62話 おいしく頂かれる猿と汎用甲冑くんの頑張り。凄いぞ汎用甲冑くん。


 巨木と言うべき大きな樹の柱を登りきり、太い枝を猿のように四足で駆け抜ける。

 樹の枝で遮られ、下のメリッグ副隊長からは死角のはずだ。


 樹の枝は組まれてはいるが、曲がりくねっており、天蓋部分は二階分くらの隙間がある。


「これなら結構動ける!」


 おっしゃと小さく拳を握ると、おいらは入り組んだ太い枝の傍で、中腰で立ち止まり辺りを観察。


 上を見ると格子状に天蓋を支える樹の枝の隙間から、満天の星空と淡い障壁の輝きが見える。


 無茶綺麗である。


 天蓋から下へ注ぐ陽光にも似た照明というか光りは、枝の下部辺りから発せられてるらしい。


 枝からちょと離れた位置で発光している。

 が、指向性があるのかその上の位置に居るおいらはそこまで眩しくない。


 体育館の天井に登って照明を横から見ている感覚だな。

 まぁあれよりも眩しいけども。


 下を見ると、柱の下のクッソ広い広場の人達が小さく見える。


「結構人居るけど、兵隊だけみたいだし、ここなら大丈夫だな」


 広域念話で模擬戦の伝達あったから危ないなら対応してるはず。

 フッ君から軍服着てれば、落下物くらいは障壁でなんとでもなると情報が来た。


 細胞内に描き込まれた防護魔法陣でなんなら素でもなんとかなるらしい。まじかよ。


「なるほどねぇ」


 陸戦兵らしきやつらが格闘やら魔法やらの訓練をしている。


 魔女達も訓練しているのか、遊んでるのか微妙な感じで、甲高い声で楽しそうに上下左右移動しながら魔法撃ち合いをしている。


 魔女部屋で魔法でボコられかけたのを思い出す。

 訓練と遊びが同居してる感じ。遊びの中に周到に考え抜かれた戦術の動きがある。

 楽しく精強な軍を構築とか歴史の積み重ねを感じるっす。


 メリッグ副隊長に目を向けると登攀している最中。

 下から攻撃続けるだけかもとも思ったが、そういう事はしないようだ。


 メリッグ副隊長に仕掛けるにはちと遠いし、近づいて魔力手の射程に入る頃には登り終わっているという微妙な位置。


 ……さて、どうするか。


 おいらは思考に沈む。


 ……と、おいらは上のから何かの気配を感じ上を見上げると……

 赤黒い、人を丸呑み出来るでかさの口らしき代物がおいらの頭上至近に見え……


 物凄い衝撃がおいらを襲い視界が赤黒い代物に覆われる。


「な、何ぞこれ!」


 とともに、視界が奪われ、甲冑を左右に激しく揺らされ、ガリガリと甲冑の障壁を齧るような音が!


 甲冑内に獣や鳥の悲鳴に似た、激しい警告音が響き渡る!


「え?」


 甲冑への鉄の棒のようなもので突いたような激しい激突音!

 フッ君から緊急警告というべきものが来た。


 『喰われた!!!』……と


「え!?」


 ぐんと、大きく持ち上げられる感覚の後、左右に大きく振られ、近くの枝に大きな激突音とともに叩き付けられる。


「ぐえぇぇっ、蛇ムカデかぁ!」


 ……正解ィィィ、とフッ君。

 半精霊だからかフッ君もこの事態に動揺している!


 枝に何度も叩き付けられ、おいらへの衝撃はかなり吸収されてるとはいえ、中々の物。衝撃においらは悲鳴をあげる。


 軋む音とともに汎用甲冑くんが悲鳴に似た感情を伝えてくる。


 ……さようなら、少しの間だけど楽しかったです……そんな感じの。


「おいこら、諦めるの早いって」


 前後左右、更には上下の枝に叩き付けられ、甲冑の中で気絶しそうなおいら。

 鉄の棒のようなもので突いたような激しい激突音も激しくなる。


 喰われてるはずなのに何の音やこれ? 


 一瞬浮かんだ疑問にフッ君が甲冑内左上に半透過の資料映像を映してくれる。


 甲冑兵を捕らえた蛇ムカデの口の中からギザギザの銛のようなものを何度も撃ち込み鎧の隙間を抉ると、もの凄い悲鳴と血飛沫ががが……


 文化の違い!モザイク無しのガチ映像!


 嫌ぁぁぁ!


 おいらは上から噛み付かれ、クッソ振り回されながらも、魔力を汎用甲冑くんに流し捲くり、障壁へ転用しろと意思を送る。


 了解との意思が来て、即、障壁が強化されたぁ!

 淡い輝きが目に見える程強くなる。


 この間に魔力手を展開して内蔵を抉る!


 フッ君は甲冑をすり抜けるように両手に魔力手を展開する。


 非物質の薄っすらとした手元から、鞭の如く伸びた先には小型の熊手状の物質化した硬質の輝き。


 魔力手は本来なら物を取る程度だけんど、おいらの魔力量のゴリ押しで武器にも使える優れ物だ!


 「行くぜぃぃ!!!」


 ……が、甲冑の障壁は思いの外硬く頑丈なのにいらついたか、蛇ムカデは狂乱したように天蓋の上の太い枝の上を奔り始める。


 勿論甲冑を叩き付けるのは忘れてない。


「うがががが!」


 移動の振動に物凄い速度で振り回され、魔力手を展開するも上手く口の中へ差し込めない!


