60話 秘密基地に最適の場所。魔女達は自由っすね。
おいらは右舷甲板の壁を登る。
甲板の壁っても、密集した樹なので軽々登れる。
目的地は最上部にある広場、さらに上の網目状の枝の天蓋、宇宙が隙間から垣間見える天井部分。
艦内を観察してて判ったんだけんど、最上部にある広場は空間的には甲板と繋がって居るんだよな。
天蓋は障壁魔法で覆われ、巨大な居住区画を細長い御椀の如く被さるようにある。
そして天蓋は、大きな樹や枝が立体的に網の目のように連なる代物。
天蓋には甲冑が動き、隠れるには十分な立体的な空間もあるってことだ。
あそこでやり合うなら、メリッグ副隊長も流石に馴れてないだろう……とおいらは予想する。
まぁおいらも、あんな樹の枝の中でやり合うなんて経験は無いけんど、立場は一応対等になる。
十数階建ての高層建築並の高さの壁を構成する樹の幹の上から見る右舷甲板は遥か下に見える。
「宇宙では何てこともない距離なんだが……」
下を覗くと、高くて無茶怖い。
なんかこう、くらっと来て脚が竦む。
汎用甲冑くんから甲冑着用してるから落ちても怪我もしないよとの意思が来たが、怖いものは怖いんよ。
飛竜さえも小さく見え、人間なんか豆粒のよう。
おいらはメリッグ副隊長を警戒し、樹々の隙間に見つけたちょとした窪みに身を隠しつつ左右を見る。
壁樹の幹だから少なめではあるが、小枝に青々と茂る葉がちょこちょこあり、上からの昼前の日差しのような強い光に照らされ、綺麗だ。
樹々の小枝の作り出す小路にちょとした窪み。
「なんだろうこの秘密基地を作りたくなるような空間は……あとでそんな感じの場所作って良いか聞いてみよう」
木漏れ日の中、樹の洞に体を預けつつ本でも読む。良いねぇ。秘密基地万歳!
良く見ると、使い魔らしき動物達がちょこちょこ居る。
巣というより集まる為に、ちょとした窪みを使ってる感じだ。
「まじかよ。秘密基地やん」
羨ましいわー。
魔女とかも秘密基地作ってそうだなぁ。戦闘用じゃない箒でちょこちょこ艦内飛んでるもんな。
そう思いつつ辺りを見回してみたおいら。
……居たわ。
教室五個分くらいの距離で、数人で樹の幹と枝と生い茂る葉で下から見えないちょとした空間でお菓子を頬張りながらくゃちゃべる歳若い魔女達が。
向こうもおいらの視線に気づいたらしい、お菓子にかぶりついたまま、ちょと固まっている。
多分怒られる場所なんだろうなぁ。壁は。そんな感じの反応。
魔女隊の部屋みたいに悲鳴を上げる訳でもなく、口元に親指を当て片目を瞑ってくる魔女達。
秘密にしといてねな動きだとプリカに習った奴だ。
おいらも同じ動作で頷きつつ了承すると、安心したようににこやかに笑うと手を振られた。
手を振って。登ろうとした時においらは足を滑らせた。
「……あ!」
樹の幹から落ちた。
魔女達の驚きの表情が視野に焼きつく。
菓子を口に咥えてた娘は驚いた拍子に菓子を落とす。
余り気にも留めてない娘も居る。
『フッ君!』
思考の繋がりの妙!
一瞬で意思が伝わり、甲冑下方のに座標固定障壁が展開、落下を阻止。
障壁融合設定でないので、少し斜めに展開された障壁の上を滑り落ちるが、何度か滑り落ちては座標固定障壁を展開し安定した。
おいらはこそこそと近くの樹にしがみ付き壁へと戻るも……
恥ずかしいわー。
なんという間抜け。
上から、見下ろして魔女達が騒いでる。
遠くて何か言ってるかわからないが、汎用甲冑くんが音声を拾ってくれた。
「飛翔魔法陣何で使わなかったのー?」
飛翔魔法陣は展開に時間が少しだけ掛かるからなんだが……
座標固定障壁は一瞬で出せるし。
落下の慣性を飛翔魔法で吸収し切れるかの判断もちょいある。
浮かぶ前に甲板に衝突の可能性も結構ある。
おいらは思考を纏め、集積念話で送る。
ちなみに念話は拒否も出来るが、相手はおいらからの念話を受け取ってくれた。
「きゃっ」
……なんぞ?
