61話 猿は樹に登る!

 多分メリッグ副隊長とはまだ距離がある。

 地図に映る互いの印は模擬戦始まった時に消されているから互いの位置は判らない。


 おいらが遮蔽円盤が察知出来て何でメリッグ副隊長が察知できない理由はわからんす。

 ……それはそれとしてこの人外じみた察知能力は、おいらは本当においらなのかという不安をもたらす。おいらこんな力、召喚前は無かったしな。


 召喚に関与したであろう神格の翡翠様は慈愛の神格らしいし、召喚時に、おいらを改造するにしても酷い事してはないハズ……してないよね……してないと良いなぁ……。


 考えても無駄、無駄、無駄ぁ。

 便利だし気にしない気にしない。


 深呼吸でちょいと乱れた心を落ち着かせると、おいらはこそっと素早く四つんばいで動く。


 おいらは素早く、食堂に侵入、卓の下を猿の如く駆け抜ける。


 気づかれたのは飯を食ってた数人。拳を甲冑の口辺りの部分を押さえ、静かにし

 てくれと頼むと、ぎょとした人は了解したように頷いてくれた。


 ありがてぇ。

 調理済みの料理が陳列してある棚へ中腰でおいらは侵入。


 おいらに気づいた人達は何が面白いのか、料理を噴出しそうになって笑いを堪えている。


 当たり前の話だが、甲冑着たまま、食堂で飯喰う奴は居ないらしい。

 おいらの世界に当て嵌めると、自動二輪で定食屋に入るようなものなのかもしれん……そう考えるとやべぇ。


「昼食の時間帯でなくて良かったな。料理を取って卓へ向かう人も居ないし」


 料理棚の下でおいらは一息つく。


『フッ君、どれ取れば良いんだ?』


 豆に調味料を混ぜこんだような料理が良いと来た。

 映像がポンポンと視界に置かれ説明される。


 購入は料理皿の横にある、手の平くらいの大きさの魔力缶へ魔力流し込めば支払いになるらしい。


 指先かざせばフッ君が先ほど吸った魔力を流すそうだ。


『おいらが直接流すのは駄目なん?』


 適量流すのが難しいらしい。

 皆も魔力貯める魔導具に貯めてから使うんかな。


 肯定の意思が来た。

 魔力放出は体力磨り減らすので基本、お金を使うそうだ。


 疲れるのは嫌だもんなぁ。

 おいらはこれくらいなら平気だけど。


「魔力手で料理を取れないかな……」


 おいらは棚の下から目を凝らして調理済みの料理が陳列してある棚を透視しようとするが……


「駄目じゃん。見えない」


 おいらは溜息をつく。

 メリッグ副隊長は見えるというか感じるに近い。艦外のプリカは見えた。


 おいらの力は色々調べる必要があるなぁ。使おうにもどんなもんか判らんと困るわ。……そういやカーナもそのうち調べるとか言ってたよーな。


 ま、そのうち判るだろう……多分。

 おいらは左右を見てメリッグ副隊長が居ないか確認。


「確か調理人の人達が結構居たよな」


 驚かせないようにそーっと頭を出す。

 木漏れ日溢れる大樹の洞の中にある厨房って感じの綺麗な場所で五人くらいが料理の仕込みをしている。


 ちょい奥に居た調理人のおばちゃん達ががおいらに気づく。


「あーれ、模擬戦を艦内でやる馬鹿がこんな所に来たよ」


 軍服の上に白い貫頭衣を着た恰幅の良いおばちゃんが仕込みの手を止め大笑いしながおいらを見る。


「ここで戦うのかい、厨房に障壁張った方が良いかね」


 細いけど強そうな骨太のおばちゃんも何か球体型の鍋で何かしている手を止めおいらに問うて来る。


「あ、いやちょとこれ買うだけでここでは戦いませんっす」


 素早く立ち上がり、料理が置いてある棚の上のフッ君御指定の使い魔達への賄賂になる豆料理をスコップみたいなもので掬い取る。


 揚げた感じのお菓子みたいな豆だ。


「持ち帰るんなら、横の木箱使いな。買い食いとかあんた模擬戦中なのに余裕だねぇ」


 横に持ち帰り用っぽい小さな木箱が置いてあるが、汎用甲冑くんが腰後ろの収納容器にいれればと伝えて来る。


 まぁ木箱持って登攀は厳しいよなと。


「木箱は甲冑に収納あるみたいなんで大丈夫っす。」


 恰幅の良いおばちゃんはおいらの取った豆料理を見ると


「ああ、そういう事ね」


 と、言い上の天蓋を見上げる。

 取った豆料理を何に使うか理解したらしい。


 と、フッ君が魔力支払いを完了を告げる。


「飯、今度喰いに来ますんで」


 手を上げおばちゃんに挨拶するとおいらは天蓋に伸びる巨大な柱の如く生える樹々に向け、物陰に隠れつつ移動を開始する。


「ああ、何時でもよっといで」


 おばちゃんは体を揺らして笑顔で送ってくれた。

 ……と


「上は危険な獣も居るから気をつけるんだよ!」


 ……と大声で物凄い情報を教えてくれた。

 え、ここ艦内だよね。


 危険な獣放し飼いとかまじか!


