63話 プニプニ! プニプニ!

 おいらは口内銛を必死で押さえつつ、結構な距離運ばれている。


 視野に表示される艦内地図とおいらを表示する赤点を見る限り、今居る場所は、かなり艦尾方向、工房の上階部分だ。


「家族用の居住区か、迷惑掛けれねぇけど、掛けちまうなぁ」


 はむはむされて、ロクに身動きも出来ず、巣にお持ち帰りされてる現状どうにもならねぇ。


 じたばた脚を動かしてるものの、びくともしねぇ。

 しかし、こんな化け物の巣が居住区の上にあるってのも何というか……凄いな。


 視野の赤い表示が増えた。多少念話に似た機能もあるのか距離と高さ、及び誰か判る。


 テルル他、陸戦隊四名。下方より接近中。艦外からカーナも物凄い速度で戻りつつあるのも感じる。


『猿! 喰われてやんの、直ぐに助けるから安心して寝てな!』


 早速テルルが煽って来る。


『こんな状況で寝れるかっ! 馬鹿じゃね!』

『そんな状況でも寝れるのが陸戦隊だがよ!』


 ごま塩頭のバリガも来てくれたらしい。ちょと安心。

 陸戦隊の他の奴らもわいのわいの念話してくる。


『猿くん、追い込むから暴れると思う。舌噛まないよう気をつけてね』

『了解っす!』


 おいらは歯を食いしばって返事。


『雷撃も行くから障壁も強めに張っとけよ!』

『了解。汎用甲冑くんもかなり無理してる!』


『判った! お前ら、魔法攻撃は割りと本気で撃てるぞ!』

『そりゃ良い。楽になるんだがよ』


『……テルルさん? 汎用甲冑くんの障壁出力、無理してるっておいら言ったよね!』


 ……大丈夫、最悪自分が防ぐとフッ君。

 汎用甲冑くんも頑張ると意思を伝えて来た。


 ……君達……おいらは気合入った軍服と甲冑に心の中で頭を下げる。

 フッ君も汎用甲冑くんもおいらの謝意に気合が入る。


 ……と、物凄い雷撃が来た。

 空気を切り裂く激しい音が甲冑内に響き渡る。


『ぎっぃやぁぁ』


 テルル達陸戦隊の強烈な雷撃においらは悲鳴。

蛇ムカデクィムが揺れる揺れる。が、別に死ぬ程でもないようだ。

 くっそ頑丈な生物だなコイツ。

 

 赤点はもうかなり近い。散開し、おいらを囲むように急接近している。

 更に雷撃の連撃。


 落雷の激音がおいらの鼓膜を叩き捲くる。

 蛇ムカデクィムの動きが止まり、ぐらりと揺れると落下する感覚。


「うおっ、落ちる!」


『フッ君!飛翔魔法お願い』


 まだ慣れないおいらはフッ君に補助をお願いする。

 ちょいの間の後、多少落下速度が落ちたかなな感。


 ……重い! 落下は止められないとフッ君から来た。

 落ちながらも蛇ムカデクィムはおいらを咥えたまま放さない。


「畜生、喰いしんぼうさんめぇぇぇ!」


 何度か何かにぶつかりつつも、物凄い衝撃音とともに地面に落下するおいらと蛇ムカデクィム


『おらー、押さえ込め!』

『『『応!』』』


 多数の衝撃があり何かしら押さえつけられてる的な感じで蛇ムカデ《クィム》が暴れる。


クィム蛇ムカデを完全に気絶させる! 猿!もう一丁雷撃行くぞ! 放て!』


 複数の空気を切り裂く雷撃音とともに衝撃が来た。


『ぐぇぇぇっ!!』


 汎用甲冑くんとフッ君はなんとか耐える。

 蛇ムカデクィムは激しい痙攣とともに動きを止めた。


『た、助かったのか』

『ほら、クィム蛇ムカデ気絶してるうちに早く出て来いよ』


 陸戦隊が、おいらの甲冑の肩や脚を掴むと蛇ムカデクィムの顎から引きずり出す。


 ずるりという感じでおいらは、牙から開放され、蛇ムカデクィムの涎とともに地面に放り出される。


 体を返し、脚を投げ出し、座り込み、ぼんやりした頭で廻りを見る。


「……ここ居住区画だよな」


 巨木の森である。

 巨木と言っても妙に幹が太く背は低め。


 よく見ると巨樹の幹をくり抜いて作られた家が沢山ある。

 洗濯物が干され、子供や爺婆が窓や欄干からおいら達を覗いている。


 子供達は大捕り物に大喜びで巨樹の家々を結ぶ木の廊下を走り回り、母親に窘められている。


 上を見上げると枝は多少折れてるものの家々への被害はほぼ無し。

 

「被害は無いようだな。良かった~」


 座り込んだおいらを覗きこんでいたテルルとごま塩頭のバリガ、その他三名の甲冑を着た陸戦兵が笑顔で頷く。


「怪我は無いかー、猿」


 テルルが少しも心配してない声音で聞いてくる。


 まぁ汎用甲冑くんからおいらの身体状況は送られているので大丈夫なのは判ってるからではあるんだが。


「皆様ありがとう」


 おいらは皆を見回し頭を下げる。

 大見得切って勝負挑んで、獣に齧られて敗北とかみっともないが、おいらは三下!

