救世主は鬼!
にゃべ♪
地球を守った鬼
20XX年、人類は地上で繁栄の頂点を極めていた。しかし、その栄華は一瞬で打ち砕かれる事となる。この地球を植民星にしようと言う一団が、突然太陽系外から出現したのだ。
超巨大な母船と無数の宇宙船は世界各国の都市に向かって攻撃を開始する。対する人類側も最強の戦力で反撃を開始するものの、持ちうる技術力の差は埋める事が出来ず、核ミサイルすら無効化された時点で人類側の敗北は確定されたも同然だった。
宇宙人は自らの種族をバルウ星人と名乗り、人類に降伏を勧告する。彼らの要求は地球上の全ての資源の譲渡と人類の奴隷化。そこには増えすぎた人口の削減も含まれていた。
人類側は到底受け入れられないと最新のプラズマ兵器やレールガンなどを駆使して抵抗するものの、宇宙船の防御システムには傷ひとつつかない。逆に反撃されてしまい、各国の都市は次々に壊滅していく。わずか一週間で人類はその総数を4割減らしてしまった。要求のひとつに人口削減があったため、その攻撃には全く容赦がない。
この事態を前に人類側も服従か抵抗かで意見が割れてしまう。ただ、バルウ星人の圧倒的な戦力を前に服従派の割合はどんどん増えていくばかり。国連の場でも議論は終わる事なく、各国の首脳陣は難しい選択を迫られていた。
「降伏しよう、このままでは人類は滅ぶ」
「奴らは人間を家畜以下に思っている。そんな奴らに服従しろだと?」
「そもそも現存兵力の何も通じないんだぞ? 抵抗自体が無駄だ! 奴らを怒らせたらそれこそ我々は滅ぶぞ!」
「最後に服従を選ばざるを得ないとしても、せめて一矢は報いねば。殺された同胞の無念を晴らさない事には……」
中々答えを出してこない人類側に痺れを切らしたバルウ星人のUFOが国連本部ビルを攻撃。一瞬で辺りは灰燼と化した。
こうして国際的な協調が取れなくなる中、日本の瀬戸内地方では超古代文明の技術を復活させてこの宇宙からの驚異に対抗しようと言う動きが始まっていた。提唱者の博士の名前を冠するその研究所の名前は、村上古代遺物研究所。その研究によってUFOの攻撃に耐えるバリアを発生させる事に成功していた。
この成果が知れ渡った事で、研究所の周辺には各国のセレブ達が集まって身を潜める事態となる。
当然この事はバルウ星人側も把握していて、次の攻撃対象に研究所を指定。指令を受けた無数の攻撃UFOが飛んでくる。
研究所の上空に集まったUFOは一斉に攻撃を開始。すぐにバリアによって防いだものの、攻撃のあまりの高出力にいつ突破されるか分からない状態になってしまう。
「ヤバいぞ、このままではバリアが持たん」
「大丈夫、やっと古文書の解読が終わった。彼が目覚めてくれる」
後一撃でバリアが破られようとしたその時、謎の力によって逆にUFOの方が爆発。この有り得ない現象にバルウ星人側は困惑し、残ったUFOはすぐに母船に撤退する。
「何や、久しぶりに起きたら
UFOを撃退したのは全長10メートルはあろうかと言う巨大な鬼だった。頭には2本の角、その手にはヒヒイロカネ製の金棒。UFOを撃退したのもまたその金棒での攻撃だった。鬼が思いっきり投げつけてぶっ壊したのだ。
攻撃UFOが去った後でバリアは解除される。安全になったところで、村上所長は敵を追い払った鬼の前に顔を出した。
「有難う。君のおかげで私達は助かった。よく目覚めてくれた」
「礼には及ばへんわ。それにしても人間はまた文明を復活させたんやな。やるやんけ」
「いや、それでも鬼文明には遠く及ばんよ。君に更に頼むのは都合が良すぎる話かも知れんが、どうかあの侵略者を倒して欲しい」
「ええで。ちょうど退屈しとったんや。ええ遊び相手が出来て楽しなってきたとこやわ」
所長の頼みを快く引き受けた鬼は、そのままバルウ星人が本拠地にしているアメリカのニューヨーク上空まで飛んでいく。鬼は腕力と供に神通力も身につけているので、この距離を移動する事も全く問題にならなかった。
「待っちょれよォ宇宙からの侵略者共ォ! 地球が誰の星か、よォ思い知らせたるわ!」
