第11話 エピローグ:アミトラからの手紙

テキサスから帰ってきてすぐに、僕は姫が印刷してくれたアミトラとのツーショット写真と、日本の景色の写真集をアミトラに送った。アミトラとの写真は、真っ赤な大地と岩山を背景に、美しい夕焼けのコントラストがドラマチックに映されていて、僕は思わず姫に、君はプロの写真家に慣れるんじゃない?と言ったくらいだ。僕は殺風景な自分の部屋にちょうど良いと思い、F三号のキャンバスに印刷してもらって壁にかけた。そして、アミトラからもらったネックレスもキャンバスの端っこにぶら下げた。写真集は、たまたま塾の帰りに本屋でブラブラしている時に、海外向けのコーナーで見つけた、英語と日本語のバイリンガルで説明が載ったもの。テキサスからユタにかけての風景が、殺伐として、巨大で、威圧的でどこか寂寥感に満ちていたのを思い出して、日本の柔らかい風景を見せたいと思って買った。春の桜のピンクでふわふわな美しさとか、奥多摩にある小さな滝と苔蒸した濃緑の岩場とか、紅葉が赤や黄色に染まって、神社の鳥居の朱色を際立たせていたりする、そう言ういわゆる観光客に喜ばれそうな写真が沢山載っている本。喜んでくれれば良いのだけど。それから勿論、僕は自分の英語力を駆使して手紙も書いてみた。アミトラは孤児院から近所の学校に通い始めたと聞いている。二ヶ月もすればアルファベットで手紙くらいかけるようになっているかもしれない、そのうち返事が来ますように、そう祈って郵便局に持っていった。


Dear Amitora,


Hello! This is Sho (Tonto), how are you? I am back in Tokyo, Japan, and staying busy with my school summer homeworks. How is your school, are you enjoying it? I have enclosed a photograph of us in your village. It is beautiful and I really like it. I hope you will like it too. Also, I thought you might like to see where I live. So I got you a photobook. This book shows the different scenery of Japanese four seasons. I hope you will enjoy it. I hope we can meet each other again in future. Please take care. All the best.

Sho (Tonto) Okamoto

<アミトラへ


こんにちは!翔(トント)だよ、お元気ですか?僕は日本の東京に戻り、学校の夏休みの宿題で忙しくしています。君の学校はどうですか、楽しんでいますか?君の村で撮った写真を同封しました。美しい写真で僕はとても好きです。君も気にいると良いのだけれど。それから、僕の住んでいる所も見てみたいかなと思いました。だから、写真集を買いました。この本で日本の四季の景色が見られます。楽しんでくれると嬉しいです。そのうちもう一度会えたら嬉しいです。ではお元気で。

                         岡本 翔 (トント) >


クリスマスが過ぎた頃、僕の家にジャッキーさんから小包が届いた。僕は学校から帰ってくると、カバンを床に投げ捨てて、机に置かれたエアメールの小包をワクワクしながら破った。中からは、I♡TEXASの板チョコレートが五枚と、小型の青いナーフガンとスポンジ弾、そして<Dear Tonto♡>と宛名が書かれた封書が添えられていた。可愛らしい筆記体で書かれている。そして一枚の写真。写真には、テリーマン、ジャッキーさん、三人の息子達、そしてアミトラがレッド・クリーク・ランチのロッジの前で、”WELCOME ☆ HOME”と書かれた手作りっぽい横断幕を持って写っていた。アミトラは満面の笑顔で、テリーマンとジャッキーさんと手を繋いでいる。少しだけ大人っぽくなったかもしれない。いつも後ろで二本の三つ編みにされていた髪が、一つのポニーテールにしてある。服も、I♡TEXASの赤いTシャツに、膝丈のジーンズスカート、そして白いスニーカーを履いて、ジャッキーさんとお揃いの格好をしている。養子になれたんだ、僕は目元がじんわり熱くなるのを感じながら手紙を開いた。筆記体は読み慣れていないけれど、塾でやったから時間をかければ読める。僕は机に座ると、写真を机の上のコルクボードにピンで留めて、封筒を破いた。


 Dear Tonto♡


Thank you for the letter and the Photobook! I really liked our photo, you look like a handsome prince! I am enjoying my school very much, Jackie is also tutoring me English, so now I can speak, read and write. I am very happy about that. It was so nice of you to send me the scenery from Japan. Your country is very beautiful! I wish to travel to Tokyo sometimes with my family and see you, Joe, Henrietta & Kei. That summer we spent together was one of the best memories I have with my friends. Whenever I see a merry-go-round, I think of you and that hot day at the Rodeo. I miss you very much!

With Love, Amitora


<トントへ♡


お手紙と写真集どうもありがとう!一緒に写っている写真とっても好きです。あなたはハンサムな王子様みたいだね!学校はとても楽しんでいます。ジャッキーが英語の個人授業もしてくれているので、やっと話すのも読み書きもできるようになりました。とっても嬉しいんだ。日本の景色を送ってくれて本当にありがとう。あなたの国はとっても美しい所ね!そのうち家族と一緒に東京を訪れて、あなたとジョー、ヘンリエッタとケイに会いたいな。一緒に過ごしたあの夏は、友達との一番の思い出です。メリーゴーランドを見るたびに、あなたとあの暑いロデオの日を思い出します。会えなくて寂しいです!

愛を込めて、アミトラ>






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お姫様と僕 槇鳥 空 @kuu-makitori

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