男子高校生の醜態

栗音

第1話【テストの教科を間違えた高校生】

「なぁ、さっきから気になっててんけどさ」


「あ?」


「何でお前英語の勉強してるん?」


俺の今日はその言葉と共に終焉を迎えた。


俺は、高校三年間でろくに勉強をしたことが無い。

授業もノートはしっかり取るものの授業自体は全く聞いていない。

教科書やノート、問題集も学校のロッカーに突っ込みっぱなしで持って帰るのはテストの前日と長期休みの前に行われる三者懇談の時に親の車に乗せて帰る時だけだ。

なので、基本、学校指定の鞄の中は弁当と水筒ぐらいしか入っていない。

めっちゃ軽くて助かってます、はい。

まぁ、そんな事はさておき、今日は十二月。

みんな楽しみな冬休みに入る前に行われる最難関事項である試験の二日目である。

俺はいつも通り前日に今日の試験の教科の教科書やノートを持って帰り、赤点ギリギリ取れるぐらいの勉強をした。

そして、いつも通り電車に乗り学校の最寄り駅までいき、友達二人と落ち合い、学校までの約三十分の道のりを軽くノートを見返したりどーでもいい事を話したりして歩いていたわけである。


「は?

えっ、どーゆーこと?

今日のテストって英語やんな?」


友達の言葉に一瞬思考と動きを止め、その後、友達二人に聞き返した。


「いや、今日は国語と物理やで」


そして、帰ってきた言葉に絶望した。


「え・・・」


「ぶ、ははははっ!

やっと気づいたか!

いつ気づくか楽しみにしててん!」


俺に絶望を突き付けた友達とは違う方の友達の大爆笑がそれが事実であると物語っていた。

今なら気づいてたなら早く言えよ!とか思うのだがその時の俺にはそんな余裕は無かった。


「え?

まじ?」


「ほんまやって。

周り見てみーよ」


友達に言われるがまま、俺達と同じように学校に向かって歩いている学生を見た。

他の学年の生徒なのか全く知らない人が多い中で俺と同じクラスの生徒がいるのを見つた。


「マジやん。

詰んだ」


その生徒が物理の教科書を持っていたのである。


「お、おれ!

無駄な足掻きしてくるー!」


「おう、頑張れ〜」


「もう無理やって諦め」


俺は、笑いながら色々言ってくる友達二人を背に猛ダッシュで物理の教科書にある自分のクラスに向かった。


◇◆◇◆◇◆


「はぁ、はぁ、はぁ。

ぐっ、ぁ、はぁ」


俺は廊下に貼ってある『廊下を走るな!危ない!』という文字と走っている男の子とそれにぶつかりそうになっているの女の子の絵をしり目に教室に駆け込んだ。

【注】普段は廊下を走ったりしません。この時ばかりは気が動転していました。本当に申し訳ないと思っています。


「お?

どーした?」


「ちょっと、ごめん!

俺の人生が掛かってるんや!」


俺の慌てっぷりに声をかけてきた友達も居たがそんなのに構っている暇は無いと物理の教科書を広げ絶対に出るであろう公式を頭に叩き込む。


「あれがこうで、それがこう、ブツブツブツブツ」


「お、やってんね〜」


それから十分ほど冷汗をかきながらブツブツと不審者のごとく暗記をしていると途中まで一緒に学校に向かっていた友達の一人が自分のクラスに鞄を置いた後、俺のクラスに来ていた。

俺はそれを無視し暗記に励んでいると周りから「こいつアホやろ」「補習お疲れ様です」「一緒に補習してくれる人見つかって安心やわ」などと、事情を聞いた奴らが好き勝手言ってくる。


「あー!

黙れ黙れ黙れ!

まだ補習じゃねーよ!

諦めたらそこで試合終了なんだよ!

ブザービート狙ってんだよ!

藍染先生なんだよ!」


「藍染じゃなくて安西な。

愛染はBL〇ACHだから。

持ってんのは鏡花水月じゃなくてバスケットボールだから。

でも、もしお前が卍解出来たら補習回避できるかもな」


「そんなこと出来るわけねーだろ!

もう、藍染でも安西でもいいから俺お助けてくれ!

