。
「馬鹿言え!」
と蘭が大喝するとたんに、木杭がまたメキっと音を立てる。
「そんなもん捨てろよ!命より大事なものはないよ!」
「捨てる、ものか!」
バキっと木杭が折れるとほぼ同時に、蘭は剣を岩のひび割れに刺さり込んだ。
体重を剣に懸けた蘭は、すこし左の木杭に近づき、猶予なくよじ登って隣の板の上で立ち直った。
次の瞬間に、岩壁の表面が剥げ落ち、蘭の剣も深淵へ墜落していく。
梅に続き、ようやく桟道を渡りきって、蘭は地に足を就いた。
二人が歩くと、地がますます
梅は足を止めた。
「どうかした?」
「いいえ、別に」
蘭は梅と肩を並べて、一緒に村を眺める。
しばらくたって、梅は何か気づいたように呟く。
「なんか変わった」
「変わったね」
丸腰になった蘭は、少しだけ手が寂しいと感じ、腰あたりで拳を握る。
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