その頃、バルウ星人の母船では攻撃部隊の敗戦の情報が伝えられたばかり。まさかいきなり追撃が来るとは思っていなかったため、急接近の情報が伝えられて船内はパニックになる。そこで、鬼が母船に近付く前に排除しようとすぐに迎撃態勢が取られた。今度は破壊されても問題ない無人機が鬼を攻撃するために出撃する。
こうして、無数の無人機が鬼に向かって特攻をし始めた。
「おお、セコい手を使ってくるやんけ。しゃらくさいわ!」
鬼は向かってくる無人機を金棒で次々にぶち壊していく。鬼の手にかかれば、地球人文明の更に格上の技術を持つ宇宙人の建造した飛行体であろうとただの玩具に等しかった。自慢の無人機が次々に破壊され、バルウ星人はこの作戦では勝てないと自覚。母艦に搭載されている全ての砲門を開き、物量に任せた攻撃を開始する。
無数のプラズマレーザービームが鬼に向かって放たれ、それを鬼は手に持った金棒一本で防いでいた。
「ほおお、結構やるやんけ……でもなあ、鬼の本気はこんなもんやないぞ!」
鬼が思いっきり金棒をスイングする事でビーム攻撃は反転。跳ね返されたビームは次々に母船に当たり破壊していく。このデタラメな攻撃に恐怖を抱いたバルウ星人の母船は大気圏外に撤退。
こうして、地球人側は当面のピンチを脱したのだった。
「ふん、案外ヘタレなヤツやったな……」
撤退はしたものの、バルウ星人が地球をあきらめた訳ではない。鬼の攻撃の届かないところで密かに反撃のチャンスをうかがっていた。今回の敗北は鬼の事を何も知らなかったからだと、すぐに鬼の研究を始めたのだ。
そんな事になっているとは知らない地球側では、バルウ星人撃退の宴が開かれていた。
「さあさあ、どんどん食べてください、飲んでください! あなたは地球の守護神です!」
「うははは! 愉快愉快」
宴の舞台は村上古代遺物研究所の中庭。地球上で唯一バルウ星人を倒せる鬼に対して、精一杯のおもてなしがなされたのだった。
一方のバルウ星人はこの天敵を倒す方法を徹底的に研究する。地球を制圧しかけた時に現地の情報をほぼ収集していたのだ。学術的な文献から地域の民間伝承までありとあらゆる地球の情報をコンピューターに読み込ませる。言語体系が違うために分析は簡単には行かなかったものの、そこは人類を遥かに超えた科学力。一度翻訳の糸口が見つかると、そこからはあっと言う間だった。
母船のコンピュータは鬼の情報を調べ尽くし、そこから得た情報で有力な殲滅方法を提示する。こうして、バルウ星人の反撃が開始されるのも時間の問題となった。
地球外でそんな事態になっている事も知らず、村上古代遺物研究所では鬼を守護神とした地球防衛システムの構築の研究が進んでいく。蘇った鬼がまだ1人しかいないため、まずは他の鬼の復活に重点が置かれる事となった。
「地球全てをカバーするには少なくとも7人の鬼が必要だろう」
所長のこの計算を根拠に、各地に眠る鬼の探索に研究員達は飛んで行った。システムが完成するまでは既に復活している鬼『シュテン』をメインとした防衛網が展開される。彼は所長のこの計画を聞かされてため息をついた。
「あのなぁ。他の鬼を起こす事は出来ひん。この時代に甦れるのは俺だけやで。そう決まっとんのや」
「けど、今は地球のピンチなんだよ!」
「アホか! 俺1人で全部面倒見てやるっちゅーねん!」
シュテンがキレ散らかしていると、研究所に大気圏外に不審な動きがあると言う連絡が入る。そう、ついにバルウ星人の反撃が始まったのだ。母船はまっすぐ研究所に向かっている。どうやら直接鬼を倒しに来たようだ。
この動きを知ったシュテンは、すぐに迎撃態勢に入った。
「飛んで火に入る夏の虫や! 今度こそあの母船ぶっ壊したるわ!」
シュテンがパキポキと指を鳴らしながら待ち構えていると、ついに母船が現れる。目視出来る距離にまで降りてきた母船はハッチを開いた。そこからまた攻撃UFOが出てくるのだろう。この動きを察知した彼は速攻でハッチめがけてジャンプする。驚異的な脚力でシュテンは一気に母船の中に入っていった。