『フッ君!』


 おいらの要求に、おいらの視界の端に樹に巻きつくムカデのような大蛇のような何かの映像が来た。


 クィムという獣らしい。蛇とムカデだな。おいらの中での呼称は蛇ムカデに決定。


 艦の記憶水晶に接続したのか映像が来た。


 熱帯っぽい森の中、甲冑兵が締め上げられ、こじ開けられ中の人が喰われ、悲鳴が続く短い映像記録が……文化が違うからか、モザイク無しのガチ映像!!


「うげっ!まじかよ!」


 危険な獣どころじゃなかった。甲冑と互角とか生物兵器やん。シュイシュイみたいな艦内に侵入した対陸戦兵用っぽい。


 巨大鮫うつぼのシュイシュイもそんな感じだって言ってたし。


 ちなみに映像で喰われてた甲冑の中の人は体は喰われたが首玉になって医療鞘行き。生きている模様。首玉は無茶頑丈と理解したっす。


 しかし、トラウマだろうなぁ。

 生きながら喰われた感じだしって、上やばいじゃんよ!


 ……と、フッ君から豆料理出せば大丈夫と来た。

 一応、軍服の識別魔法で襲わないらしいが、所詮獣、用心するに越した事はないとのこと。


 中央広場を取り巻くように等間隔で上に伸び、天蓋を支える巨木の下に到達。

 上を見上げるおいら。


 巨木が伸びる先に天蓋がある。

 どう考えても戦うならあそこだよなぁ。でも蛇ムカデ居る……

あーもう。艦内の事もっと調べておくべきだった。


「どうしよっかなぁ」


 まぁ考えても仕方ねぇ。一矢報いるにあそこが一番と決めたんだ。行くしかねぇ。

 兄貴なら間違いなく突っ込んで行く。


 ……と。


 何か来る!


 妙な感覚がおいらに来た。

 見えてる訳でもないけんど、即、回避運動をする。


『買い喰いかい? 余裕だねぇ』


 メリッグ副隊長の念話とともに遮蔽円盤が来た。


 メリッグ副隊長の念話が終わらないうちに遮蔽円盤がおいらの居た空間を切り裂き楕円を描いていずこかへ飛び去る。


『今の避けるー? 手加減して速度落としてたとはいえ、ちょと凄いね猿くん。見えてたの?』


『見えては無いっす。感じたって所ですかねぇ』

『うーん、探知魔法の類かねぇ。でも少し違うね』


 回避運動から、直ぐに先ほどの巨木の柱に取り付き、猿の如く登攀し始めるおいら。


 先ほど見上げた時に足場や手がかりは頭に入れたから避けながら登攀も問題ない。



 メリッグ副隊長は喋りが元の余裕こいた感じに戻っている。艦長の煽りから回復したらしい。


 冷静さを欠いた状態の方が勝ち目あるんだけどな。

 勝ち目と言ってもおいらの勝利条件はメリッグ副隊長に接触することだけだけども。


 感覚を澄ますと、樹の柱二つ分向こう辺りにメリッグ副隊長の甲冑らしき影あり!


「結構遠い!……が、やられずに登りきれる……か」


『妙な所へ逃げるねぇ』


 大樹を素早く登るおいらを、宙を舞う遮蔽円盤が連続で襲う。

 おいらは座標固定障壁も使い、上下左右、狙われないように動きつつ猿の如く登攀。


 おいらが居た場所の樹の幹が遮蔽円盤で削り取られ破片がおいらの眼前を飛ぶように散っていく。


 樹の柱の周りは人が居ない。

 人に当たる心配もない。


 遮蔽円盤だけでなく、魔法筒の火炎と雷撃が大樹の幹にこれでもかと着弾する。

 こいつらは速いので避けようが無いというかぶっちゃけ回避は運だ。


「……やべっ、メリッグ副隊長、ちょと本気入って来たかっ!」


 おいら回避し捲くりだもんな。

 軍人さんがすぐムキになるのはこっちの世界も同じらしい.


 火炎と雷撃、遮蔽円盤が全開でおいらを狙う。

 爆炎と、破片が舞い散る!


 が、もう遅い!


 天蓋に辿りついたおいらは、クッソ太い、天蓋を形作る枝の上へ降り立った。


 そして枝の上を猿のように疾走する。

 武術修めてた仲間と山に篭って修行したのを思い出すぜ。


 あん時もこんな感じで樹の上を飛び回ったなぁ。

 ……落ちて大怪我して、熊に喰われかけたけど……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る