第4話:汚濁

「ブラウン男爵家令嬢ニーナ、全部お前が企んだことなのだな」


 今回の査問を仕切るコズビー王太子が氷のような話し方をしている。

 何も知らない者には公平な裁きをしているように見える。

 だがほとんどの者はこれが茶番だと知っている。

 ガーバー公爵家があらゆるところに手を打ち、ナーシスの行った卑劣外道な犯罪を、ニーナに身代わりさせている事をだ。


「はい、全て私がビンガム男爵に脅かされて仕方なくやった事です。

 心から反省しています」


 だがそれでも罪状を少しでも軽くする工夫はされていた。

 あまりに罪が重いと破れかぶれになったニーナが全てを白状してしまう。

 ニーナを殺してしまう手もあるが、そんな事をすれば波紋が広がってしまう。

 だから死んだデイヴィッドに全てを擦り付けた。

 だがこれには王家の欲も加わっていた。

 金貸し業で金を蓄えたビンガム男爵家を潰して財産を没収するためだ。


「分かった、家族を人質に取られての事なら温情を与えるしかないな。

 それにちゃんと兵士に通報して捕えようとしていた事も減刑対象だな。

 ナーシス嬢を人質にして逃れようとしたデイヴィッドを殺したのは仕方がない。

 元々令嬢を暴行しようとしたデイヴィッドが全て悪い」


 茶番のような査問が終わった。

 査問の内容を元に正式な裁判が行われ判決が下されるはずだった。

 だがそうはいかなかった。

 

「ギャアアアアア」


 査問があった日の夜、ニーナが殺された。

 デイヴィッドと同じように切り刻まれて殺された。

 だがそれで終わりではなかった。

 ラーラ嬢を自殺に追い込む計画に加わっていた者が次々と殺されていった。

 計画参加者は次は自分が殺されるのではないかと恐れおののいていた。


「うっうううう、やめろ、やめろ、やめてくれ、やめてください」


 コズビー王太子は悪夢にうなされていた。

 象に匹敵する大きさの凶暴な猫が徐々に身体を傷つけていた。

 手足を爪で削られ喰われた。

 夢の中とは言え激痛のあまり情けない叫び声をあげてしまう。

 次に脚や腕を爪で引き裂かれた。


(今回は夢で済ませてやる。

 だがこのままナーシスの悪行を見過ごすのなら、お前を殺す。

 他の連中と同じように切り刻んで殺してやる。

 だが直ぐには殺さない、毎日指一本腕一つ喰ってやる。

 腹を裂き生きたまま内臓を喰ってやる)


 目が覚めたコズビー王太子は恐れおののいていた。

 絶対に勝てない相手だと本能的に悟っていた。

 そして最後の言葉に焦っていた。

 一刻も早くナーシスを裁かなければ腕を喰われる。


 一方ラーラは久し振りに幸せな生活をしていた。

 流石のナーシスもしばらくは大人しくするしかなかったから。

 ラーラは可愛い子達をブラッシングしてあげていた。

 いや、ブラッシングさせてもらっていた。

 安心して眠った後は巨大な猫がラーラを抱きしめていた。

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