この鬼の単独行動は研究所でもしっかりチェックされている。モニターを見ていた研究員の1人が、この展開に歓声を上げた。
「やった! これで母船の壊滅は決まりですね!」
「どうかな? 私には罠のようにも見えるが……」
「そんな? バルウ星人が鬼の攻略法を見つけたとでも?」
「何にせよ、私達はここから見守る事しか出来ない」
研究所内でシュテンの行動を不安視する声も出る中、当の本人は母船を豪快に破壊しながら先へ先へと走っていた。目的地はこの母船のボスの居る司令室。ボスさえ落とせばこの侵略劇も今度こそ終りを迎えるだろう。
彼は自分の勘を頼りに通路を進んでいく。やがてシュテンはやたら広い空間に躍り出た。
「なんやここは?」
「ようこそ、地球の守護神よ。私達は君を歓迎するぞ」
「まさか、お前か? ここのボスは」
「そうとも。私がバルウ軍銀河系侵略担当総司令ボゴルである」
ドーム状の広い空間でシュテンと対峙したのは、捜していたこの母船の司令官だった。バルウ星人は人間より遥かに大きく、全長5メートルはあろうと言う大きさだ。彼は特徴的な白い髭を蓄えていて、歴戦の勇者のような彫りの深い面構えをしていた。とは言え、その倍の大きさのシュテンにとっては脅威でも何でもない。
ついにお目当てのボスに辿り着いたと言う事で彼ははニヤリと笑うと、腕を回しながら悠々とボゴルに近付いていく。
「よーし、そこで待っとれや。俺がボコボコにしたるわ」
「ふふ、恐れ知らずとは愚かなものだな。貴様はここで死ぬのだ」
「はぁ? 寝言は寝て言えや」
「その威勢は、これから起こる事に耐えてから言うべきだろうな」
この言葉にシュテンが周りを見渡すと、いつの間にか武器を持った複数のバルウ星人兵士が取り囲んでいた。そうして、準備が整ったところでボゴルが声を上げる。
「鬼はー外ォーッ!」
「何やて?」
兵士達は豆を弾にしたマシンガンをシュテン目掛けて撃ち始めた。標的が大きいと言うのはこの場合弱点にもなる訳で、豆の連打を浴びたシュテンはみるみる内に体を傷だらけにしていく。それでも流石は鬼、ダメージを受けているだろうに歯を食いしばって平気な顔をする。しかし、さっきまでのように俊敏に体を動かせない状況では、この攻撃が効いていると白状しているようなものだった。
見事に鬼の弱点を突けたと言う事で、勝利を確信したボゴルは高笑いをする。
「くははは! まさかこんな豆が鬼の弱点とはな!」
「ふん。マジでそんなおとぎ話を信じとったんか?」
体中から血を吹き出しながら、シュテンは力を振り絞ってバルウ星人兵士達をボコボコに殴る。彼らを倒した後、すぐにシュテンは高みの見物をしていたボゴルの目前にジャンプ。有無を言わさず一気に司令官を叩きのめした。その後は更に暴れまわり、母船をフルボッコにしてシュテンは地上に戻ってくる。
「おっしゃあ、帰ったで!」
「母船はどうなった?」
「ああ、アレもう使い物にならへんで。見とってみ、尻尾巻いて逃げよるから」
彼の言葉通り、ボロボロの母船は地球から去っていった。半壊で済ましておいたのは、こんな厄介な敵がいると言う事を知ればもう襲ってくる事もないだろうと言う計算からだ。事実、それからはバルウ星人の侵略はなかった。
バルウ星人撤退から3日後、シュテンは突然血を吐いて倒れる。やはりあの時の豆攻撃は効いていたのだ。古傷から勢いよく流れ出す血の止め方を人類は知らなかった。
この突然の事態に、所長は何とか助けようと奔走する。
「しっかりするんだ。ここで死んでは……」
「いや、もうこれは無理や。人間もこれからはしっかりするんやで……」
その言葉を最後にシュテンは動かなくなった。人類はシュテンを手厚く葬ると彼の銅像を作り、救世の英雄と讃えたのだった。
(おしまい)
救世主は鬼! にゃべ♪ @nyabech2016
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