 なんともないぜ!……とは言うもののちと恥ずかしい。


 頭を下げると兜部分から蛇ムカデクィムの涎がだらりと流れ落ちる。


「コリャ酷い、涎だらけだ」


 ひと段落ついて面頬を上げた、陸戦隊の皆様はおいらを見て大爆笑。

 手元を見ると涎が小手の廻りから垂れる。


「あー、洗うの大変だなこれ」

「洗うのよりこっちだろ」


 テルルが指を翳すと、軽く火魔法で炙って来た。


「ちょ、おまっ」

「水で流すより、焼いた方が早い」


「掃除用の粘性生物って手もあるけどよ、ちょいと時間掛かるんだがよ。耐えるんだがよ」


 諦めろみたいな感じでバリガ。


「水じゃ駄目なん?」


 火で炙られてるというのが感覚的にいやんなおいら。


「水引っ張って来るの面倒じゃん」


 ……昔見た娯楽映画の描写のように魔法で水プシャーって出せる訳でもないのね。

 おいらは座り込み、テルルに良い感じに炙られる。



『汎用甲冑くん、フッ君、助かったぜ。ありがとうな』


 両方から誇らしげな意思が流れ込んで来た。


「猿くんは大丈夫のようだね。良かった」


 メリッグ副隊長が追いついて来たらしく、声が聞こえて来た。

 樹上から降り軽やかに降り立つ。


 すぐに面頬を上げ、おいらに、済まなそうに謝って来た。


「猿くん、御免!本当に御免ね!」


 模擬戦とは言え大事になった責任を感じてるらしいメリッグ副隊長、流石だなぁ。


「いや、大丈夫だったし、メリッグ副隊長のせいじゃないっす。おいらが間抜けなだけっす」


 おいらが返す横。


「まぁ、猿が間抜けなだけなのは確かだ」


 テルルさん、やかましい……とも言い切れないのが悲しい。


「あー、プニプニテリッケテリッケ、酷い事になっちゃて……え、猿くんの魔力が余りに美味そうなので理性が飛んだって?駄目じゃん。再訓練だねぇ」


 再訓練との言葉に蛇ムカデクィムが哀しそうな声をあげる。


 メリッグ副隊長は蛇ムカデクィムと会話しながら腕の回復魔法陣を発動させ、蛇ムカデクィムを回復させ始める。


「ちょ、メリッグ副隊長何やってるんですか」


 テルルが慌てた声。


「回復だよ。この子、僕の使い魔」


 ……


「「「え!!!」」」


 陸戦兵達もおいらも驚く。


「じょ、冗談ですよね」


 テルルが酷く驚いてメリッグ副隊長に問い返す。


「いやいや、本当、可愛いでしょ」


 槍というか五本の刺す又で地面に蟲の標本のように縫い付けられ、雷撃によって所々炭化して煙を上げている蛇ムカデクィム


 なぜか可愛らしい声を上げ、メリッグ副隊長の甲冑に擦り寄っている。


「メリッグ副隊長が変な獣を使い魔にしてるって噂だがよ、本当だったんだがよ」

「使い魔ってもコレは無い!」


 テルルがビシッと蛇ムカデクィムを指差し叫ぶ。


 コレは無いってのは分かる……がシュイシュイってヤバそうなの使い魔にしてる人も居たしなぁ。


「しかも名前プニプニテリッケテリッケとか、甲殻無茶硬いじゃん、魔獣系じゃん!」


 テルルが脚を踏み鳴らす。

 余程、テルルが想像するメリッグ副隊長の使うべき使い魔の印象と違うっぽい。


「こいつ、手の平に乗る頃は甲殻も柔らかくてプニプニだったんだよね」

「今は甲冑着てブン殴ってもヒビ一つ入らないじゃん!」


 テルルが蛇ムカデクィムをブン殴るが全く気にした様子もない。

 メリッグ副隊長の抗議と他甲冑兵の野次に廻りを囲む子供達は大興奮の大騒ぎ。

 元気の良い子は蛇ムカデクィムに本当に硬いかどうか確かめる為か、拳を入れて余りの硬さに蹲っている。


 そんな喧騒の中、おいらにカーナからの念話が入る。


『猿!喰われたのか、大丈夫か!』


 ちょいとパニくってる感じのカーナ。新鮮である。


『大丈夫っすよ!怪我ひとつないっす』

『そうか!良かった。すぐ其方へ行く!』


 安心したようだが、かなり心配そうなのが念話ゆえに伝わって来る。


 カーナの位置を示す赤点が、艦内を物凄い速度で移動してこちらへ向かっている。

 え……まさかカーナさん?

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