悲鳴、そしてちょと仰け反る彼女。
『集積念話とか戦闘時か非常時くらいだよ!』
注意された。おいらは樹に移動しつつ兜を傾け疑問系な動き。
『一気に情報来るから、いきなりだと危ないんよー』
『でも、一瞬で思考纏めて送れるとか凄いじゃん、竜騎士狙える!』
『いや、それは無理じゃない』
きゃいきゃい姦しいが、集積魔法は普段使いは余りしないのか。
戦闘時はそれなりに使ってた気もするが、気を張ってるから大丈夫って奴なんかな。
確かに作業中とか一気に情報来たらちょと危ないもんな。
『一つ利口になったっす! なるべく使わないようにするっす』
おいらは拳を兜の額の位置にあて挨拶すると、壁をよじ登るのを再開する。
『なるべくなんだー。理屈っぽいんだー特異点くん』
理屈っぽい奴は集積念話を多用しがちらしい。念話にもちょこっと混ぜて来た。
なるほど、理由説明に便利だもんね……納得の理由。
『男は理屈っぽいやつは駄目よね』
『小煩いもんね』
……やかましい。
『広域聞いたよー模擬戦だって? メリッグ副隊長とか相手凄すぎだけど、とりあえず、頑張ってー』
『『此処で駄弁ってたの秘密ねっ、あと頑張れ』』
『うぃす、ありがとうっす。あと念話切るっすよ』
お菓子を食べてた娘は手を振って応援って感じ、その他二名は適当な感じで手を振ると元の場所に戻り菓子に手を伸ばしている。
なんにしろ自由だ。一応軍艦だよな此処。とても居心地が良い。おいらに合ってるわー。
軽く下を見ると粘性生物が落としたお菓子を処理している。
「働きものだねぇ」
艦内はあれのおかげで何時も清潔である。
そういえば落下したときは魔力手使えば良かったか。いや、障壁と併用すべきか。
などと適当なことを考えつつ登攀を再開。
最上階は細長い台地状の広大な広場を取り囲むように太い幹の樹がほぼ等間隔で天蓋へと伸び、柱のように樹の枝で乱雑な格子状になっている天井を支えている。
地図みると、広場の廻りは幅は倍の校舎くらいの高さの居住区画で囲まれた感じになっており、巨大な蹄鉄型。
屋上部分は公園や、飲食区画だ。おいら達が前食事に来た場所だな。
太い樹の幹に沿って巡らされた手すりから、辺りを覗く。校舎の屋上めいた公園だ。
「誰も居ないな」
おいらは手すりを越え、手を付き四つんばいになって素早く樹の幹に隠れ、樹の幹に甲冑を寄りかからせ座って一息つく。
「誰にも見つかってないな」
模擬戦の広域念話あったので、おいらが此処に居るとかの念話をメリッグ副隊長にする人は居ないはずだが騒ぎになれば別だ。居場所がバレる。
「メリッグ副隊長はいずれ此処に来るとは思うんだよな。広場だし、甲板で戦わないならおいらが此処で待ち構えると予想するはず」
まぁ広場とは言ってもその天井で戦う気な訳だけどな。
太い樹の幹を登ってる間に狙われるとさすがに遮蔽円盤を避けれない気がする。
視界の通る場所なら魔法筒による雷撃もあるか……
おいらは狙いの障壁魔法で覆われた天蓋部分を見て動けるか確認する。
予想通りいける!
障壁は樹と枝で組まれたような大きな格子状の天蓋の上にある。
居住区画を覆う蓋みたいなものと言っても良い。
そして枝や樹の幹で構成されている性質上、枝や樹の幹の捻じれ等で2階建ての家くらいの高さの隙間がある。
「メリッグ副隊長も、流石にあそこでの訓練は経験してないだろ」
と、フッ君からあの辺りは使い魔達のねぐらも多いから、食い物持って行った方が良いとのこと。汎用甲冑くんも似た感じの意思を伝えて来た。
ご機嫌を損ねるのは色々不味いらしい。
「えっ、おいら金持ってないぞ」
おいらは公園の少し先にある広い食堂を視界に入れる。
飯時でないからか、それともおいら達の模擬戦に巻き込まれたくないからか、余り人が居ない。
この前の飯はおごりだったから金払ってないんだよな。
カーナが支払いみたいな事はしてたからタダじゃないはず。
と、フッ君が支払いが出来るらしい、金だけでなく、魔力払いみたいな事も出来るようだ。
魔力を指先に集めてくれとフッ君。
「魔力流せば良いんかな」
肯定の意思が来た。
指先にふんぬと集めると魔力がフッ君に吸われる感覚、スプイーの時に味わったあれだ。
全然軽いけどちょとイヤンな感覚。
ついでに多少汎用甲冑くんにも魔力流したらしい。
なんか驚きと喜びの意思が伝わって来た。
おいらの魔力は美味いらしい。
まじかよ。
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