『何喰われてるの、猿くん!!!』


 焦ったようなメリッグ副隊長の念話が来た。


『あー、模擬戦は一旦中止ですねー』


 突然視界の中でメリッグ副隊長を示す印が表示される。


『中止というか負けっす! 負け、負け!喰われた訳だしししー』


 ガンガン振り回され、叩き付けられながらおいらはファナ艦長に突っ込みを入れる。


クィム蛇ムカデ捕獲の陸戦隊送りますから、それまで頑張って下さいねー』


 へー。クィムって言うんだ、蛇ムカデ……まぁおいらの脳内で蛇ムカデと呼ぶけどさ。


 メリッグ副隊長が結構な速度で迫って来たが蛇ムカデクィムおいらを咥えたまま、艦尾方向に向かって逃げるように天蓋の枝の上を走り始めた……ようだ。


 上から喰い付かれ、胸の部分まで蛇ムカデの口の中なので視界は無い。


 目を凝らせば見える……か?

 おいらに時々発現する妙な視界に期待した……が


「何も見えねぇぇぇ!」


 視界を塞がれた状態で持ち運ばれる妙な浮遊感が気持ち悪いっす。


 かなりの速さで移動してる感がある。


 移動始めたので叩き付けも、口内錐でのどつきも収まったのでおいらに少し余裕が出る。


 これって巣に運ばれてるって事かな……巣についたら美味しく頂かれ……


 フッ君に見せてもらった美味しく頂かれている動画の甲冑兵の姿が脳によぎる。

 ……首玉機能あるから大丈夫! 命は保証!


 とフッ君と汎用甲冑くんが伝えて来た。


 ……ちなみに喰われると言うより、銛のような口内顎を体内に突っ込んでで中身を吸い出されるらしい。


 下手に空気を読まず情報を伝えてくれるのは有り難い。何も知らんよりは対応策練れるだけマシっす!


 運ばれてるだけの状態になっているので、おいらも動ける余裕が出ている。


 口の牙だけでは、甲冑の障壁と装甲を貫けないっぽいが、口内銛はそろそろ

ヤバイっぽい。

 そんな感じの情報が汎用甲冑くんから来た。


 おいらの魔力で障壁をかなり無理して過剰出力してるっぽい。


 甲冑からヤバげなな唸り音や臭いももしている。

 汎用甲冑くんを構成する複数の魔法陣が焼き切れそう……とフッ君。


 汎用甲冑くんが魔法陣が焼き切れると恐らく復旧不可能な損傷とも伝えて来た。


 汎用甲冑くん……


『無理すんな、最悪おいらは首玉になっても魔法で回復するけど、壊れたら廃棄だろ、君は』


 口内銛で甲冑貫かれても喰われるのはおいらだけ、首玉になれば復活できる。

汎用甲冑くん魔法陣が焼き切れたら修理不可能。どちらを優先するかは明白だ。


 大丈夫、壊れたらまた何かに戻るだけ……と汎用甲冑くん。


 半精霊にとって取り憑いた物が壊れるのは死とは違うらしいが、悲しいには違いない感覚は伝わってくる。


「諦めんな!」


 汎用甲冑くんは自分の意思も思いも十分にある。三下なおいらの為に壊れるなんて許されねぇんだよ!


 おいらは甲冑の手を顎の上下に差し込み、更に魔力手を使って口蓋を開かせようと、力を入れる。


「びくともしねぇ! 甲冑喰いは伊達じゃねぇってか!」


 ならばと、肩の魔法筒に魔力流し、起動しようとしたが、起動に、円筒がせりあがる必要があるらしく、蛇ムカデクィムの口内でつっかえて起動しない。


「ならば!」


 おいらは気合入れて更に魔力手に魔力を注ぎ込み超硬質化する。

 魔力手がなんかヤバそげな感じになった気がする。


 おいらは噛み付いている口の隙間から魔力手をつっこむ。


「口の中、ぐちゃぐちゃにしてやんよ!」


 蛇ムカデクィムの口の中を魔力手で無茶苦茶に引っ掻き回す。


 が、魔力手は刃物じゃない。隙間の落ちた物を取るための代物で、どちらかっつーと、孫の手に近い代物。切り裂くまでには行かない。


「畜生、頑丈だなっ! 甲冑に齧り付くような化け物の口内はよっ!」


 蛇ムカデクィムに頭から齧られ、上半身は口内、下半身は外の間抜けな状況でおいらは地団太を踏む。


 と、口内銛が強烈な勢いで甲冑に叩き付けられる。


「嫌がる程度には、傷はつけられたみてぇだけど、これ逆効果ぁぁぁ!」


 移動の為収まっていた、口内銛の鎧への打ち付けが再開した。


 ……さようなら……楽しかったです……と汎用甲冑くん。


「諦めるの早ぇよ、兵器だろお前!」


 フッ君も同意の意思。


「ぐあああぁ、汎用甲冑くんにこれ以上無理はさせるかぁぁ!」


 おいらは全力で口内銛を魔力手で押さえつける。

 物凄い力で打ち出される口内銛を必死で白羽取りのように全力で掴む。


 無茶暴れる犬を抱える感じで、押さえつけるのは無茶厳しいが、甲冑へ打ち付ける衝撃を緩和することには成功する。


『猿くん、まだ喰われてないようだね。多分、巣に戻るまでは喰われないから』

『多分って……絶対って言って下さいよ!』


 メリッグ副隊長の苦笑が伝わってくる。


『あと口内の銛みたいなのは絶対触っちゃ駄目だ。反射運動で強烈なの来るから貫かれちゃうよ』


 ……


『もう掴んじゃってますよ!』

『え、掴んじゃったの? 何で生きてるの、猿くん』


 ……まじかー!


『汎用甲冑くんが、過剰出力で障壁頑張ってるからっす!』


 暴れる犬の如くの口内銛を魔力手で挟みつけ押さえ込みながらおいらは念話で叫ぶ。


『そんな性能、汎用には……あー、猿くんの大量の魔力使ってるのか、了解した』


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