お前らもわらってないで勉強しろや!」


「いや、俺達は、、、」


「「「なぁ?」」」


なぁ?って何だよ!

男同志で目で会話すんじゃねーよ!

キモイんだよ!


「もう、頼むからお前らどっか行ってくれ!」


頭を抱えながら言ったこの言葉はこの年で一番気持ちがこもった言葉だったのではないだろうか。


キーンコーンカーンコーン


「お、チャイムなったな。

席もどろーぜー」


「そーだな。

いいものも見れたし、テスト頑張るか」


そう言って友達共はいいもん見たと馬鹿りににこやか笑顔で自分の席に戻って行った。

マジで後ろから殴ってやろうかと思ったとだけ言っておこう。


◇◆◇◆◇◆


終わった・・・。

全く解けん。

用語が分からないのはもちろんのこと、公式はさっき必死に覚えたので分かるが、その公式をどう使えばいいかが分からん。

バネの力とか知るかよ〜。

力の吸収とか重りがどうとかとかどうでもいいだろ〜。

いちいち計算しなくても起こったことが現実で全てなんだからさ〜。


キーンコーンカーンコーン


そんな言い訳をツラツラと並べている間も非情にも時間が過ぎていき、試験用紙の半分も埋められないまま試験の終わりを告げるチャイムがなった。


◆◇◆◇◆◇


数日後、とうとう地獄の物理のテスト返却日が来てしまった。

テストの大半が返却されており、点数は赤点ギリギリのラインで保っているものが多かったがたまたまヤマが当たって高得点を取ったものもあった。


「おいおい、次物理の返却だろ?」


「黙れ〇ね」


俺の事情を知っている友達が茶化してしたので反射的に放送禁止用語を発してしまった。


◤◢◤◢注意◤◢◤◢

ある地域以外の方には馴染みが無いかもしれませんが、ある程度信頼関係を築いている友達間では、「黙れ」「〇ね」「シ〇くぞ」「い〇」などの攻撃的な言葉は割と頻繁に飛び交います。

そりゃもう「おはよう」の次ぐらいに。

まあ、それは冗談としても言った方も言われた方もあまり気にしません。

◤◢◤◢注意◤◢◤◢


「まだワンチャンある!

平均が低ければ補習は免れる!」


「まぁな〜。

俺も物理全然出来んだし、同じく出来てないって言ってる奴も多かったからな」


「ほらみー!

やっぱり神は俺の味方をしてる!

やっぽー!」


「おーい、そこ。

テスト返し始めるぞ。

あまり煩いような点数関係なく補習にするからな」


「「申し訳ありませんでした」」


先生の脅迫じみた発言に俺達生徒は屈するしか無かった。


「それじゃあテスト返していくぞ〜」


テストの返却は出席番号順に行われ、俺の名前の最初の文字は『よ』なので返却は最後だ。

周りで歓喜の声や悲鳴が聞こえてくるが俺は無心で目を瞑り両手を組み神に祈っている。


「〇〇」


俺は先生に名前を呼ばれ静かに立ち上がり先生の元まで行く。

そして、答案用紙を見えないように受け取り自分の席に戻った。


「おい、見ないのか?」


そう前の席の友達が聞いてくる。


「まぁ、待て。

平均点を聞いてからだ」


俺の学校の大体の補習ラインは35点ほどだ。

だが、それが崩れる時がある。

それは平均点が低すぎる時だ。

俺はその平均点が低すぎて何とか補習から免れる事を心から願っているのだ。


「お前ら、今回のテスト悪過ぎだったぞ。

平均点は28点だ」


平均点が28点ということは20点まではギリギリセーフのラインだと予想がつく。


(あ、開けるぞ)


俺は大きく深呼吸をした後、ゆっくりと答案用紙を広げる。

そしてそこに記されていた点数は・・・。


「に、23点!!!!

来た!!!!!」


俺は勢いよく椅子から立ち上がりその年で一番の大声を出した。

俺は補習から逃れることが出来たのだ。


後日、成績表が配られ、化学で俺のクラスから補習になったのはあの日俺に「一緒に補習してくれる人見つかって安心やわ」と言っていたやつだけだった。


(〜完〜)

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