第5話:追放と激怒

 コズビー王太子がガーバー公爵家を処罰しようと奔走していたが、それよりも先にガーバー公爵家が動いた。

 ナーシスの極悪非道ぶりを誰よりも知っている父親で当主のロバートが、これ以上ナーシスがラーラに手出ししないように手を打ったのだ。

 だがその方法が悪かった、最悪だった。


「テルソン辺境伯家令嬢ラーラ。

 貴女は今回のビンガム男爵引き込み事件に関与している疑いがあります。

 殺されたニーナ嬢がそう証言していました。

 ニーナ嬢が殺された今、確たる証拠も証言もなくなりましたが、疑われるだけでも王立令嬢学園の生徒失格です。

 貴女を学園から追放します」


 ガーバー公爵家は、この期に及んで自家の面目を保つためにラーラを貶めた。

 誇り高く死を恐れない者なら厳重に抗議していただろう。

 いや、こうなる前に刺し違えてでもナーシスを殺していただろう。

 だがラーラは優し過ぎて他人を傷つけることができない。

 他人を傷つけるよりも自分が我慢する事を選んでしまう性格だった。


 だがらこそラーラは追放処分を喜んでいた。

 無理矢理追放されなけれ学園を逃げ出す事もできない性格だった。

 だが同時に汚名を着た状態で領地に戻る事もできない性格だった。

 だから放浪の旅に出る覚悟をしていた。

 ラーラは保護していた動物達を放して王都を出た。


「「「「「ミャアア」」」」」

「「「「「クゥウウウウン」」」」」

「「「「「クッウウウ」」」」」

「「「「「カッアアアアア」」」」」


 放したはずの猫や犬、鳩や鴉が王都を出たラーラの前に集まって来た。

 寂しくて不安で仕方がなかったラーラの心は一気に満たされた。

 寒い夜に野宿をすることになっても全く凍える事がなかった。

 木の実や果実はもちろん魚まで狩って来てくれるので飢える事もなかった。

 疲れると一気に大きく育った猫が背中に乗せてくれた。


 ラーラが動物達と気ままな旅を楽しみだして二十日。

 オレンモア王国の王都は生地獄と化していた。

 巨大な猫が王立令嬢学園で暴れ回り、生徒、教師、女兵士などを惨殺した。

 ナーシス嬢ただ一人を残して。


 翌日の晩には生徒の家が襲われ多くの貴族家が全滅した。

 コズビー王太子は恐怖で半狂乱となった。

 次は自分の番だと思い込んで王国軍を動員してた。

 ガーバー公爵家の王都屋敷を襲い皆殺しにした。


 オレンモア王家が全貴族を皆殺しにして独裁者になろうとしているという噂が、瞬く間に国中に流れた。

 領地に残っていた遺族が生き残りをかけて叛乱した。

 オレンモア王国が血で血を洗うような激しい内戦となった頃、ラーラと動物達は他国で幸せに暮らしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫神は婚約破棄された悪役令嬢を溺愛する 克全 @dokatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